そのお店を見た時に、びっくりしました。
崩れかけたその建物の中にお店が開かれていたのです。
家族同様につながっているマジディ一家のすぐ近く。確か空爆前は角に小さなレストランと電気屋さんがあったと記憶していました。
いつ崩れ落ちるかわからないこの廃墟の中で、それでもあきらめずにお店を続けていたのがフェイサル・スレイマンさん、50歳です。10年前からここで電気屋さんを営んできましたが、今回の空爆で破壊されました。
「おかしいよ。だってただ単に電気屋をやってきただけなんだ。なにも悪いことはしていない。ハマスとつながってもいない・・・。」
崩れてくる心配は無いのか、と聞くと、
「そりゃあ崩れるかも知れない。でもオレは電気屋だ。物がどうなっているか一応見た上でここでやれるって判断したよ。でも完全じゃない。崩れることもあるだろう。でも、崩れてくるかも知れないから店をやらないんじゃなくて、崩れてこないかも知れないからお店をやるんだよ。」
前向きな可能性のほうに人生をかけて生きていく。いかにも不屈のパレスチナ人らしい生き様です。
なぜここまでしてお店をやるのか、と問えば、
「そりゃあ食べていかなきゃいけないからさ。オレには5人の娘と息子が一人いるんだ。長女のスーハは今大学3年生。次女のニダーは大学2年生だ。お金がかかる。でも子どもたちの夢をかなえたいから頑張って働いて大学を出してやりたいんだ。
ニダーは秘書科にいて、スーハはコンピューターの勉強をしているんだよ。」
「お父さんが電気屋で、ずっと機械を見てきたからそっちに進んだんでしょうね。」
するとスレイマンさんは照れ笑いしながら、
「そうだな、そうだと思うよ。」
と嬉しそうでした。
「あの日は8月1日だった。空爆が始まってどんどんこっちに迫ってきたんだ。しょうがなくて逃げたらもう後ろは土煙と炎の海だったよ。危機一髪だった。
それから4週間、ずっと避難所で暮らしてきて、戻ったらこのありさまだ。悔しくて泣けてきたけれど、瓦礫の中を見たらオレが売ってきた物たちがそこに転がっているじゃないか。
まるでオレに”おれたちを売ってくれ”、”あきらめるな!”って言っているようだったんだ。そんなほこりまみれの電球や電線が愛しくなってさ・・・。それで決めたんだよ、”オレはあきらめない”ってな。ここはどこでもない、パレスチナなんだよ。絶対にあきらめないんだ。」
ここは一つ物を買うことで支援するのが一番と思い、明ちゃんはアーベッドを誘って高そうな電気でパンを焼くフライパンのような物を注文しました。
手際よくそれを組み立てていくスレイマンさん。できあがって、
「いくら?」
「80シェケル(2400円)だよ。」
「じゃあ、100シェケル払っておつりはいらないから。」
「いや、オレは寄付は受けない。ちゃんと物を買ってもらえば、それが一番嬉しい。だから、ほらおつりの20シェケルだ。」
この誇り。この強さ。
結局、色んなものを買い込んで200シェケルを支払うことができた明ちゃんも嬉しそうでした。
これが少しでも大学に行っている娘さんたちの足しになるといいな、と思いました。
そして夕陽が沈んでいきました。いろんな物を見、いろんなことを感じてきた今回のガザ地区、ラファ。しかし、最悪とみなが呼ぶ50日戦争からまだ3週間しかたっていないのに、この生きる力のみなぎり方は何だろう。感動の毎日でした。
もちろん、阿鼻叫喚の世界だったことを感じる場面もたくさんありました。
アーベッドが見せてくれる、着弾の瞬間のビデオ、引きちぎれた人の遺体の写真。多くの悲劇にも触れてきました。しかし人は立ち止まらない。嘆き悲しみ、絶望にうちひしがれるけれど、やがてその気持ちは底を打ち、緩やかに上昇していく。そして、
「しょうがない、また生きていくか・・・。」
と顔を上げていくのです。
そしてそれを伝える「地球のステージ」は、今回の50日戦争を早急に作品として仕上げていきます。
またステージで会いましょう。
連続のブログへのおつきあい、本当にありがとうございました。
土曜日の早朝に出国して日本に帰国します。
桑山紀彦
スレイマンさん、逞しいですね。逆境に負けない生き方、気持ちの持ち方を見習いたいです。
どうぞお気をつけて帰ってらしてくださいね。新しい作品を楽しみにしています。
スレイマンさん、すごいなあ。この苦しい時に、おつりは
要らないというお客に「おれは寄付は受けない。」と言える
強さ。本当にすごい。パレスチナにこのような人がいて、
このような人たちのパワーが集まって、また立ち上がって
前に進んで行くのでしょう。スレイマンさんの心にパレスチナ
の明日への希望の光を感じました。桑山君、明子さん、
お疲れ様でした。気をつけて帰ってきて下さい。
ガザ報告ブログ、まとめて読ませていただきました。
毎日、「生命」と向き合って生きている人々の何と、凛々しいことでしょう。
桑山さん達のおかげで、レアな報告に触れることができ、
スレイマンさんやモハマッド、アッラーなどのパレスチナの
人々を身近に感じます。
そして、わが身に置き換えたら絶望的な気持ちになります。
どうか、モハマッドやアッラーなどの若い人たちの未来が
拓けてゆきますようにと、
願わずにはいられません。
お疲れさまでした。ありがとうございました。
スレイマンさんのパレスチナ人としての誇り
未来を背負ってゆく若い人達のお陰で
パレスチナとイスラエルの戦いの歴史の中で
原爆を落とされた日本とアメリカが仲良く成れた様に
全くも想像も出来ない夢を見る事が出来ました
現実は唖然とする様な事ばかりなんでしょうけれど…
なんで空欄が出来るのでしょう???