絶体絶命の1分

 今日は盛岡のステージでした。

 東北自動車道に入った時、その混みように
「これは間に合わないかもしれない。」
 と思いました。時は夏休み。そして東北地方は被災者である証明があると高速道路は基本的に無料ですからどうしても流入するクルマの数が多くなります。
 そこで方針を変更し12:50分仙台発の盛岡行きに乗ることにしました。クルマは仙台駅に置けばいいと思ったのです。しかしそこも誤算。仙台市内は今七夕祭りの真っ最中なのです。案の定仙台駅の東側に着くとどこの駐車場も満車です。かなり離れたところにいっても満車状態。これはまずい、このままでは仙台駅発の新幹線にも乗れなくなります。
 なんとか東口から離れたところのコンフォートホテルの駐車場に入れたのはいいのですが、その時点で12:42分。ここから新幹線乗り場まで1KMはあります。しかし走るしかありません。炎天下の中コロコロを引っぱりながら走り始めたのですが、体力がそんなにあるわけではないので東口のZepp仙台の裏に入った時点で12:45。あと5分。この時点で、
「無理かも」
 という言葉が頭に浮かびました。でもこの新幹線を逃すとクルマで行こうが、次の新幹線に乗ろうが14時からのステージに間に合うわけもなく、絶望的な気持ちになります。それでもあきらめないで走り続けて東口の連絡通路の手前に着いた時点で、気持ちがどんよりしてきました。
「なんで自分はこんな事をしているんだろう・・・。」
 思わず考える。でもここで大切なのは、絶対に人のせいにしないことです。
 人のせいにすると必ず後でろくな事がありません。高速道路が混むこととか、七夕祭りで駐車場が満車であることとか、そんな事は前もって予測してかからなければならない。だから、これは全部自分のせいなのです。そこはとても大切。
 でもそうするとますます気持ちがどんよりしてきます。自分が悪くてステージに間に合わずしかも、いろんな人に迷惑をかけてしまう・・・。最悪の1日になりそうでした。
 西口に入るところにある時計を見ると12:47分30秒。
 「これは間に合うかもしれないけど、最後がギリギリだ。」
 もう何年も仙台駅でこの「ギリギリ乗車」をしているのでかなり理解できます。
 足はもうフラフラ、息も絶え絶え・・・。
 階段を上がって南口改札に来た時点で12:49。もう乗車を促す音楽が中盤にさしかかっています。あれは30秒しかないんですよね
 改札の方に、
「盛岡行きはどっちですか?」
「登って右側です!」
 エスカレーター下にたどり着いた時点で音楽が終了しかけていました。そこで一発、
「すみませ~ん!!のりま~~す!!!」
 声がでかいことだけは自信があるので、とにかく最後の雄叫びです。
 そしてホームにたどり着きました。
「早く乗ってください~」
 車掌さんの優しい声。目の前の号車に飛び乗り、そのまま扉が閉まって僕はデッキに崩れ落ちました。新幹線は静かに盛岡に向けて発車しました。
 僕はといえば、30分ほどデッキに寝込んでしまいました。本当に立てなかったのです。すると夏休みで子どもが多い新幹線。手洗いの帰りらしき小学生が、
「うわ~、お母さん人が倒れている~!」
「し~っ、寝ている人だからそっとしておきなさい!」
 お母さんはよくわかってくれました。
 
 それでも今日のステージで使うBlu-rayを焼かなければならないので、震える手で(疲労困憊しますと手が震えますよね)、パソコンとドライブをセットし、Blu-rayを焼きました。見事ステージには間に合い、事なきを得たのです。
 震災篇でも新作の復興篇でも出てくるのが、
「99%の地獄の中にも1%の希望の光があるはず。」
 という言葉ですが、まさに絶体絶命のあの最後の1分にそんな現実を見た思いでした。そんな大げさなことではないとおっしゃる向きもあるでしょう。でも、本当に今日は数ある「ギリギリ乗車」の中でも、心臓が止まるかと思うくらいの灼熱下における疾走と雄叫び&倒れ込みでした。
 人間最後まであきらめないことです。
桑山紀彦

絶体絶命の1分」への11件のフィードバック

  1. 諦めが肝心!とも言うけど、諦めたらお終い! 昨年の12月だって横浜から静岡に向う新幹線に乗れずチケット買いに走ったのが3分前、もう発車の合図も鳴りはじめちょったよ!でも、乗り込んでたし!まぁ、今日は暑い所を走ったんじゃから状況はあの時とは違うけど!火事場のばか力!大きな声を出した後、ちゃんと歌えましたか?お疲れ様でした!
    私は、2週間振りの副業。残業して9時間半働いて来ました。おやすみなさい。

