困難の島、東ティモール

今日は朝から惨憺たる状況でした。
 まず朝の回診にダン先生がいない。おかしいと思って分娩室に行くと、赤ちゃんが呼吸停止のままダン先生の処置を受けています。まずいと思い介助したのですが、結局呼吸は戻りませんでした。お母さんの産道が狭いのに、赤ちゃんの身体が大きいため、途中で止まってしまい呼吸を圧迫して死に至ってしまいました。
 放心状態のお母さんの代わりに、ダン先生はおばあちゃんに状況を説明しました。
 雨期のくせにやけに晴れ渡った空が恨めしかったです。
 そして通常の回診が始まったのですが、21歳の男性結核患者さんが虫の息です。右肺の大半が結核による「巣」に押しつぶされて、酸素飽和度は61%。通常私たちは98%程度、どんなに病気で落ちても80を下回った人は見たことがありません。けれど彼の肺はほとんど機能していません。
 それでも、バイロピテ病院にたった一つだけある酸素ボンベを使ってしまったら、急患で緊急に酸素が必要な人に使えなくなるため、この場合には使えないとダン先生は判断していました。
 移動式の酸素ボンベがあるけど、数が足りないために使えない。
 男性は、午後すぐに息を引き取りました。直径にすると15cmはあろうかというCavity(空洞)を持っていたので、もう治療は外科的にそれを取り除く他ありません。何もかもが手詰まりの一日でした。
 
 雨期の東ティモールは、こうやって病気が激発します。国全体が結核とマラリア、チフス、コレラに覆われて、まるでこの雨期に襲ってくる午後からの黒い雲のようです。
 それでもできることをやり続けるしかない、「限られた医療」の中での日々の戦い。
 ダン先生の心がくじけませんように、と祈るばかりですが、そう問うとダンが言いました。
 「日本のみんながこうやって支えてくれているだろう。それをありがたく思う。大丈夫だ、心配するな」
 明日はハトリア郡の移動診療に出かけます。
桑山紀彦

困難の島、東ティモール」への3件のフィードバック

  1. 「限られた医療」かぁ・・・。
    これが東ティモールの常識とは思いたくないですが、現実なのですね。
    辛すぎる!!
    先生のココロにも黒い雲がかかりませんように・・・。
    移動診療頑張って下さい。

  2. ダン先生の、その逆境にくじけない精神の強さには頭が下がりますm(__)m
    桑山さんも講演ではよく「怖かった」とおっしゃってますが、それでも結局は最後までやりとおしてしまうところがすごいと思います!!
    やりきれない、憤りを感じることはたくさんあると思いますが、へこたれず出来るだけたくさんの人を助けて下さい。
    日本で空を見上げて皆さんの健闘を祈っています。

  3. 25日の福岡のステージを心待ちにしていた14才の息子が前日より新型インフルエンザに罹り、泣く泣くあきらめた親子です。すぐに診断が出来て薬をいただいてもう回復してきた息子が居る空の向こうでは、マラリアか新型インフルエンザかの熱の診断キットも薬も足りず、日々重篤な患者さんとも精一杯向き合っている先生がいらっしゃる…。繋がっている空気の中に生きている私達なのに、何もできてない私が本当に悔しいです。まずは息子とこのブログで知った現状について語ってみますね。地球のステージに昨年出逢わなければこんな時間も持たず、地球人としての想像力の大切ささえ気付かずにいたことでしょう。感謝です。ありがとうございます。地球上に人と人の心を繋ぐ架け橋をいっぱいかけるんでしたよね。虹色の橋を私も周りの人と共に架け続けることが、今の私にできることなのかもしれませんね…!

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