紺碧のかなたへ

 今日は男の子と海へ行く日です。

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 2009年8月からこのチームと一緒に活動していますが、中でも中心人物のモハマッドはいろんな意味でインパクトのある少年です。
 2009年の描画セッションでは、
「空爆にさらされている僕の街に色なんて塗らない。」
 と彩色を拒否したモハマッド。そして翌年には自分の夢を語り、
「ジャーナリストになってガザのことを世界に伝え、世界のことをガザに伝える。」
と語ったモハマッド。とても14歳とは思えないまっすぐな思考の持ち主です。そんなモハマッドも今年は15歳。中学校で言うと3年生にあたります。
 もう、子どもっぽい遊びには参加しないかと思いきや、単純なイス取りゲームにもちゃんと参加するし、その一方で自由時間に砂絵で「日本とパレスチナの友好」のイメージを描いてしまう。
 単なる砂もモハマッドにかかるとちゃんと表現のツールになるのです。
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 そんなモハマッドは、相変わらず遠くを見つめいつか世界へ、特に日本へ行くことを切望しています。もうインターネットからいろんな情報を得ている彼は、世界が相手なのでしょう。特に日本の情報収集も熱心で、今のお気に入りは3月12日に開業した「九州新幹線」の沿線に、多くの人たちが手を振るビデオクリップです。
 どうしてこの人たちが一生懸命手を振っているのか知りたいとのことなので、事情を伝えると納得していました。
「おそらくそうだと思っていた。」
 とのこと。日本語だけの表記だとわかりにくいけど、十分みんながどれほど心待ちにしていたかモハマッドにも伝わっていたようです。でも、その前日に起きた大震災と津波のためにほとんどこのことは報道されなかったことも理解してくれました。
 さて、怒濤のような少年たちとの海水浴が終わり夕方、モハマッドと昨日のアッラーの家を訪ねました。この兄妹の家はまさに国境線ギリギリ。隣の家まで破壊が進んでいてそこで泊まっていました。エル・アマル学校のとなりです。
 そんな厳しい環境の中でもこの兄妹の心はめきめきと発達しています。とても中学生とは思えない発言にいつも驚かされるのです。
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 昨日登場したアッラーは語ります。
「私はね、学校の先生になるんだ。イスラムの言葉を子どもたちに正確に伝えられる、そんな教師になりたいよ。」
 そんな二人にお願いしたのは、「貝殻のワークショップ」です。
 自分の心の中で大切だと思う5つの言葉を思い浮かべてもらい、それを大小様々な貝殻の内側に書くというものです。5つの大切なものにも大小があり、それを貝殻の大小やその形のイメージに重ねて書き込むところに意味があります。
 アッラーにとって、大切な5つの言葉は、
「貢献、信頼、自由、愛、希望」
 でした。
「貢献とはどういうこと?」
「人と人は助け合うべきだよ。その基本となるのは相手に対して自分がどんな貢献が出来るか、ちゃんと考えること。だからそれが一番大切。一番大きい貝殻に書いたよ。」
「信頼は?」
「次に大切。人が協力し合うにはお互いをどう信頼するかがいつも大切。相手を信用しないと自分も信用してもらえない。だからこれもとても大切なものだと思うんだ。」
う~ん、13歳の少女の言葉に圧倒されます。
「愛は?」
「人間の基本。相手を思いやり、優しい気持ちを持つことが大切だから“愛”も大切。」
 自由と希望は、この封鎖されたガザ地区からちゃんと自由に旅が出来るようになることが重要だからという答えでした。
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 そんなアッラーに聞きました。
「自由に旅をしたいその国は?」
「う~ん・・・。」
 なかなか決まりません。
「やっぱりお兄ちゃんが大好きな日本に私も行ってみたい。」
 最後はお兄ちゃん思いの言葉でした。
 そんな兄、モハマッドにとっての5つの大切な言葉は、
「自由、愛、平等、希望、正義」
 実にモハマッドらしいですね。一番大切な「自由」は、
「この封鎖されたガザを出て自由に世界を感じることが大切だからだよ。」
 でも2番目に大きな貝殻にモハマッドは“愛”と書きました。これはアッラーの中にも出てくる共通の言葉です。
「愛は人間にとっても最も大切なもの。お互いを大切にする絆だからだよ。」
 
 他者から理不尽な空爆と破壊を受け、苦渋の生活をしてきたこの兄妹がそろって大切な言葉に「愛」をあげてくる。これが今のパレスチナ、ガザの子どもたちの本音です。
 みんな戦いたいわけじゃない。みんないがみ合いたいわけじゃない。本当は愛にあふれて平和に暮らしていきたい人々がたくさんいます。
 そんなモハマッドの、
「日本へどうしても行きたい。」
 という願いを近いうちに現実にする必要がますます出てきたように思います。皆さんのお力をお借りしたいところです。
 さて、明日の朝エレズを抜けて出国します。ヨルダン、ドイツ経由で帰国は火曜日の夕方、成田空港ですね。そのまま仙台空港に飛んでその足で閖上中学校の今年の卒業生のみんなとのワーク・キャンプです。
 津波の被害やその後の復興でいろんな事が手一杯でしたがこうしてガザに来てみると、ここにある問題に対してもちゃんと向き合っていかなければならないと再度痛感したところです。
桑山紀彦

紺碧のかなたへ」への3件のフィードバック

  1. 狭い世界の中で、狭い世界の中で生きているから見失いがちな大切な物がきちんと見えるんかねぇ!タハニ達の時も感心したけど…
    九州新幹線のCMみてるなんで!
    スムーズに日本に帰って来れますように。

  2.    モハマッドの言葉
    日本国憲法十三条には「すべて国民は個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と規定している。この条文は個人の尊厳の尊重として基本的人権の根幹をなしている。
     人類の歴史において、かつて人権は一部の特権階級のみが持ちうる特権であった。一般庶民などは人権など主張するもないも同然であり犬ネコのようであった。
     長い歴史の中で近代を経て、ジョン・ロックなどの思想の流れのなかで、イギリスの名誉革命、フランス革命を経て、「自由、平等、友愛」という思想が具現化していき、これがアメリカ独立宣言へとつながる。アメリカ独立宣言では「すべての人間は平等に造られ、生命、自由、幸福の追求を何人も妨げることはできない」とうたわれた。この精神が日本国憲法にも受け継がれたのが憲法十三条である。私たちが現在当然のように享受している「自由、平等、個人の尊重等」は永い人類の歴史のなかで培われてきたものである。そして、現在(いま)があるのであるが、その歴史が、すべて国の人々にもたらされているものでもないということを知るべきである。ここに私たちは驚きがあるのである。またそれを知るとき、こころが痛むのである。
     モハマッドは、苦しみの中にいて、「自由、愛、平等、希望、正義」を唱えている。いずれもが私たちが当然のように享受しているものだ。モハマッドのこの言葉を、私たちはもっとよくかみ締めなければいけない。
        和歌山   中尾

  3. アッラーとモハマッドの大切な言葉の中に自由、愛、希望が入っています。
    とても切ない思いです。
    インターネットが普及した今、そこで接する情報に、直に見たい、行きたいという思いは募るでしょうね。
    自由を手に入れる日まで希望を持って、生き抜いてほしいと願っています。
    ガザの紺碧の海で、愛と希望をたくさん見つけた明ちゃんと桑山さん。
    心のかけ橋になってくれる二人がいるから私たちもガザとつながれます。
    ステージの新たな物語でガザのみんなに会えるのを楽しみにしています。

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