湯を沸かすほどの恋文

1月1日、豪雪の合間を縫って今年90歳になる母と一緒に近所の「辻が森天満宮」に出かけた時のこと。90歳になるというのに、しゃきしゃき歩く母ではあっても突然滑って転び、大腿骨頸部骨折を起こすと大変かと思い、雪道歩きは杖をお願いしました。

辻が森に着くと、よくあるように煌々と木がくべられており、そこで暖をとっていると母が、

「昔はこういう木の燃え残り(つまり炭のこと)を掘りごたつに入れて暖まっていたもんやなあ。」

と懐かしそうに言います。そして思い出したように、

「そういえば兄、英一が出征する時に、”俺は還ってこれんかもしれん戦場にいく。気持ちをここに残したままでは死んでも死に切れん“といって、それまで英一に届いていた恋文(ラヴレター)を部屋の奥から出してきたんや。

兄、英一はハンサムで、気立ても優しく働き者やったから、まあモテたもんでなあ、その手紙を全部燃やしたら、ヤカンの湯が沸いたんよ。すごい量の恋文やった!それを見てワシ(母)は本当に素敵な兄やなあ、と思ったんよ。」

母は微笑みながら語りました。

「そんな英一もなあ、テニアン島で玉砕して還ってこんかった。」

「いくつだったの?」

「18歳や…。」

 

そんな時代がありました。忘れてはならない語りを誰かが継いでいかないと切に思いました。

「地球のステージ」の演目の一つ「ゼロ戦と大地」に登場する中田稔はこの英一の2つ下の弟です。そんな兄たちをずっと見守ってきた母もこの1月16日で90歳になります。

長生きしてもらい、色んな話を聞き取っていかねば、と思ったお正月でした。

桑山紀彦

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