ディリの地

ディリに飛びました。いつもはメルパティ航空なのですが、最近インドネシアの別の航空会社がディリ便を出してくれて競合することになり、ずいぶんディリの往復も安くなりました。その名も「バタビア航空」。飛行機の2レターコードはなんと「Y6」。全日空はNH、日本航空はJLですが、Y6と来たか。でも、快適な飛行機であっという間に東ティモールの首都ディリに降り立ちました。

 2000年1月。争乱直後のディリに入ったとき、町は焼け焦げてまだ焦げ臭かったことを思い出します。1999年8月30日の国民投票で独立を選んだ東ティモールでしたが、9月4日に、独立反対派とインドネシア軍が攻めてきて争乱状態となり、「暗黒の9月」を迎えました。それから4ヶ月して僕は医師としてこの東ティモールのバイロピテ診療所に入りました。院長のダニエル・マーフィー医師(ダン先生)を支えるために、診療の補助をしました。毎日毎日ものすごい数の患者さんがやってくるバイロピテ診療所の第二診察室が、僕の「城」となり、必死に単語帳を作ってテトゥン語を覚え、今では通訳なしで診察をするようになって既に11年が過ぎました。毎年2,3回は渡航してこうして医療支援を行っています。
 おもにこのバイロピテ診療所の診察と、現在では「地球のステージ」の独自事業となっているエルメラ県ハトリア郡の4つの村において、妊産婦と新生児の保健向上の仕事をして2年が過ぎました。現地代表はアイダ医師、身体は小さいけど東ティモール人女性の意志のすべてが詰まったような活発な女性です。もう日本にもダン先生と共に2回来ていますのでご存じの方もいるでしょうね。
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左端がアイダ医師(現地代表)~バイロピテ診療所にて
 今私たちはこのバイロピテ診療所に事務所を持ち、4人の有給フルタイムスタッフを雇用しながらこの活動を続けています。険しい山間部を抜けて行かなければならない村の活動にはタフな四輪駆動車が必要ですが、2年前購入のランクル・プラドが故障ばかりのため、この1月には「車両購入キャンペーン」をひいて、皆様からの募金をいただいたもので巨大なパジェロを購入しました。今は2台体制で移動診療を行っていますが、この頃は大震災や津波が来るなんて、全く知りませんでした。
 さて、ダン先生に会いました。
 診察室で会うなり、
「いや~生きてたか~。心配していたんだよ。みんなで!」
「いや、死にもの狂いだったよ、ダン。」
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「そうだろう、そうだろう。ワシもな、すぐに駆けつけたいと思ったんだ。でもここには毎日たくさんの患者さんが来る。だから留まったんだよ。」
「うん、ダンに“そっちへ行くか?”って聞かれたときは嬉しかったけど、やっぱりダンにはダンの仕事があるしね。」
「ああ、そうだな。しかし哀しみは分かち合ったと思っているよ。この日本の悲劇に出逢ってワシらは忘れていた世界の哀しみを思い出した。ついつい毎日の生活に紛れてしまうからな。しかし、この深い哀しみがこの東ティモールにもあったことを思い出して、今ここで出来ることを続けようと思ったんだよ。」
 さすがダン先生。世界に存在する哀しみを再び思い出して、その哀しみを少しでも減らすために今目のまでに求められていることを黙々とし続ける。それが「離れていても出来ること」なんですね。だんは、ふっと言葉にしてくれます。
 ごごから、いつものうちのメンバーと話し合いを持ちました。契約の更改です。みんなほんの少しの給与の増加だけど快く一緒に働くことを承諾してくれました。
 東ティモールには東ティモールの問題があります。その問題に対して自分が何が出来るのか、これからまた確認します。明日は山に入ります。険しい山の中に、僕たちの活動の地があります。
桑山紀彦

ディリの地」への10件のフィードバック

  1. ミュージカルの機内食の映像を思い出します。今回はどうでしたか? さすがダン先生。今、できる事を…診療所も毎日、沢山の患者さんがいらっしゃいますよね。
    東京は今日、暑かったです。朝の電車は冷房入っていませんでしたが、帰りの準特急は入っていました。でも、乗り換えた各停は入っていませんでした。
    ヘィヘィヘィで郷ひろみが新曲歌ってました。笑顔がなんちゃらって。なんか元気が出ました。

  2. ダン先生やアイダや
    バイロピテのスタッフの皆さんが
    どれ程心配されていたかが、
    目に浮かぶようです。
    ダン先生でさえ
    世界の悲しみを思いながら
    ご自分の仕事を果たそうと
    ディリにとどまり
    がんばられているのですね。
    みんなそれぞれの想いを胸に、
    自分に出来る限りのことを
    なさっているんだと
    診察室の写真つきのブログに
    なぜか涙が溢れます。
    いいお仕事ができますように。

