勇気の人、マルセロ

 今日はとても嬉しいことがありました。

 我がローカルスタッフ、みんなとゆっくりとした時間が過ごせたことです。

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 前から、ずっとみんなと深く話したいと思っていたので、とてもいい時間になりました。「地球のステージ」の東ティモール事業は実に総勢14人の東ティモール人に給与を払い展開している大きな仕事なのです。でも、ディリスタッフ以外のハトリア郡スタッフとは、村に行っているときだけの接点なのでとても寂しく思っていました。でも今日みんなが3ヶ月に1回のトレーニングプログラムに参加するためにディリに終結しているのでディスカッションの時間を保つことが出来、いろいろと聞きました。

「みんなの村は自然がたくさんで、山も空も美しい。人も優しく親切だよね。」

「もちろん!」

声がそろいます。

「ところで食事について聞きたいんだけど、まずお米は足りてる?」

「大丈夫!」

「野菜は?」

「十分だよ!」

「お肉は?」

「鶏や豚、山羊や牛がいるから大丈夫!」

「卵も?」

「もちろん!」

「牛乳は?」

「・・・ないけど母乳があるよ!」

おいおい、それは赤ちゃんだけだろう・・・。みんな冗談なので、笑っていました。

「そっか、食事は足りてるってことだね。」

「大丈夫だよ!」

「みんな、それは自給自足が出来てるってことで、日本から見たらすごくうらやましいことなんだけど。」

「そうなんだ~」

と一同・・・。

「じゃあ水は?」

「アスラウ村とファトボル村は河から遠いからね、水運びが大変だ。サレ村、タタ村、アイレロ村は十分だな。」

「そっか、井戸があればいいところもあるね。」

「うん、今後の課題だね。」

みんなには余裕があります。

「じゃあ学校は?」

「小学校はみんな行けてるよ。」

「中学校は?」

「全体の40%くらいが行っているかな。まだまだ多くはないんだ。」

課題が見えてきます。

「情報は?」

「電気がないからね。テレビは見ないよ。それに暴力的なシーンとか見なくてすむから、ない方がいいかも。」

「でも日本の津波のことはどうしてわかったの?」

「ラジオを聞いているからだよ。」

なるほど、情報はラジオからちゃんと伝わってくるんですね。しかも映像がないからみんないろんな想像を働かせて、かえって心配をつのらせていました。

「みんな、ドクトルKのクリニックは崩壊したって言ってたよ。ケイは仕事を失ったって!」

おいおい、ラジオではそこまで伝えてくれないでしょう。変に話がふくらむところがありますね。要注意です。

「みんな、質問を変えてね。ちょっと難しいことを聞くようだけど、自尊心ってどうやって育つんだろう。」

みんな考え始めました。そして一番最初に手を挙げたのが天上の楽園、ファトボル村のヘルスワーカー、マルセロでした。

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「僕は、人間の自尊心というものは前の自分よりも少しでも発展したということを確認しながら育つものだと思う。前よりも少しでもよくなった自分を目指す、そうやって人間は生きていくものだと思う。」

 もう僕は泣きそうでした。マルセロ、君はここでそれが言えるのか。すばらしい人材です。そんなマルセロは今オーストラリアで勉強するために奨学金を狙っています。

「何を勉強するんだい?」

「農業だよ。しかもコーヒーを勉強して、この国を農業で立国できるようにしたいんだ。」

マルセロは国の発展のことを考えています。

「この国は農業で強くなるべきだと思う。」

「そうか、マルセロ。でもそんな君はもしもオーストラリアで勉強が終わって帰国したときにこの大きな都市、ディリで働きたくならないかな?」

「ハハハ。ならないよ。僕は必ずこの村に戻るるよ。」

「大きな都市には行かない?」

「行かないよ。僕はこの村を豊かにし、そしてこの国を強くしたいんだ。」

「まるでマサイ族のジョエルのようだね。」

横にいた明ちゃんが言いました。まさにジョエルのように都市の生活を考えないで、自分の生まれた故郷のことを考え、その先に地域や国の発展を見すえている。ここにもまたすばらしい人材がいました。

 二人目に発言したのはアイレロ村のマリアでした。

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 マリアは向かって右。左は同じアイレロのヘルスワーカー、ナタリーナ


