仮設住居自治会の結成

 今日は名取市内の仮設住居の住民自治会でした。

 今日で2回目の会議で何とか自治会長を決めなければなりません。僕とケンケン看護師は、オブザーバーとして参加させてもらいました。現在一番新しくできあがったこの仮設住居につくられた集会所には50人を超える皆さんが集まっていました。でもエアコンが付いていないので、ものすごい暑さの中で会議が始まりました。

 市役所の皆さんが丁寧に説明します。

「え~皆さん、今日はお集まり頂いてありがとうございます。生活も少しずつ慣れていらっしゃるとは思いますが、そろそろ自治会が発足しないといろいろと不利なことが生じ始めています。例えば今倉庫に眠っているお米。お隣の上山市から頂いたものですが、自治会がないと結局誰も手がつけられなくてそのまま置かれています。170世帯が暮らしているわけですが、3000キロあるとしたら、各家庭15キロずつ手にすることができます。でも自治会がないといつまでもそれは分配できません。これからいろんな支援物資やイベントがやってきます。ぜひこの機会に自治会をつくって、効果的にやっていきましょう。」

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 し~ん。

 みんなが静まりかえります。

「大丈夫かな。これで自治会できるかな・・・。」

 ちょっと不安になりました。しばらく市役所の方から話が続いたあと、

「あのですね、市役所の方から“この人を自治会長にして下さい”とは一切言えません。あくまでこれは住民の皆さんの自発的な気持ちによって作られる組織です。だから、これ以上市としては口を挟めないんです。」

 と言葉が続いたとき、

「木皿さん、どうかお願いします~」

 とあるお母さんから言葉がありました。すると間髪入れず数人のお母さんが拍手をします。ある意味で他薦の候補者が出ました。

 当の木皿さんは困惑した様子でしばらく黙っていましたが、

「木皿さん、どうかお願いします~」

 という言葉が続いたのでついに、

「いや、オレとしては協力したいとは思ってきたんだけどよ、申し訳ないことにまだ会社勤めなんだ。これは一つOBの方に会長をしてもらないか。もちろん協力すっから。ただ町内会では会計くらいしかやってねえからな・・・。」

 すると別のお母さんが、

「伊藤さん!伊藤さんできねえかやぁ!」

 すると伊藤さんも困惑した様子で下を向きました。すると別のお母さんが、

「やっぱり遠藤さんだべ!

 これは良くない雰囲気ではないか、と思いました。しかしさすがなのはそこに再び市のスタッフが入り、

「ちょっと待って下さい。今数人の方の名前が挙がりました。おそらくその方々は信頼がある方なのだとは思います。でも、声を出した人も、ただ声を出すだけでは無責任に聞こえます。誰かの名前を挙げて、その人にやってもらおう、というのではなくて、みんなの合意の上で決めていかないと・・・。」

 一理あるなあ、と思いながらもこれではいつまでたっても決まらないのではないか、と感じました。すると最初に指名された木皿さんがゆっくりと話しました。

「皆さん、これは町内会長を決めるのとはわけが違います。その仕事の重さ、忙しさ、責任、どれをとっても安易に引き受けられるものではないんです。そのことを良く理解してもらわないと、引き受けたはいいけど仕事がたちいかなくなったってんでは元も子もないです。」

 これもまた正論です。これは170世帯、約400人近い人たちの生活と人生をかけた仮設住居の運営です。その責任の重さがみんなの心にのしかかりつつありました。そこで発言をしたのが長沼さんでした。長男が閖中の3年生なので、スカイルームで既に知り合いです。

「皆さん、まず班長さんを確認しましょう。各棟には班長さんが決まっているはず。その班長さんが誰なのかまだ知らない人だっている。まずは班長さんに集まってもらい、班長さんも自分の担当している棟の人を知り、まとめていきましょうよ。そしてその班長さんが集まって、さっき名前の出た方を交えて自治会長を決めるというのはどうでしょうか。」

 さすが長沼さん、合議制を認めつつより少数に絞って話し合いを円滑にしていく方針です。皆さんが納得し、15人の班長さんと3人の候補の皆さんが残りました。

 すると3番目に名前の出た遠藤さんが言いました。

「私がやりましょう。私は仕事もないし、確かにOBだ。町内会の多少の経験があります。でも確かにお引き受けしますが、皆さんの協力なしにはできません。そこのところは何卒協力して下さいね。

