ワークキャンプ最終日



ワークキャンプの最終日、僕たちは森の中に入りました。

 じりじりと上がる気温を身に受けて、森の中に入るとそこはとても気持ちのいい空間が広がっていました。森の中でのワークショップ.これは僕たち「心理社会的ケア」のチームではなく、PA(Project Adventure)のチームがくんでくれたメニューです。今回は我が「地球のステージ」の初代事務局長、井東敬子と山梨から来てくれた梅ちゃんこと、梅崎靖志さんがプログラムを組んでくれました。敬子ちゃんは「地球のステージ」の黎明期を支えた人物です。まだステージの出力メディアがS-VHSだった頃の事務局長。もちろん写真は「ガッチャンガッチャン」と前に進むスライドプロジェクターだった頃です。

 その後敬子ちゃんは富士山麓にある野外体験学校「ホール・アース」に転職し、野外体験学習のインストラクターになりました。そして勉強と経験を重ね今目の前にPAのファシリテータートして現れたのです。10年ぶりに一緒に仕事ができました。しかも異業種同士なのに、一緒のものを目指して。こんなうれしいことはありません。

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 さて、梅ちゃんはみんなに問いかけました。

「みなさん、3日間おつかれさまでした。みんながいろんな思いで3月11日以降生きてきたことが伝わってきました。あの日のことを語ってくれた勇気、家族への感謝の気持ち、みんな本当に素直な心で僕たちに伝えてくれてありがとう。

 僕たちの人生はつながっています。過去の自分、例えば閖上中学校にいたときの自分。そして3月11日、あの日の自分。それから高校に進んだ自分。そしてこのサマーキャンプの誘いが来たときの自分、行こうと決めた自分、そして参加した今の自分。」

 高校生たちは素直に梅ちゃんの言葉を森の中で聞いています。梅ちゃんは続けます。

「そんな今、未来を想像してみましょう。将来の自分、どんな職業についているのか、何をしているのか。遠い先の未来を想像してみましょう。

 さて、今からみんなにお願いがあります。これから3ヶ月後の自分に宛てた手紙を書きましょう。3ヶ月後は11月4日の自分です。3ヶ月後はどうしているだろう。どんな思いでいるだろう。何でもいいんです.3ヶ月後の自分に向けて手紙を書いてください。

 僕たちはそれを一切読みません。みんなが書き終わったら自分で封をして、住所と名前を書きましょう。そして裏には「3ヶ月前の自分より」と宛名を書きましょう。

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 高校生たちは決心したように近寄ってきてくれて僕たちから便せんを受け取っていきました。そして思い思いの場所で、思い思いに考えながら手紙を書き始めました。内気だった子も、良くしゃべった子も、恥ずかしがりやだった子も、照れ屋だった子も、元気いっぱいだった子も、悩みを抱えてうつむいていた子も、みんなみんな緑の空気に包まれて、3ヶ月後の自分への手紙を書き始めました。

 感動しました。

 これは強制ではありません。授業でもありません.学校のカリキュラムでもありません。地元の小さなクリニック「国際さん」と普通は海外で仕事をしているNGOの「地球のステージ」と「NICCO」が企画して敬子ちゃん、梅ちゃんと一緒に計画した世界で唯一の心のケアの活動です。

 そこに高校生たちは一生懸命未来への自分に向けて一生懸命手紙を書いてくれました。美しい風景でした。

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りょうた2号

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まこちゃん

 ほんの5ヶ月前生死の境をさまよい、多くの友達、家族、親戚を失い、ほとんどが家も想い出も流され、

「なんでオレだけこんな目に遭うの。」

 と思っていたに違いない彼らが、素直な心で未来への自分への手紙という、よく考えれば非現実的なテーマに一生懸命取り組んでくれているのです。この素直な高校生の「書く姿」に僕たちは大きな勇気をもらえたのです。もう何も彼らを多くの言葉で形容する必要はありません。彼らに向けて一言云うだけで十分でした。

「ありがとう」

 そして3日間で最後のプログラム。「Talking Stick」です。

 敬子ちゃんが伝えます。

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「みんなの前に、1本の木が置いてあります。これからはその木を持っている人だけが、好きなだけ、好きなように、今回のワークキャンプに参加した感想を話してもいいのです。木を持っていない人は、その持っている人の話を一心に聞く。それだけがルールです。

 もしかしたら“僕は話したくない”という人もいるかもしれない。それでも大丈夫です。でも、必ず1回はその木を持って、しゃべらなくてもいいから心で念じてください。持つだけで十分です。」

 静寂が訪れました。誰も話そうとはしていませんでした。僕は不安になりました。このままこの高校生たちが何もしゃべらないでいたらどうしよう、と。だからまずは僕が口火を切りました。続いて明ちゃんが話してくれました。

 それでも、誰もその木を手にしようとはしない。敬子ちゃん、どうする?と思っていたけど敬子ちゃんは動きません。時間が流れていきました。僕たち主催したものたちは少しずつ「このままだったらどうしよう」と思い始めていました。

 そんな気持ちを抱えてうつむいていた、そのとき、誰かが立ち上がる枯れ葉のすれる音がしました。

(ん?もしや?)