  2. そういえば、高校生の時、山口線で通ってましたが、7時代の電車が20分と40分で部活の朝練に遅れるわけにいかず、ホームの上から「待ってぇ~」と叫んで電車の発車を遅らせてました!一番ひどい時は、かなり走っていたのに止めて下さって…この時はかなり顰蹙をかいましたが…
    新幹線なそに、待ってくれるなんて、よっぽど切羽詰まった声じゃったんじゃね!駅員さんありがとうございました。感謝、感謝。

  3.       ・・・・・その1
     和合亮一という人を知っていますか。
     震災という時間を、言葉で刻み込もうとしているプロの詩人です。(高校教師でもある)。
     あなたは あなたは今
     何を想っていますか 私はあなたを想っています 私を あなたを あきらめない
     たくさんの人が この町から避難していった
     ある夜
     深夜
     あなたは 愕然とした
     暗い街 真っ暗な 通り
     この街には 違うものが 住んでいる と
     生まれ育った街が
     違う表情をする
     3月12日の朝7時に避難命令
     そして
     避難所に来て五日後
     夜の9時過ぎに さらに遠くの避難所へ
     それからは
     戻れないことを知った
     新しい避難所では
     トラブルが続いた
     いつの間にか
     言葉がなくなってしまった
     和合さんは言います。
     「被災地では、生きる気力を取り戻すきっかけになるのは言葉だと考えています」と。
     「被災地では沈黙になる。沈黙の先にあるのは、やっぱり言葉なんだと思う」と。
     船よ 船よ
     海原へ 戻りたいだろうか
     悲しい 水の無い海に
     漂う 船よ
     「詩」で、和合さんは時間を刻み込んでいく。
     宅配便の箱。
     辺りにはカレイや海苔や
     袋に入った小魚が
     転がっている。
     この箱は、永久に届かない。
     斜めに倒れている電信柱に黙礼。
     きみは絶望しているのか、
     なぜに、なぜに、あきらめる。
     私は悔しい、私は悔しい。
     午前零時より、
     福島第一原子力発電所、
     20キロ圏内。
     立ち入り禁止警戒区域指定。
     故郷に一歩でも踏み出せば
     処罰とは どういうことなのか
     説明せよ 時よ 罪よ
     騒然とした瓦礫の海は
     無言だった。
     私はあなたを想っています。
     私たちは
     確かめ合っている
     笑い合っている
     泣き笑っている
     また会うことの出来た
     嬉しさに
     震災後の教室は
     こんなふうにして
     始まった
     生きること
     学ぶこと
     学舎こそは
     心の砦
     ここから始まる
     窓をあけよう
       以上、和合亮一著「詩の邂逅」より(朝日新聞出版刊)
     和歌山   なかお

  4. ご無理なさらずに…と、申し上げたい気持ちは山々ですが、
    きっと、「諦める」事が桑山さんにとっての「無理」なのでしょうね。

  5. 桑山先生頑張りましたねぇ!!
    ドキドキするような臨場感。全身全霊を込めてギリギリ滑りこんだ列車。倒れこんで震える手で、ステージのためにブルーレイ焼く姿。
    先生!先生はいっつも一生懸命で、諦めないですよね。
    だから語り口は静かでも熱いステージなんですよ。
    あ~またステージが観たくなってきましたねぇ♪
    先生!お疲れ様でした。熱い夏本番ですがどうぞお身体大事にして下さいね。

  6. わかっています。わかってはいますけれど、やはり桑山さんのお体が心配です。
    くれぐれも、無理をなさいませぬ様にと願っておりますよ。
    ではまた、あした。

  7. う~ん、毎回のように綱渡りの時間設定ですみません。
    桑山さんの都合に合わせて時間設定できると良いのですが・・・。
    息も絶え絶えな桑山さんの姿、想像すると涙が出ます。
    体を労わってくださいね。

  8. 日々、全力疾走の紀くんの強靱な心とそれに付いてくる身体に敬服しています!たまには『遅れちゃいました~!』って頭を掻きながらの登場も新鮮でいいですよ。

  9. 責任感が走っているようで、読んでいてはらはらしました。
    心臓が破裂しないように十分気をつけてください。

  10. 先生があきらめずに走り続け、新幹線に乗ってくれたおかげで私はあの感動的なステージに出会えたんです。
    ありがとうございました。
    HPお気に入りに入れましたから、これからもチェックさせていただきます。

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