 潔い遠藤さんのお言葉でした。

「異議なし、わかったよ、遠藤さん!」

 みんなが遠藤さんを囲みました。

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 こうして自治会長が決まっていきました。最初はどうなるかと思ってハラハラしていたけど、ちゃんと建設的な意見が出て、それをみんなが取り入れいい方向へ向けていく。そして1人の勇敢な気持ちをみんなで引き出し、協力の姿勢を確認して自治会が発足していきました。とても大切な場所に居合わせることが出来たと思います。

 本当は、豊かな閖上の街で、普通の町内会に所属しながら花火大会などを企画していける人たちだったのです。でも津波ですべてが奪われ、今者仮設住居で暮らしています。一つ一つが大変で将来が見えず、不安もいっぱいあるでしょうに、やっぱり生き残った人々のためにちゃんと協力して無償の仕事を引き受けていく。後半トントン拍子に自治会長さんや自治会が発足していく流れを見ていて感動しました。

 会が終わってみんな汗だくの中、遠藤さんに挨拶しにいきました。

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 真ん中の黒のポロシャツが遠藤さん


「おお、国際さんの院長さん。ワシも大変なとき腰を痛めてな、センセんとこだけ開いてたから行ったよ~。薬飲んだらすぐに痛みが治ったなあ。また落ち着いたら受診するからな。」

 ありがたいことです。

 そして夏休み中にこの仮設住居で展開する小中学生たちへの心のケア(心理社会的ワークショップ)、「スカイルーム」の許可を得ました。とっても前向きに考えて下さいました。さすが!ですね。

 でも問題が一つ。この灼熱の中集会所にエアコンがありません。市の担当の方に聞くと、

「いや、申し訳ないんですが集会所のエアコンは必須ではないんです。そして市の財政はひっ迫しておりまして・・・。」

「では、うち(地球のステージ&NICCO)でつけるということはどうでしょうか。」

「本当ですか、それはありがたいです!」

 ということで仮設住居群の集会所のエアコンは皆様から頂いた募金の一部を充てさせて頂きたいと思います。子どもたちは夏休み中、13時から14時30分までここで心のケアのワークショップに参加します。この節電の流れの中ですが、設定温度は高めに設定しますのでぜひこのエアコン取り付けにご理解下さい。

「スカイルーム in 仮設住居群」は7月21日から始まります。

桑山紀彦

仮設住居自治会の結成」への8件のフィードバック

  1. 桑山さん、優子ちゃん今日は 奈良での 地球のステージありがとうございました。
    奈良女子大学付属の熱い思いの先生たちのお陰で いいステージを見聴きできました。
    ドラえもんのどこでもドア~を使ったような速業で 仮設住宅の自治会のオブザーバー。
    本当に お疲れさまです。
    クーラー付けましょうと 言ってくださってありがとう。
    そちらでもスカイルーム始まるんですね。しっかりと子どもさんたちとも 関(係)わってください。
    明日も ステージだそうですが、お身体に気をつけてくださいね。

  2. 思わず涙がでてしまいました。遠藤さんが引き受けて下さったことがよくわかりました。桑山さんが詳しく書いて下さっていますから状況がよくわかりました。毎日のブログチェックはやはり大切ですね。私も北九州のステージ参加させていただこうと思います。

  3. まとめ役の人を決めるのは、どんな会でも大変です。無事に決まって何よりです。住人の皆さんが協力して変な負担が掛からない様に進んで行くと良いですね。住人の皆さんの為に使って頂いて嬉しいです。

  4. 自治会長が決まるプロセスを実況中継風にお伝えいただき勉強になりました。
    街づくりの第一歩を踏み出した皆さんの様子を今後も時々伝えてくださいね。
    エアコンの取り付け、皆さんのお役に立ててうれしい限りです。
    夏休みの間、子どもたちが集まれる場所ができて良かったです。
    オペレッタのようなものが作れるかしら?みんなで何かできたらいいですね。

