90歳のマリアばあちゃん

今日は移動診療です。
 我が「地球のステージ」の東ティモール事務所は代表のアイダ医師、コーディネーターのサラ、助産師のサラ、運転手のサビーヌの4人がチームとなって出かけます。
 今日はハトリア郡のさらに奥地、テヌイ村が目的地です。
 雨期に入って道はぬかるんでおり、大変。特に後半半分のオフロードは運転するランクルがぎゅんぎゅん音を立てて滑ります。それでもなんとか村に到着。早速妊産婦と新生児検診が始まります。手際よく、村のスタッフとの協力も充分で見事に仕事が進んでいきます。
 「地球のステージ」が現在は完全に自己資金で進めているこの事業は、全くのオリジナルであり、どこかの団体の活動を資金支援するものではありません。みなさまからの募金や「地球のステージ」を呼んでくださった時のお金の一部がこの東ティモールに運ばれ、この4人の給与となり、クルマを動かし、ガソリンを買い、薬を提供しています。
 そういう、自己資金かつ完全オリジナルの活動ができている幸せを感じます。規模は大きくなくても、それはNGOとして一番の理想型だと思うからです。
 今日の診察の中心はやはりアイダ医師ですが、後半の一般診療は手伝いました。
 さすがに3日目になるとテトゥン語もよく出てきます。
 そんな中にマリアばあちゃんがいました。
マリアばあちゃん
マリアばあちゃん
 「今日はどうしました?」
 「うん、おなかが痛いんじゃ」
 「この辺りですか?」
 「うん、そうそう、その下腹のところじゃよ」
 「下痢はありますか?」
 「うん、昨日から続いとる」
 「お薬飲みました?」
 「いや、この村には何もないからな」
 「・・・」
 「ほんとに、この村には何もないんじゃよ」
 「でも、みんな生活してるじゃないですか」
 「そうじゃな」
 「ところでマリアおばあちゃんは何歳ですか?」
 「う~ん、いくつかなあ」
 すると横から、村の人が
 「多分90歳くらいだよ」
 「いや、そんなにはいっていないよ」
 「オレは88歳だって聞いてるぞ」
 いろんな意見が飛んできました。
 「マリアばあちゃん、本当は何歳?」
 「いや、ワシはもうとしを数えるのをやめとるから、正直全然わからんのじゃ」
 すると、再度村のみんなが、
 「マリアばあちゃんはこの村で一番の長老だから、すご~くたくさん生きているってことで、90歳ということでどうかな、ドクター」
 「・・・わかった!そうだね、マリアばあちゃんは90歳!と」
 カルテに書き込みました。
 こうして暮らしは続いていきます。
 何もない村だとマリアばあちゃんは言います。でも僕にはたくさんのものがあると思えてくる。
 人の善意、優しさ、素直さ、工夫、努力、知恵、ユーモア、笑い、哀しみ、歓び・・・
 
 また一つ忘れられない村がこうして出てきます。それだけで充分ドラマになってしまう東ティモールの小さな村。
 NHKの名番組”鶴瓶の「家族に乾杯」”が来たら、どれほどの笑いとドラマが描き出せるでしょうか。
 土砂降りのスコールの中、村人が暖かく見送ってくれました。
 「Hau Mai Fali!(=また戻ってくるから!)」
 と言い残してクルマのハンドルを握りました。
桑山紀彦
 

90歳のマリアばあちゃん」への2件のフィードバック

  1. 見えないものこそ大切なメッセージ・・・
    そんなメッセージを感じ取ることができる桑山さんは、今更ですが、素晴らしい感性をお持ちの方だと思いました。もしかして桑山さんは、出会う人々から、社会から自然から発せられる見えないパワーを受け止めて、それをご自身の困難に立ち向かう勇気や行動力に「へ~んかんっ!!」してらしゃるのかしら?!
    マリアばあちゃんも村のひと達も、とってもキュート!
    何もなくても必要なら今あるもので工夫してつくる・・・。
    それにしても、年齢までつくちゃうとは!
    私もおばぁちゃんになったら参考にさせていただきます(笑)

  2. 桑山さん、yuukoちゃん、スタディーツアーのみなさん、お疲れ様でした。今日、東ティモールを出国するのですね。
    マリアおばあちゃんの話、「うん、うん。」と、懐かしく読みました。
    東ティモールは、戸籍がないため、本当の年齢がわからない・・・ということなのでしょうか。
    平均年齢も、私の行った頃で47歳だったと思います。
    栄養状態や生活苦から、老けるのが早いのです。
    でも、人々の生活は、素直さや優しさにあふれていた感じがしました。
    「これまでの活動履歴」の、05/01/17に、私の報告がありますので、よかったら読んでください。

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