そのみさん

今日はそのみさんに逢いに行きました。
 昨日高校の修学旅行から戻ってきて、
「沖縄との気温の差がきついです~」
 と言っていました。そのみさんは大川小学校の時に僕のステージを見ています。あの時は大川中学校に、大川小学校の高学年が集まってくれて合同のステージでした。
 雨の日で、北上川があふれんばかりだった事をよく覚えています。2008年の11月の事でした。
 そんなそのみさんは今高校2年生です。
 そのみさんの妹はみずほさん。
 大川小学校の6年生でした。そして津波で亡くなりました。
 お父さんは敏郎さん。女川中学校の国語の先生で津波に向き合うべく、短歌を詠んで本にもなり、NHKの番組にもなりました。お母さんはかつらさん。中学校の美術の先生でした。
 我が「地球のステージ」理事の青山先生とは渡波(わたのは)中学校時代に一緒に働き、荒れていた渡波中学校を見事に蘇らせた、そのチークワークの良さから、
「いつかまたこの教員チームで、一緒の学校で働きたいな!」
 と毎年集まり、それぞれが別の学校に勤めながらもいろんな悩みや希望の話で盛り上がってきました。そんなかつら先生を迎え入れて、もう一回みんなで集まれる日がくるようにしたい!青山先生が語ってくれました。
 敏郎先生は今日はバレー部の練習試合でしたが早く帰ってきてくれて、親子3人と友に映画「ふしぎな石」を見ました。と言うか、見てもらいました。
 みんなみずほさんを失ったご遺族です。ものすごく緊張しました。もしかして、こんなに大切な人たちを傷つけたらどうしよう・・・。そう思いながら映画は進んでいきました。
 小齋さんのシーン、お母さんのかつらさんが目頭を押さえられました。ぐっと緊張しました。
 そして丹野さんのシーン。かつらさんも、そのみさんも泣いています。
 そして天の声のシーン。かつらさんの涙が多くなりました。そのみさんもずっとティッシュを目に当てていますが、ちゃんと見てくれています。
 映画はエンディングのテロップとなり、ついに「完」となりました。誰も動きませんでした。ぼくが「ありがとうございます」と言っても、誰も動きませんでした。そして敏郎先生が、
「そうか、これなんだな。よくわかった。」
 それは、こうやって向き合うという方法があるのだと言う意味でした。
「文学や美術といった文化が持つ創造力。それが果たす役割は大きいってことだ。」
 敏郎先生にはもう説明しなくても伝わっていました。
 かつらさんに聞きました。
「辛くなかったですか?」
「辛くはなかったです。涙が止まりませんでした。」
「天の声は、どうでしたか?」
「私はみずほがいなくなってしまったとは思っていません。確かに身体はなくなったかもしれないけれど、魂というか、心はちゃんとそこにいると思うんです。だから、映画で伝えたい事は痛いほどよくわかりました。」
 
 今日は閖上中学校の遺族会の会議でもあったのですが、その中で丹野さんが言いました。
「私たち遺族は、子どもの声が聴きたいんだ。イタコでもなんでも良いから呼んで、口寄せしてもらって天国に行った我が子の言葉が聞きたい。その一心なんだ。」
 でも、実際には口寄せして亡くなった我が子の言葉は聞けていないのです。だから、私たちは創造力を持ってして「天の声」を聞いたのです。そのための映画であった事が、佐藤家のみなさんには伝わったようでした。
 そしてそのみさんに問いかけました。
「一緒に映画を創ろう。この大川を舞台に。大川小学校を使って。聞きたいみずほさんの言葉を紡ぎ出して、作品にしよう。」
 そのみさんは、大きくうなずき涙を流していました。敏郎先生が言いました。
「壮大な計画だな。これは、すごいものになるぞ。」
 シナリオはそのみさんに、そして監督は不詳桑山が。
 出演はすべて大川小学校のご遺族のみなさん。
 これからそのみさん、かつらさんとともにワークショップの開始です。どんなシナリオになっていくのか。来春撮影。5月には新作発表したいですね!
 そんなあったかい佐藤家との3時間でした。
 おばあちゃんが、またご飯を持たせて下さいました。
 そのおでんの、しそ巻きのおいしい事、おいしい事!
 みずほちゃんがいたら、とふと思う。でも、この佐藤家のみなさんと創造力を研ぎ澄ませながら、良い作品ができたら、今も後ろを向いてしまっている多くのご遺族が、被災されたみなさんが、少しでも前を向いて、一歩を進めていけるかもしれません。
 そんな、「心」のために・・・。
 そのみさん、いっしょに頑張ろう!
桑山紀彦

そのみさん」への5件のフィードバック

  1. この映画を観る日を楽しみに待っています。前へ前へと進む桑山さんたちに、ついていきたい…。

  2. 今度の映画はキャストの年齢があがるのかな?
    子ども達とは違った難しさと学びがあるんだろうなぁ…
    被災後、ひたすら踏ん張り続けた桑山さん。
    今は突っ走ってますね!
    応援し甲斐がありますよ。

  3. 大川小を舞台に物語が紡ぎだされるんですね。
    こうして人の心がつながっていくんだなと思いました。
    映画を楽しみにしています。

  4. 映画が言わんとした「真実」が評価されたということではないでしょうか。
    それにしてもなんとも素晴らしいご家族がいるもんですね。
    なんだか救われた気持ちがしています。

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