歩さんの“あの日”

 今日は1日外来でした。

 内科&外科の患者さんはあふれるようにやってらっしゃいます。
 午前中で内科だけで30人を超えている状況はこれまでの「東北国際クリニック」にはなかった数です。いろんな人が利用してくださるようになりました。特に避難所からの利用が大きく、まだまだ準緊急期であることがわかります。
 そんな中、今日の午後から事件が起きました。
 なんと館腰小学校からの患者さんでたてつづけにA型インフルエンザが4人も連続して出てしまったのです。これには焦りました。再びインフルエンザの流行です。参りました。やはり狭い空間にたくさんの人が集まって暮らしているので流行しやすいのです。まさに避難所に特徴的な流行パターンです。医師会と話し合って、半径2m以内の人にタミフルの予防内服を行うことになりました。この予防内服は賛否両論ありますが、今回はGoです。
 この時期にインフルエンザの流行。まだまだ気が抜けない避難所との関わりです。
 昨日は文化会館に避難していらっしゃる人が結局3人夜間に受診しました。まさに24時間で利用して頂いているのがありがたい。昨日は熊本から応援に来てくださっている田中先生が夜勤でした。今日は桑山は夜勤です。今のところまだ患者さんは来ていませんが、深夜帯にくるかもしれないですね。
 ドキドキしながら待ちます。
 夕方、患者さんの間を縫って赤い消防車の桜井歩さんの二人の娘さんに逢いに行きました。19歳と17歳の姉妹はとってもしっかりしていて、まっすぐな瞳に圧倒されました。
 妹のゆいちゃんが教えてくれました。
 「あの日、地震が来て、津波警報が出ました。父はいつもそうであるように消防車に乗り“みんなに知らせてくる”と言って出かけました。私と母もクルマに乗り込んで父と別れました。“津波が来るので、仙台空港に避難してください~!”という父の言葉が遠のいていくのをはっきりと覚えています。今ではそれが最後の父の言葉でした。
 やがて津波が来て、私と母は仙台空港に取り残されました。父がどうなったのか、わかりませんでした。
 次の日が来て、父の乗った消防車が空港の脇でひっくり返っているのが発見されました。やっとの思いでたどり着いたけど、父の腰の部分しか触れませんでした。でも確かに父とわかりました。ひっくり返っているこの消防車を何とか元に戻してくれと、みんなに頼んだのですがそれは無理だと言われました。私は父がもうそこでなくなっているのがわかったけど、この冷たい世界から開放してあげたかった。でもあまりに消防車は重すぎて父はそのままの姿でそこに居続けました。
 再び仙台空港の二階に戻った私と母は、父の赤い消防車が見える一番端の窓を開けて、
「おとうさ~ん!おとうさ~ん!」
 名前を呼び続けました。
 父はこうして旅立っていきました・・・。」
 朝日新聞でもっとも信頼する記者さんとゆいちゃんの家をあとにしました。
 気がつくと名取のガソリンスタンドにも、もう並ぶクルマの姿はなく普通に給油ができることに気付きました。
 そうやって普通に戻っていくものと、いつまでも残ってしまうものの狭間で被災地の時間が過ぎていきます。
桑山紀彦
 

歩さんの“あの日”」への11件のフィードバック

  1. 少しずつ日常に戻りそうになると、「忘れるんじゃない。」と言わんばかりに、地震が起きます。今も、ちょっと呑気に座っていたら、東京ですら、かなりの揺れがありました。そちらは大丈夫ですか?津波警報も出ています。地震のない地域で生まれ育った私は、地震が怖くてたまりません。大きな津波になりません様に。
    歩さんのお嬢さん… 消防車を見つけられた時の事を考えると胸が締め付けられます。 歩さんのこれまでの活動、活躍を無駄にしない為にも、名取を盛り上げて行きましょう。

  2. また 大きく揺れてるようですね。
    お願いだから もう 揺れないでください。
    ただ 祈るだけです。
    揺れていないところで ニュースを聞くだけで 体が凍りつきます。
    そちらにいらっしゃる方々は 生きた心地はしないでしょうね。
    お願いだから もう 揺れないでください。
    祈ります。

  3. また地震がありましたね。
    そちらは大丈夫でしたか?
    今日、あいの里東中学で入学式がありました。
    PTA会長・Tさんの挨拶の中に桑山さんと歩さんのお話が盛り込まれていました。
    「歩さんのように、見て見ぬふりをしない人になって欲しい」というメッセージが心に染みました。
    中学生たちにも、きっと伝わっていたと思います。
    お体大切になさって下さい。
    また、中学生たちに会いに来て下さいね。

  4. 『神様、もういい加減に地震も津波も止めてください。
    あなたの偉大さにもう充分気づきましたから・・・』
    東北の皆さまのご無事を祈っています。

  5. どうぞ、皆さんご無事でいてください。
    神様、もう辛い思いはさせないでください。どうかお守りください。

  6. 大きな揺れ、心配しています。
    テレビでは、まるであの日の様に、どのチャンネルでも地震のニュースを伝えています。
    あの日のことが蘇ります。
    胸がつまる様な、苦しい感覚に襲われています。
    前向きに!と思いながら、つい「あの時、もしも……」と、時々思いを巡らせてしまうのが私の悪い癖です。
    皆さんの無事を思いながら、今夜は眠れぬ夜をすごします。
    ではまた、あした。

  7. お風呂から出てきて部屋に入り 真っ先に目に飛び込んできたのは「宮城県震度6強」の文字・・・
    「何で!」って思わず叫んでしまいました。
    テレビに映る光る空 真っ暗な中を市役所に向かう男性・・・過呼吸で救急車で運ばれた人がいるというニュースもういい!もうやめて!
    誰にこの声をぶつけたらいいの?
    多くの子ども達が震えているかと思うといたたまれない・・・
    名取もけが人がいると聞き心配で眠れなくなってしまいます。
    どうか大きな被害がありませんように!!!

  8. インフルエンザの試練を読んでいたら又大揺れ!
    再び事務所の中がめちゃくちゃ?と思ったら寝られなくなりました。今日は名取に思いをはせながら徹夜します。

  9. インフルエンザの試練を読んでいたらまた大揺れ!
    事務所がまたまた滅茶苦茶と思ったら寝られなくなりました。
    今日は、名取に思いをはせながら徹夜します。

  10. 消防車は重くて人の手では動かすことができなかったんですよね。
    歩さんをそのままに、空港の窓から「おとうさ~ん!おとうさ~ん!」と名前を呼び続けたご家族。
    本当に胸がつぶれる思いで読みました。
    皆さんに知らせるために丁寧な記事にしてくださることを祈っています。

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