今日はついに4次元表現の音楽ワークショップです。
通常回数でいえば4,5回を使うものですが、今回はスタッフにそのファシリテーションを学んでもらうためにたった1日でこの音楽ワークショップが目指すものを理解してもらわなくてはなりません。朝からスタッフと曲作りです。
もちろん、今回もメロディは8年前にルワンダでつくった「エジョ・ヘザ」のラインを使います。これは拙書「心理社会的ケアマニュアル」にも載せている平易なメロディです。アフリカでは結構すぐになじんでくれるメロディラインです。
まずはスタッフがそのメロディを覚え、自分なりに歌詞をはめ込んでいきます。ハリエットはもうやる前からその声量と音程の良さで群を抜いていました。サントは最初どうかな、と思ったけれどのびのある声で歌って着いてきます。懸案はアリスでした。なかなか音程が取れないし、歌うこともあまり得意そうではありません。でも音楽ワークショップは上手にやることを目的としているのではなく、自分の心の中にあるものを歌詞にしてメロディに載せ、歌うことに意味があります。アリスのようにあまり得意ではないファシリテーターがいることもまた大切なことなのです。MPJのりえ子理事長は優子ちゃんが持ち込んだロールピアノを駆使して旋律を教えていきます。
3人が1番~3番を作りそれぞれ、過去、現在、未来をテーマに歌詞を編んでいきました。この短時間でたいしたものです。
そしていよいよ本番です。恐れることは3人のファシリテーターが、自分のつくった歌詞を子どもたちに「教え」てそれを「練習させ」て「歌わせる」ことです。これでは全く心理社会的ケアになりません、でも、スタッフはちゃんとこちらの意図を理解してとにかく子どもたちに歌詞を考えてもらうよう刺激していきます。僕は心配なアリスのチームに入りました。
そこには昨日のスーザンがいました。彼女は今日は白い制服でしたがちゃんと胸にはピンクの十字架をかけています。5人編成のグループでしたが、スーザンがぐいぐい引っ張っていきます。でも決してそれは周りの子どもたちを無視するのではなく、「これでいい?」と聞きながら尋ねながら歌詞を決めていきました。スーザンは自分でつくった曲さえ口ずさめる才能がありますが途中で脱線してしまうと、アリスがすかさず「今日はこのメロディに歌詞を載せるんだよ」と引っ張り直します。
他の子どもたちもできるスーザン任せにしないでちゃんと自分の意見もいいます。苦労を越えて生きているからなのか、非常にしっかりした南スーダンの子どもたちです。
そしてついに完成した子どもたちの歌詞。
①「私はずっとお母さんと暮らしていた。
私はずっとお父さんと暮らしていた。
そしてあの戦争の日、私は父を失った。心に痛手を負い、私は一人になった。
ずっと一人の気持ちを抱えてきた。独りぼっち、私はそれからずっと一人だった。」
②「今、私はウガンダにいる。
人生はいい方向へ変わりつつある。
ここには食べ物があり、学校が、教会が、そして祈りがある。
私は祈る。あなたも祈る、みんなが祈る。全ての者たちが祈りを捧げている。」
③「もっと勉強をしよう。
それは未来のためにできること。
私たちはスーダンに平和をもたらす者たちなのだ。
それこそが強い強い、私たちの希望。」
なかなか音程が安定しないアリスのチームでしたがみんな最後まできちんと歌い上げてくれました。
あとはハリエットのチーム、サントのチーム、それぞれに素晴らしい歌詞と歌声でした。みんな沸きに沸いて、やっぱり音楽ワークショップはいいなあと思う。気づくと外でじっと見学していた子どもたちもメロディを口ずさんでいます。
厳しい人生を生きてきた子どもたち。でもこんなふうに自分の人生を歌にして歌うことができるのです。それを多くの人たちが見て喝采の拍手をもたらす。これこそが心理社会的ケアが目指すもの。「内的な気づき」「表現力の向上」「集団での分かち合い」「社会への還元」そのものです。たった2時間。でも大いなる実りのあった2時間でした。
この曲はやがてMPJの広報用ビデオやホームページ、そして「地球のステージ」が制作する「南スーダン篇」で聞いて頂けると思います。
ルワンダの女子高校生たちとつくり歌い合ったエジョ・ヘザが歌詞を変えて今度は南スーダンの子どもたちの歌となりました。やっぱり、音楽はいい!!
心の中にすとんと落ちていきます。
桑山紀彦