 アイダがいいました。

「マリアは本当にみんなから信頼され、大切にされ、尊敬されているよ。それほどいい仕事をしてきたんだ。だからマリアは自分の仕事をすることで自尊心を育ててきたと思うよ。」

そんなマリアに聞いてみました。

「マリアは昔、絶対にディリに出て行くんだっていってたよね。」

「そんな頃もあったね。」

「今は?」

「出て行かないよ。私はこのアイレロ村に居続けるよ。」

「ディリの学校で勉強が出来るようになっても?」

「卒業したら村に戻るよ。」

 日本から見ると何もない村のように見えます。都会となっているディリにはレストランもホテルもあり、クルマがたくさん走ってモノも電気もあります。それでも、マリアは自分の村に帰りたいという。それはまさに自分の自尊心がその村で育てられてきたということがわかっているからだと思います。

「前の自分よりも、少しでもよくなった自分を目指したい。」

そう願いながら、彼らは村で自分の生きる意味を見つけています。

 本当に見習わなければならない生きざまだと思いました。

 みんなと一緒にご飯を食べたり、こうして話し合いを持てば持つほど彼らが愛おしくなってきます。この人たちが村で働き、自分なりの自尊心を高めていったら、絶対に村はいい方向に変わると信じています。だから僕たちは一生懸命診察したり、歌ったりでお金を得て、みんながより一層自己実現を深めていってくれればいい、と願い続けます。こうして日本と東ティモールは深く深くつながっていくんだと思います。

 今日の夜は津波の報告会でした。

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 JICAが中心となって大使館やUN(国連)、東ティモール政府の人々などが集まってくれてひとしきり報告しました。すべて英語でしたが皆さん感じてくれたところは非常に大きかったと思います。

 終わりで感じたのが、国際協力をやってきたJICAの皆さんなどは非常に辛かったと思うということ。本当は駆けつけたいのに出来ない苦しさ・・・。でも、それをこらえてこの東ティモールで働くJICAの皆さんの存在こそ、私たちの誇りでした。今目の前にある問題を解決しようとする気持ち。それは被災地支援の人々の気持ちと全く同じです。だから気持ちの上でつながっているんだということを強く感じた晩でした。

桑山紀彦

勇気の人、マルセロ」への10件のフィードバック

  1. 今日はいつもにも増して有意義な一日だったんですね。それにしても、志の高いメンバーばかりなんですね。素敵な現地スタッフが頑張ってくれているんですね。豊かなくにですね。日本は、何でもかんでも首都東京に集中していますが、日本の若者も一度は故郷を離れても、田舎に帰って頑張るぞ!ってなると、バランス良くなるんでしょうね。桑山さん、ステージで子供達に語っていますが… 山口なんかにもUターンして頑張ってる人が沢山おるけど、皆さん、素晴らしいです。今日も、あちこち揺れました。揺れるとドキドキします。

  2. この村の若者は世のため人のためになることを考えている。そうすることが必然で、多分自尊心なんて意識していないと思います。
    時間に追われず、焦っていないのがいいですね。青雲の志に溢れていると言ったら大げさでしょうか。
    それに比べて、会社に入ることに汲々とした若者、塾通いに追われる子供を取り巻く我が国の環境で、高潔な自尊心は育まれるのでしょうか?自己中なんて言葉が有るくらいですから。
    テレビで「将来は官僚を目指しています」とぬけぬけと答える有名進学校の高校生の姿を見るとがっかりです。
    文科省はこの差を解っているのかな?

  3. 桑山さん 明ちゃんお疲れ様です。
    東ティモールのスタッフ 素晴らしい人ばかりですね。
    自然の中で生き 自分たちの 出来ることを着実に 進めようとしている。
    桑山さんたちの 支援が(地球のステージ事業)が 実をつけているんですね。
    その上 このブログ読んで 私は勇気づけられる。
    今出来ることを無理せずにやっていけそうな気がする。
    ありがとう?
    身体に気をつけて ご活躍ください。

