今日も外来は混みました。
最近とみに混んできています。このままでは一人一人の患者さんにかける時間が失われるのではないか、と大変気がかりです。でも必要とされているのだから一生懸命関わっていかなければなりません。今日から「地球のステージ」が雇用した林由美(よしみ)さんが外来に入りました。彼女は看護師であり保健師ですが、当面心理社会的ケアの担当として現場に入ります。「東北国際クリニック」の心療内科として、初めてスタッフができました。頼もしい限りです。
そして今日も、つながりのある人たちが来てくれました。
漁師の正さんも元気な笑顔で登場です。
「テレビ出てましたね~」
「いや~恥ずかしいっす」
「でもすっごくかっこよかったって、僕の周りでも評判です」
「そうすか、貴重な経験させてもらって」
「一昨日、謙信丸見に行きましたよ」
「ほんとすか」
「穴空いたとこ、何とかなりそうですか?」
「来週から修理に入ります」
「海、出られますか?」
「う~ん、俺一人だったらいつでも出られるけど、お客さん載せて、になるとそこまでの道がガタガタなんで難しいすね」
「そうか、すると港湾整備が大切ですね」
「そうなんす。港さえちゃんと整備してもらえたら、俺は海に出ます」
力強い正さんの言葉でした。まだまだお薬がないと良くは眠れない正さん。お姉さんの家で気を遣っていることもあるし、今勤め始めた会社だって、昔勤めていたところとは言え海の上とは違います。いろんなストレスがたまっているのは明らかです。でも、今一時的にお薬を飲んで乗り切れたら、きっと正さんなりの日々が戻ってくると思うのです。それまできちんと外来でお付き合いをしながら、応援していきたいと思います。そしてゴールは正さんの船の一番客として晴れた日の海風をいっぱいに浴びること。その瞬間を夢見て進みます。
続いて春代ばあちゃんが来てくれました。
「夢、どうですか?」
「う~ん、ずいぶん減ったけどねえ。やっぱり1週間に5,6回は見るのよ」
「内容は?」
「やっぱり同じだあ。水が迫ってきて口まで来ると、ジャリジャリと砂が口の中に入ってきて、驚いて飛び起きるって夢だなあ」
「う~ん、下増田の橋の上で起きた出来事が繰り返されているんだなあ」
「あと、首から下がいつもいつも冷えてるのよ。首から上はぽかぽかしているのに、なぜか身体が寒いんだ。だからいつも厚着してないといられねえんだなあ」
「春代ばあちゃん、あのとき助けられて全身ずぶ濡れだったもの。命助かったけど冷えて凍えてっていう、あのときの身体の感覚がずっと残っているんだと思うんだ」
「いつになったら消えるんだろなあ・・・」
「お風呂はどうですか?」
「いや、やっぱり入れねえなあ。ひ孫がね“お母さんが50数えるまで入ってて言うから、おばあちゃんもちゃんと入らないとだめ”っていうんだあ。それが辛くてなあ」
「う~ん、ひ孫にしてみれば“そりゃそうだ”って感じだろうけど、その要求はかなり辛いと思うな・・・」
「うん、でもひ孫の手前湯船に入らないわけにも行かなくてなあ。我慢して入るのよ」
「でも、あんまり無理して入って、“慣れる”ことを急ぎすぎるとかえって心の負担になるから、お風呂は一人で入って、自分の思うようにしてはどうだろうかなあ」
「でもね、孫の家で世話になってっからねえ」
春代ばあちゃん。80を目前になお、こんな苦労をしないといけないなんて。そんな春代ばあちゃんはいつも最後に言います。
「だからね、いっそ死んでた方が良かったって思う時があるのよ。こんな思いまでして生きていかないといけないなんて、なんて辛いんだろうねえ」
「そんなことねえ、せっかく助かった命だから、大切にしねえと」
と、返したいのは山々で、その言葉は喉まで出かかります。でもいつもためらってしまって・・・。無言になりがちな桑山です。
もうじき2ヶ月。世の中は少しずつ震災と津波のニュースから離れつつあります。でも直接被害を受けた人たちの言葉に日々触れていると、多くの時間がまだ止まっているか、ゆっくりとしか動いていないようにも思えます。それが名取の日々。
今日から本格的にステージが始まりました。明日は京都、舞鶴の2公演。
心の整理を少しずつしながら、「震災篇」を伝えていく活動が始まりました。
桑山紀彦
今日は高校での公演でしたか?明日は、今回の震災からは離れた場所での公演。東北の事を伝える公演ですね。辛い事もあるでしょうが、桑山流で伝えてね。
体調管理もしっかりと!
桑山先生、毎日本当にお疲れ様です。
震災から二ヶ月になりますね。毎日たくさんの被災した大変な方々と会い、じっくりと話を聞いて同苦する先生がそばにいてくれる有り難さは何にも変え難い心強さでしょうね。
けれど、先生のお体…たくさんの苦しみを受け取られている現状を読むに付け、心配です。
どうか先生も、どこかで少しはガス抜きをしていただきたいと切に願います。
これからずっと頑張られるためにも!
