アマノノさん

アマノノさんは寡黙でいかにも職人という感じの人物です。

陽気なキリバス人には珍しい控えめなところがありますが、ことコンポスト(たい肥)づくりについては誰にも負けない気持ちがあるのでしょう。しかし、この国ではたい肥作りに高い評価をする人は滅多にいません。それはある意味ゴミを発酵させて作るという汚れ仕事だと見る人がいるからです。

しかし、そこに協力隊の成美さんが入って状況が一変します。役場職員を説得してそれまでは「片隅」感が強かったベシオの役場の一角にちゃんとした「コンポストエリア」を形成し、質の高いたい肥作りを共に目指しました。そして広報に力を入れ手口コミではありますが、できあがった高品質のたい肥を売るという方策にでます。するとゆっくりだけど、アマノノさんの技術力を認める人が出てきました。これは成美さんが入らなかったらできなかったことです。

国際協力の分野で盛んになってきている「環境保全」という分野には大きく「グリーン系」と「ブラウン系」があるのだと成美さんが教えてくれました。グリーン系は森林保全や土壌改良と言った分野。そしてブラウン系はまさにゴミ問題とその一つの解決策であるたい肥作り。キリバスではこのブラウン系を中心に展開していますが、そこでも大切なものはやはり「人材」です。

アマノノさんは役場に雇用されている人物ですから、お給料は基本定額です。どんなに頑張ってもお給料が増えるわけではありません。だから協力隊が来てあれやろう、これやろうと言えば当然、

「なんで仕事を増やしてまでオレがやらねばならない?」

と思っても不思議ではありません。しかしアマノノさんはやる気を失うどころか、かえって気持ちを盛り上げています。なぜそれが出来るのか…。成美さんが語りました。

「そのモチベーションを上げるためにはまさに、人から尊敬される自分への誇り。人が喜んでくれる事への満足感を感じてもらうことが大切だと思うんです。質の高いコンポストを人が評価する。そのコンポストを使って効率よく野菜を栽培する。この超野菜不足なキリバスにおいてはそれは命に関わる大切なものだから評価が一層高くなる。そしてひいてはそれがキリバス社会をよくしているという実感につながる。」

まさに、それは「地球のステージ」が東ティモールの山村で育成しているPSF(健康増進員)のみんなに期待する動機付けと良く似ています。PSFへ支払われる政府からのお金は微々たるものです。誰もそんなものでモチベーションを維持しているわけではありません。健康を守るための知識をつけて活動することで、村人に尊敬されるということ、それがすなわち活動を続けるモチベーションになっています。そのモチベーションは支払われるお金に依存しないから持続可能性が高い…。

成美さんは協力隊としてアマノノさんのモチベーションを高めていました。協力隊は現地の人に給与を払ったりすることは出来ません。究極の国際協力を求められます。成美さんは見事に「お金じゃないもの」でアマノノさんをこのブラウン系環境保全活動に惹きつけていました。

あっぱれ成美さん。

でも心配もあります。それはアマノノさんの体調。やはり持病を抱えていらっしゃいます。だから今後はアマノノさんを支えるような人材育成と層の広がりが大切だと思います。2年では終わりそうにないこの活動に成美さんは後任を求め、JICAもそれを認めてこの活動は継続していく予定です。

桑山紀彦

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