読み合わせ最終日。
子どもたちもやる気満々で、懸案だったフェダーも素晴らしく激変していました。彼女は声が大きくハスキーです。柔らかい声のファラッハと対比となってすごい迫力があるように思いました。
4人の子どもたちのやる気の姿を見ていると、本当に取り組んで良かったと思いました。
でも、この映画を創るにあたってずっと気になっていたことがあり、アーベッドに聞きました。
(向かって左端がアーベッドです)
「なあ、アーベッド。僕はこの映画を創るにあたって一つだけ気になっていることがあるんだ。それは、この映画がドキュメンタリーではなくフィクション、つまりファンタジー的なものを目指していることだ。
ガザの映画と言えばどんな場合でもフィクションしか考えられなかっただろう。
しかし自分はあえてフィクションを創りたかったんだ。だからこのシナリオを書いた。
でも考えてみればガザの人たちの日々の苦しみは想像を絶するものがあるだろう。去年の戦争でもたくさんの人が亡くなった。戦争の本当の姿は家が破壊され、人がばらばらとなり、肉片が飛び散る、そんな世界だ。それを描こうとするなら、ガザの人たちは納得するだろう。しかしこの映画はそうではない。子どもたちが登場し、石が光って、天から亡くなった人の声が聞こえてくると言うものだ。
厳しい現実に曝されているガザの人たちは、これをどう思うだろうか。」
アーベッドはゆっくりと答えました。
「私はこのシナリオを受け取り、まずじっくり読んだ。そして一章一章ゆっくりと訳していった。そして感じたのは、このシナリオの中に潜む、ものすごく強いメッセージだった。それは決して「敵を倒せ!」とか「敵に死を!」といったものでは全くない。だが、根底にあるものは「反戦」そして「平和」であると感じた。
セリフの一行一行の中に描かれているものは、夢や希望、そして願いだ。
それは、どんなに厳しいガザの生活であってもなくしてはならないものなのだ。厳しい生活だからこそ、それを持っていなければならない。この映画はそんな「希望」をガザの人々に与えるものだと思って訳してきた。
出口のない日々の生活の中で大切なものは何か。それは怒りではなく、尊厳を保つことである。この映画で訴えているものは、まさに人の尊厳をどう保つかと言うことだ。
自信を持って、私たちはこの映画を創り、世界に問いたい。」
アーベッドは完璧に僕の意図を理解してくれていました。嬉しかったです。
しかし、今日の最後の読み合わせであの、大学生のモハマッドが言うのです。
「ぜひ、この映画の中で2分でもいい。去年の戦争の犠牲者のコメントを入れ込めないだろうか。
そう、今のモハマッドはここに意識があるのです。つまり「怒り」です。
これが今のモハマッドのエネルギー。「許せない」「真実を伝える」「だからジャーナリストになる」。19歳の青年は正義感でまっすぐです。
でも本当にこれでいいのでしょうか。
怒りに突き動かされた気持ちが、本当にどこまで世界を動かせていけるでしょうか。
旅人のコートを脱がせるために競い合った「北風と太陽」。北風はビュービューと風で脱がそうとしたけれど、暖かくすることで太陽はコートを脱がすことが出来たのです。
今のモハマッドはまさに「北風志向」。友だちを失い、家の一部を破壊されてきたモハマッドにとっては当たり前です。
そしてこの映画は「太陽志向」。伝えたいことは人間の愛情や優しさ、思いやりです。
モハマッドは出演者でもありますが、ずっとアシスタントを続けていきます。そんな日々で何を感じ、何を学んでいくのか、見守りたいと思っています。
それでも平和な日本に住む桑山がどこまでパレスチナの人たちに近づけるのかも勝負所です。
「おまえに何がわかる」
パレスチナ人にこの気持ちを持たれてしまうことは覚悟しています。でも、少なくともアーベッドはこの映画のシナリオに込めた「愛」や「優しさ」に大いなる価値を感じてくれています。
厳しい戦争の地にも普遍的な愛が通用するのか、大きな取り組みの第一段階が終わりました。
先ほどガザを出ました。
この1ヶ月、現地は読み合わせと立ち稽古を繰り返して本番に臨みます。
日本側も機材の最終調整と備品の整備です。
「地球のステージ」始まって以来の、海外ロケ映画の誕生まで、あと少し!
桑山紀彦
いつも、思いや状況をとても詳しく伝えてくださって、ありがとうございます。
いろいろなことを感じ、考えています。
怒りが行動を生むエネルギーとなることも確かだし、強い正義感に突き動かされ行動することも…
ただ、自分自身の心を見つめると、やはり、激しい怒りを持ち続けていると、苦しくなります。
絶対に許せないこと!決して忘れられないこと!は、あるけれど、その先に進めたときに、心の安らぎと未来への明るいエネルギーがあふれてきます。
日常の小さな出来事や人間関係の中では、ためこまずに吐き出して分かりあい、一緒にその先に進むことはできますが、大きな大きな出来事(辛い経験)の先に進むことは、簡単なことではないと思います。
その道を一歩一歩進んである生き方を、このブログを通じて知ることができ、ありがたいです。
皆さんに、直接お会いできること、映像で観ることができることを楽しみにしています。
日本に戻られても、ガザの日々は続いている…
最近、少し高い所から、地球全体を見ている感覚があります。行ったこともない会ったこともないけれど…
地球のステージのおかげです。だから、たくさんの人に観て感じてほしいです!そのことを、私なりの言葉で伝えています。