地球のステージの御成功を願っています。
ブログが大変リアルに状況を伝えてくれています。
殆んど傍観者ですが緊張感を持って読んでいます。
小生の中では着々と前に進んでいると見えます。
心のケアは瓦礫を片付けるのと違いますから、心に引っかかることは次々と出てくると思いますが、焦らず、挫けず、一人ひとりを丁重にフォローしてやってください。
最近、歯が痛くてたまらない。虫歯ではなく以前治療した銀歯の下がどうも疼くようだ。被せた銀歯を引っ張って、ぐいぐいやると少し血が出る。そうすると痛みがすこしやわらぐ。やれやれ年をとるとあちこち痛んでかなわない。
連休に入り、関東から子供が帰って来た。関西は余震もなく、計画停電も実施されていないので、震災の影響がないのかのんびりしているねと子供が感想を述べる。そんなとき、抽選で大阪松竹座の五月団菊祭のチケットがあったので見に行った。劇場に入る前、再び歯がづきづきと痛み出した。これはどうにもならない。はたしてゆっくり、菊五郎、団十郎の芝居が見ることができるだろうかと心配していたが、幕が開いて、芝居が始まると痛みがピタリと止まった。
絢爛豪華、華やかな舞台。緊迫感のある本物のプロの演技、長唄の演奏、浄瑠璃の妙技、いづれもが素晴らしく、現実を忘れ、食い入るように、古典芸能の世界に酔いしれた。僕なりに歌舞伎の魅力を一言でいうと「紫の魅力」ということができる。衣装や舞台美術の色合いを指していうのではない。様式美、演出効果を色に例えてそう思うのである。紫」の中に酔いしれるのである。歌舞伎の世界は荒唐無稽であり、現実にはありえないことがら中に美的なリアリズムが存在する。この日の演目は「蘭平狂乱」と「弁天小僧」、それに「鏡獅子」である。いわゆる歌舞伎らしい演目であるが、その中で「弁天小僧」だけは、江戸の庶民のことを扱っている。「世話物」とうジャンルに属する演目であるが、江戸の庶民の粋でいなせな生き様が生きと描かれている。これを人間国宝、尾上菊五郎が見事に演じている。見ていて実にきっぷがいい。菊五郎のあの華やかさはまた何だろう。「花」のある役者というのはこういう人のことをいうのだろうと、菊五郎の周りだけが、ぱあーと明るい。それはまた、こちらも明るくしてくれる。いいもの見た。そう思った。
満足して芝居が終わり外に出ると、また歯が痛みだした。おそらく痛みというのは、なにかに夢中になると忘れてしまうものなのだろう。
世の中のみんなが、なにかに夢中になり、痛みを忘れることができるようになればいいのに。
そんなことを、考えてしまった。
和歌山 なかお
みなさんが少しでも早く元の生活に戻れますように。
少しでも傷が癒えますように。
先生、本当にありがとうございます。
日本にはこんなに心優しい方々がいることを誇りに思います。
桑山さん お疲れ様です。
ブログコメントを読んで また 地球のステージが 日本中を廻るんだと スケジュールをチェック。
大丈夫ですか?
一人何役もして・・・
くれぐれも自己管理をしてくださいね。
桑山紀彦は世界にたった ひとりしかいないんだから・・・
今日、公演された学校の生徒です
今日の公演を聞いて東北の災害の酷さ災害の大変さなどとてもリアルに伝わってきました。
こうやって本当に災害にあわれた人の公演を聞くと災害にあわれても頑張って生きようとしている人がいるのに苦労もなしに生きている自分が小さく感じました。
こうやって聞いたら自分にできることって言うのがよく分かった気がします。
東北の人々が1日でも早く元気になるように復興できるように心から祈っています。今日の公演本当にありがとうございました。
桑山さんのところに通われている方が少しずつ元気になっていかれることを願っています。
ひたすら寄り添おうとしている桑山さんの姿にプロであることの力強さを感じます。
地域の人たちを救う国際さんでいてください。
日々、被災地の人々の様子を伝えてくださって有難うございます。
ステージの「震災編」もきっと多くの人の胸に響くことでしょう。
5月6日に桑山さんの講演を聞いた高校の生徒です。
地球のステージを聞くのはこれで2度目でした。
大震災の経験とも重なって、地球のステージにすごく考えさせられました。
助け合うとか、頑張るとか、軽く口には出せるけど、もっと深くて色々な意味があるような気がしました。
私も自分にできることを探します。
桑山さんのご活動を心から応援しています。
先生、皆さん、お疲れ様です。
全身全霊で患者さんたちに向き合っていらっしゃるご様子が伝わってきて、胸がいっぱいになります。
様々な支援がなされてきていますが、心のケアの支援はとても難しいことなのだと思われてなりません。
お体、どうかご自愛ください。