キリバスという国は、離れば離れるほど不思議と心に迫ってくる、そんな不思議な魅力があります。
この国には日本大使館やJICA事務所がないので、隣の国フィジーがキリバスを管轄するようになっています。その隣の国、フィジーにいていつも思うのはキリバスのことです。ある意味何もない国だったかもしれません。でもそれが故に心にしっかりと刻まれたこの憧憬の思いはなんだろう…。それはまさにミャンマーの小さな村「ミャッセ・ミャー」を思う気持ちに似ています。向こうは1000メートルの高地にある山の村。こちらは南太平洋に奇跡のように存在する珊瑚環礁の国。外見も環境も気候風土も全く違うけれど、どうしてこんなに思いが募るのか。それは人間が生きる原点がそこにあるからのように思うからです。
そんなキリバスから出ようと出国ゲートを通過して手荷物検査を受けたあと、何もない待合室で2時間以上待つことになった時、これは水がないとまずいと思ったので、思い切って出国のスタンプを押してくれたおばちゃんに、
「あの、ちょっと水を買いに行きたいんですけど、ちょっと出てもいいですか?」
といったら出国係官のおばちゃんは、
「しょうがないわね。パスポートは置いてってね。ちゃんと戻ってくるのよ!」
と僕をもう一度外に出してくれました。これってよく考えると「再入国」ですよね。すごいな~キリバス。頼めばパスポート置いて再入国させてくれて、水買いに行ってもいいんですもの。
ちなみに再出国したあとの手荷物検査では通常水は取り上げられます。
「え~!今買ってきたばかりなのに~!」
というと、今度は手荷物検査のおばちゃんが笑いながら、
「しょうがないわね。じゃあ、手荷物検査はいいからその先で飲んでて。その先の待合室には持って行っちゃだめよ。」
というので、X線機械の先で時々水を飲んでは時間を過ごしました。
これがキリバスという国なのでしょう。人の心がそこにある…。
ちょくちょく行けるような国ではないかもしれませんが、また訪れたいと思いながら飛行機が飛び立ちました。眼下に見えてくるのは見事な珊瑚環礁群。一つ一つの島に名前があり、人が暮らしています。まさに南太平洋の真珠のような国でした。
桑山紀彦