  4. 桑山さん、明子さん、おつかれさまです!
    東ティモールからのレポート、勇気付けれらます。
    高校生の頃の自分を思い出しました。
    「東京の大学には行かない。
    自分は、北海道で生きてゆくのだから、北海道の情報が常に入ってくる東北の学校で、福祉学科のあるところへ行く。
    卒業したら、北海道に帰ってくる」
    そう言って、進路指導の先生に嘆かれたのでした・・・。 そう、「嘆かれた」んですよ~。
    「どうして、もっと目標を高く持たないんだ。
    十分、東京の大学にいけるのに」って。
    22年前のことです。
    あの時、先生の言うままに東京に行かず、自分の意思で選んだ仙台に行ったこと、本当に良かったと今でも思います。
    あの仙台での4年間があって、今の「東北」とのつながりがあるのですから。
    北海道で生まれ育ったことの土台の上に、仙台時代の自分の「青春」があって、さらにその上に札幌での日々が重なって、「現在」を形作っているのですよね。
    自分がその土地の一部である、という自覚が、行動の原動力になっているのだと、改めて思いました。
    JICAのお話も身にしみます。
    「阪神淡路」の時、親しい友人がカンボジアにいて(NGOスタッフで、芦屋出身でした)、帰るに帰れない思い、行くに行けない思いの中で、共に「芦屋支援」をしたのでした。
    ネットもメールもなかったけど、なんやかんや、人のつながりでやりましたねぇ。
    道具は道具であって、それを使う人がどうであるか、だと思います。
    あっちこっち行かれていると、気温の差も激しいと思います。どうぞ、お体に気をつけて。

  5. 本当に「豊かな人生」って何かしら? マルセロさんの言葉から 考えました。〝いい大学 いい会社 に行って いい車、家を持って 豊かな生活をしたい〟なんて事は マルセロさん 微塵も思っていないんですね。国の発展の為に「 今 自分がするべき事は何か。」「 今 学ぶべき事は何か。」
    未来に、崇高な目標があるから、今、大変でもがんばれる。充実した 豊かな人生 を歩んでいるのでしょうね。子供に 心の充実した、豊かな人生を歩んで欲しい。そう思うと、「勉強しろ!勉強しろ!」だけでは、親失格だなぁ。と思います。
    マルセロさんのように、豊かな夢の持てる人生にしてあげたいなぁ。

  6.  国道42号線(紀伊半島一周道路)を走っていると、道路上の電光掲示板に「高速道路休日上限1000円6月19日まで」と出ている。民主党もマニュフェストばかり云っておられず、震災復興予算にあの手この手で対処しようとしているようだ。このことは高速道路に限っただけのことではなくて、僕の仕事にも影響が出てきている。
     僕の勤務する定時制高校は不登校生徒が多く、そういう生徒に対応するため教職員に研修の機会を持っている。(担当は不肖中尾である)。
     こころの悩みや不登校生徒の理解や支援のため、講師を招いての研修会であるが、その予算が震災復興に回るのだという。今年度はこういう事業はすべて中止になるのだという。あやややや・・・。なんたることか。事業の名称は「平成23年度和歌山県子どもの健康を守る地域専門家総合連携事業」。落語の「じゅげむ・じゅげむ・・」のようなやたらと長い名称の事業であるが(役人が考えるとこういうような名称がやたらに多い)、これがどうやら震災復興予算の方へ回るらしい。政府も復興予算をどのように捻出するか頭の痛いところらしい。もっともこの事業の支出は、研修会に講師を招いた場合、教授級で1時間6000円である。本校での講演は2時間、準備も含めて3時間で計算しているから18000円。まあ、全国の高校で実施すればどれくらいの予算になるか・・・・・。
     どのように復興予算を作っていくか、とにかくかき集めるだけかき集めて復興対策を捻出する算段らしい。
     被災者の方々の希望は、一刻も早く、義援金配分、仮設住宅建設、ガレキ撤去等々を望んでおられると思う。
     国会での論戦より、スピーディな対応であろうと思うのは、僕だけではないのではないでしょうか。
       和歌山  中尾

  7. 14人もスタッフがいるんですね。
    桑山さんも事業家として頑張らなきゃね。
    それにしても皆さん志が高いですね。
    生まれ育った村を愛していて、恩返しを考えている。
    自分の拠り所があるって素晴らしいですね。

  8. 発展=幸せではないですよね。本当に幸せな場所を築いて欲しいです。これは震災地東北にも思う事。学ぼうよ人間。

  9. お互い様って、世界共通語なんですね。なんて美しいのでしょう。心洗われました。有り難う!

  10. 自尊心、かぁ。
    自分はどうかな?ゼロとは言わないが、大きな落としものをしてるかも。大事なことをありがとうございます。

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