 みらいが立ち上がっていました。高校生の先陣を切ってたった5人で参加した女子が立ち上がったのです。心の底からうれしかった。みんなは時間をかけてちゃんと話す準備をしていたのです。

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最初に立ち上がった”みらい”ちゃん(木を持っている)


 それからは女子みんながちゃんと今回の感想を語り、続いて男子もしっかり立ち上がって語り始めました。

「私は、高校に行って寂しかった。みんな津波のこと知らないし、時々心ない、嫌なこと云う人もいて孤独で寂しかった。でも、今日ここに来れてやっぱりここに仲間がいたってことをもう一回確認することができました。だから本当に参加できてよかったし、元気と勇気をもらいました。」

 みんな同じ気持ちを持っていました。そして単純にふたをして忘れていくのではなく、心の中に整理することであの惨劇を乗り越えていくのだという意志を感じることができました。


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こうき

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ぐっつあん


 実に1時間をかけてすべての高校生が前に進んで木を持ち、ちゃんと自分の気持ちを語ってくれました。もちろん僕たちスタッフもみんな。明ちゃんや優子ちゃんは自分が直接被災してもその後忙しさの中でなかなか心の整理ができていなかったことを涙と共に語りました。

 りんりんは自分があの日自分の実家の愛知県にいたのに、被災地にやってきてたくさんの人と知り合い、たくさんの思いを受け止める中でこのワークキャンプの企画の中心としてやれたことの喜びと、素直な高校生に触れて率直に感動していることを涙と共に語りました。

 あの津波が閖上中学校を襲ってきた瞬間の映像をみんなで見ました。みんなが強く「絶対に見たい」と願ってきたものです。そこにはまこちゃんの家が強固に残り、じっと耐えている映像が映っています。それをまこちゃんはその大きな瞳で見ていました。自分の家の最後の瞬間をじっと勇気を持って見続けていたのです。そして校庭がどす黒い海に変わり、すべてが流れていく映像。それを見た僕たちは「地獄だ」と思いました。その場にいたこの高校生や藤村先生はそこに何の慈悲も感じられなかったのだと思います。だから地獄を見てみんな絶望していました。でもその経験をしたこの高校生があの困難を乗り越えて、ひねくれることなくちゃんとまっすぐな心でいてくれる彼ら彼女らの中に光を見つけました。

 本当に、このワークキャンプを開いてよかった。

 僕たちは協力し合えばここまでできる。そんな全員で作り上げた共同制作の3日間でした。

 次は冬休みだ!


桑山紀彦


追記

 この事業は三菱商事の助成金を受けて行いました。


ワークキャンプ最終日」への7件のフィードバック

  1. お疲れさまでした。みなさんから力をいただきました。立ち上がっていく姿を見せていただいて…神さまがいると確信します。ありがとうございました。今はわからないことでも、後できっとわかる時が来るでしょう。光と力が与えられるように祈っています…。一日も忘れたことはありません。みなさんお体大切に。

  2. 伝えていただいてありがとうございます。
    場の持つ力を感じました。
    そして、場を作っていくことの大切さを感じました。

  3. おはようございます。台風の影響か昨夜から風と雨です。今日は広島に原爆が投下された日です。あと1時間程で、私の実家のある地域はサイレンがなり黙祷を捧げます。
    閖上中卒業生の皆さん、ワークショップに参加する事もみんに色々考えたり悩んだりした事でしょう。一人一人にとって本当に有意義な3日間になった事でしょう。つらい事もあると思いますが前を向いて少しずつ前進していきましょう。私も、頑張ります!

  4. 私はボランティアとして、ファミリーホームで生活している子どもたちとかかわっています。その子どもたちにも、桑山さんたちのような強力な磁場(?)を持つカウンセラーの存在がいてくれたらと思います。定期的に面接はあるらしいのですが・・・。
    なんで自分がここにいるのか、わからない子どもたちです。
    共有する出来事もない・・・。
    どう関わってあげればいいのか、ただのボランティアにはノウハウもありません。
    ただ、こどもたちを愛しいと思う気持ちだけ。
    空爆にも津波にもあっていないけれど、この子たちの未来は明るくありません。
    地中深く埋もれているこんなこどもたち、どうしてあげられるのか・・・。

  5.  桑山先生は「侍」です。(Tシャツにも書いてあったが。)しかし、それは東映時代劇にでてくるようなかっこいいヒーローなのではなく、藤沢周平の小説に登場するあの下級武士なのです。貧しくても志を失わず、そしてこころ優しく、人として慎ましく生きることを知り、誇らず、真摯に人を思いやり、正しく生きる。そして、”剣の達人”なのです。”剣”は「医学」です。
     藤沢周平と桑山紀彦。ボクには山形大学の二つの大きな巨星に見えます。
      
       和歌山  中尾

  6. 参加してくれた高校生のみなさん、先生、ねーねーです。
    キャンプに来てくれてありがとう。
    桑山さん、声かけてくれてありがとう。
    私は、まだ今回のキャンプのことをうまく言葉で表現できません。じっと言葉になるまで温めておきます。
    ・桑山さんと肩を組んでいる自分の笑顔を見て、いい顔しているな~と思いました。
    また、縁とは不思議なものですね。
    ・みんなの写真を見ていて、空気神社のまわりのやおよろずの神々が見守っていてくれたんだな~と感じました。

  7. 8/4~8/6まで広島に行って来ました。ブログをまとめて読ませていただきました。
    高校生になったみんながいい時間を共有することができて良かったですね。
    4ヶ月経って一度ゆっくり自分と向き合って、未来を考えることができたんですね。
    心温まるキャンプになって良かったです。
    明ちゃん、優子ちゃんも一緒だったんですね。気持ちを話せて良かったです。
    怒涛の4ヶ月を過ごして来て本当に大変な思いをしてきたと思います。
    今までありがとう。これからもよろしくね。

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