ガザの友人たち

今回はガザからの急な出域、退避のため、なかなか大切な人々にゆっくりと会うことはできませんでしたが、確実にガザの状況が悪くなっていることを感じる出来事がいくつもありました。

まず2014年3月14日に天国へ旅だった盟友、ダルウィーッシュの長男、ジハードの決意。

ジハードはエジプトのアレキサンドリア大学医学部を卒業し医師となりました。そして昨年ラファに帰り、盟友マジディの長女ルスルと結婚し、すぐに長女チューリップを授かりました。ラファの病院で働いていたジハードは、既にその仕事を辞め、ドイツへ難民として逃れることを考えています。それは「医師として食べていけないから」です。給与は月20ドル~30ドル程度。いくら卒業したての医師とはいってもこれではまともに食べていけません。つまり医師としての仕事はあるけれど誰も彼に報酬を支払えるような、その「資源」がないのです。だから彼は難民となることを決意しようとしています。天に昇ったダルウィーッシュが聞いたらどれほど悲しむか、とは思いますが、ジハードにとっても苦渋の選択なのだと思います。年内にはガザ地区を出たいと決意を新たにしようとしていました。

続いて娘のように思ってきたルーリー。

高校卒業試験(日本ではセンター試験に相当)で物理と化学で大きく転け、得意なはずの英語も伸びず目指していた医学部をあきらめることになりました。パレスチナではこの試験の得点で否応なしに学部が振り分けられていきます。どんなに医者に「なりたくなくても」平均95点以上をとってしまえば医学部へ「行かなければならない」のです。変なシステムですがこうして点数別に進む学部が割り振られていく、それがパレスチナの社会です。ルーリーは落胆の中進むべき大学学部を決めてはいましたがとても不安定です。

お父さんのマジディは人々をメッカ巡礼に連れて行く旅行会社を営んでいましたが、ラファ検問所が閉まったままなので収入はほぼゼロ。そして頼みのお母さんはUNRWA(国連パレスチナ救済機構)の学校で働いているので危機です。それはトランプ氏によるUNRWAへの拠出金凍結の影響でまず給与は50%カット。そしてこの7月末で実に15000人の解雇が決まっています。お母さんも一旦自宅待機です。万が一お母さんが先生の仕事を失ったら万事休す。マジディ家はどん底へ落ちる危機です。

そんな中、モハマッドが現れました。

「地球のステージ」が大学の学費を負担して4年。ついに彼はこの1月大学を卒業します。そして今はボランティアで「パレスチナ・トゥデイ」という通信社に写真やビデオを提供しています。しかしこれは完全に無給のボランティアです。食べていくためにはほど遠い環境といわざるを得ません。

今ガザ地区の失業率は90%を超えていると言われています。若者にも職がありません。ガザ全域を覆う黒雲のような現実。それは職がなくお金がなく、夢が持てないと言うことです。モハマッドだっていつ絶望の淵に立たされるか分かりません。

改めてこの「封鎖」という非人道的な扱いが人々を窮地へ追い込んでいます。そんな中、ハマスはまた戦闘を行い、イスラエルも反撃しています。人のためにならない政治を行うゲリラ集団はこの苦境の大きな要素です。

人々の怒りはどこへ向かっていくのか。

あのダルウィーッシュの長男にして優秀な成績でアレキサンドリア大学医学部に入り、夢をかなえて医師になって凱旋してきたジハードが、実は食べていけなくて難民化するかも知れないという現実を直視することが、今私たちに求められていることなのだと思います。

余りに辛いガザの現状です。

桑山紀彦

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