  3. 継続してきたことが信頼感を生み、力強い一体感をひしひしと感じます。それが地についている。
    まさしくボーダレス。
    国籍も人種もへったくれもない平らかな平和につながる活動。
    日本から行ったというより、帰ってきたという気持ちなのではないですか?
    診療所の皆さまに改めて敬意を表します。
    存分に活動されて帰ってきてください。

  4. ちょうど今週の金曜日に国際関係論のゼミにて行うプレゼンで、東ティモールについて発表します。この授業を選んだのも、国際問題に関心の高い学生たちに「東ティモールのことを伝えたい。」と思ったからでした。
    資料を作成しながら、ダン先生やアイダ、ファトボル村の人たち、ひいては東ティモールのみんなに思いを馳せています。
    現地滞在中に綴った日記や写真を見るたび、東ティモールへの思いが溢れ、あの一週間が僕の大きな一部になっているんだなと実感します。
    実際に見て、感じて、触れた東ティモールを、ありのままに伝えてこようと思います。
    現地での活躍をお祈りしています。
    甥より

  5. 桑山さんには故郷の一つ、バイロピテ診療所の皆さんがお元気で良かったです。
    ダン先生は本当にナイスガイですね。
    いつも冷静にご自分の使命を黙々と果たしていらっしゃいます。
    変わらない友情と勇気のプレゼントに桑山さんも元気になられたことでしょう。
    母子保健事業のスタッフも継続になり、安心しました。明日の記事を楽しみにしています。

  6. このブログは、わたしが出会った人がたくさんいるから、みなさんがその時々なにを思っているかがわかるから、読んでいるとすごく落ち着きます。
    tomokoさんは電車でいつも大変な目に合っているだとか、りとるままは夜更かしだとか、ダン先生のおヒゲがないー!だとか、アイダ先生は相変わらず細ちっちゃい!だとか、桑山さんは夏の服と冬の服を合わせても10着ももってなさそくなくらい、似たような服ばっかりだなぁ、今日も見たことあるシャツだとか、その方の今に触れると安心できます。
    だから、被災地を思うと切なくなります。
    みなさんの前進を祈りながら、出来ることをやるしかない。

  7.  新聞にはいろんな情報が詰まっている。隅から隅まで読んでみるとおよそ二時間ぐらいかかる。読み終わって、さて今日はどんなことが書いてあったのかと思いだそうとすると、まったく思い出せない。政治、文化、経済、社会、国際、スポーツと多岐にわたっているが、それゆえ情報が錯綜し、僕の頭の中では整理がつかない。特に天声人語などは含蓄が多いため、その匂い、味わい、余韻など、どこかえ吹き飛んでしまっている。
     あまり利口でない僕は、天声人語の含蓄を味わうため、その他の記事はまったく読まないようにしている。賢明な皆さんはそんなことはないのであろうが、僕はそうしないと、天声人語の本質を突いたコラムが身に付かないのである。
     ダン先生も日本の震災を知り、支援に向かおうと思ったと桑山先生は書いている。しかし、ダン先生は自分にはバイロピテ診療所の患者が目の前にいる、心を痛めながらも留まることを決意したと書かれている。
     遠くにいても、悲しみを忘れない、そのことが大事なのだ。だから桑山先生も東ティモールへ行く。
     新聞やメディアの報道は、多くのことを伝えようとしているが、得てして、遠くの悲しみを、私たちに伝えているのであろうか。今も誰かが苦しみ、だれが悲しんでいるかを本当に伝えているのであろうか。
     報道は、つねに、一瞬の出来事の報道。僕にはそう思われる。新聞を、端から端まで読んで、いったい何が書いてあるのかなあ・・・・・・・。
        和歌山  中尾

  8. 東ティモールがめちゃくちゃ懐かしいです!! 
    照りつける太陽、潮風、砂ぼこり、磯の香り、市場・・・
    なんと言っても子ども達の笑顔が最高です!
    「被災地からの生の声」を伝える場をJAICAが設けてくださっているとか。
    ”思い”がシェアーできるといいですね。
    昨日もノルウェー人から 「最近は日本の災害の報道が少なくなって情報が得られないが、どうなっているのか?」と聞かれました。
    一日一回は被災地のことを思い、「離れていても出来ること」を意識しながら ノルウェーでの日々を丁寧に過ごそうと思っています。

  9. 桑山さんのブログみなさんのコメントを見ているとその地域で精一杯ガンバっておられるんだとひしひしと伝わります。私も今できること。5月から始めた四つ葉集め。数が集まり東京で教師をしていた時の子ども達に送る予定です。今は福岡にいますが東京で出会った子ども達の心が心配でなりません。気持ちは届くかな。今は毎日クローバー集めにいそしんでます(^-^)今自分ができることを精一杯誰かのために。がんばるぞ!明日も先生ファイト!

  10. 桑山さんとダンの2ショットいいですねー。元気をもらいました。私も今ここで私にできることを頑張ります。

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