  5.        奈良女子大学訪問顛末記
    「明日、奈良へ行ってくる」
    「なにをしに行くの。いったい、何があるのよ」と家人の怪訝な声である。
    「奈良女子大学の、地球のステージの公演を見に行くんだ」
    「それって、変な宗教じゃあないの。あんた、騙されやすいんだから。それでマジで、お人好し。ネコなで声でやさしく云われたらすぐに信用するんだから。大丈夫でしょうね。清盛の尿瓶(しびん)のようなことはないでしょうね」
     僕はお宝だといって古道具屋から5000円出して買ったのである。
    「馬鹿だよねあんあた。平安時代の物がその辺の古道具屋に置いてるわけないじゃあない。だいたい、平清盛が尿瓶(しびん)を使ってたと思う」
    「うん、そのへんは俺もどうも変だと思った。まあ、そんなこともあるかと」
    「なにいってんの、ほんと馬鹿なんだから」
    「まあ、とにかく明日は奈良へ行くからな」
     そう言って、いぶかる家人の疑いを尻目に奈良女子大学に向った。
     梅雨があけたばかりの酷暑のなかの奈良は、ギラギラと肌が焼けるようであった。
     奈良女子大学といえば明治41年設立の名門大学である。関西では珍しい奈良女子高等師範学校を前身とする女子大学である。主催は付属中等教育学校の教職員組合である。
     今回の「地球のステージ」の公演は、いつにも増して衝撃的なものであった。震災編では身に詰まされる思いがして言葉がなかった。
     終演後、司会の方が「桑山先生、被災のなか、どうか踏ん張ってください。応援しています。今日は本当にどうも有難うございました」と締め括った。
     どうれ、これで帰るか、そう思ったときである。司会者が続けて話し出した。
    「皆さん、今日は猛暑の中、お越しいただいて本当に有難うございました。これから暑気払いといってはなんですが、このあとビール祭りを行いますので参加してください」
     席を立ちかけていた僕の足がピタリと止まった。なに、ビール祭り、ビールが浴びるほど飲めるのか、これは凄い。僕は即座に反応した。これは有難い。呑み助の僕は節操もなく参加することに躊躇はなかった。
     主催者のO先生に挨拶しておかなくてはと、
    「和歌山の中尾といいます。僕もビール祭りに参加させて貰ってよろしいのでしようか」
     髭面のやさしい顔をしたO先生はなおいっそう微笑みながら「ええ、いいですよ。どうぞ、どうぞ」と言ってくれた。
     ビール祭りが始まると、僕のお目当ては、テーブルに並べられた山海の珍味と生ビールだけである。 
     主催者のO先生の話はほぼ上の空であるが、O先生は僕に気を使ってくれてあれこれ話しかけてくれる。
    「地球のステージも、今回で8年目でして、それで桑山先生とも長い付き合いでして、それからアレコレ、斯く斯くしかじかでありまして云々・・・・」
    「うん、うん、なるほど、うん、うん」
     相づちは打つが僕はほとんど聞いていない。やはり国立はすごいなあ。変なところにばかり感心している。こんなに料理とビールが並ぶのか。まったくたいしたものだ。
    「ところで、なかお先生はいったい何の先生ですか」
     O先生は、僕が感心しているのにもお構いなくいろいろ問いかけてくる。だいたい、ほとんど話を聞いていないのだから答えられるわけがない。痛たたたたたああ。それも一番訊かれたくないことを訊いてきた。まいったなああ。
    「ええっー、まあ、あのうう、高校のうううっ」
     僕がなんとか話そうと口ごもったときである。O先生の知り合いと思しき女子大の先生が間に入ってこられた。助かった。
    「Oくん。本学の教育をなんとこころえるかね。いつまでも女子教育でもあるまい」さすが大学の先生である。観点が鋭い、時代を見ているのである。
    「今の時代はそうじゃあないですよね、違いますよね」とO先生が相づちを打っている。
    僕は、鳥の唐揚げや味噌田楽、ローストビーフに鳥の股肉と自分の皿に山積みした料理に遮二無二喰らい尽いているだけである。その時点で僕の生ビールの消費量は大ジョッキに三杯はお替りりしていた。もう、酩酊状態である。
    「ところで、Oくん。日本はそもそも社会システムがなっておらん。とりもなおさずそれは社会科学の貧困から来ている。カントやヘーゲルを日本は見直さなくちゃあならん」
    「そうですね、先生。まったくそのとうり」
    O先生が頷いている。僕はそんな変な現象が、今の日本に起こってしまっているのかと思ってしまう。
    「関東地方では、震災や、節電の影響なんでしょうか。そんな変な現象が起こっているのですね」と僕の答え。
    「何ですか、なかおさん。変な現象とは」大学の先生もO先生も怪訝な顔で僕を見る。
    「関東では下痢が流行っているのですか」
    「はあ、あなた、なにを言いだすのですか」

  6.  東北三県で震度4の地震。津波注意報も出たそうです。桑山先生、スタッフのみなさん、名取地区のみなさん、充分気をつけてください。
    いいかげん、地震収まってよと思います。
    もうこれ以上なにをしようというのでしょうか。
    p。s。コメントが長すぎたようです。奈良女子大学訪問顛末記は削除お願いいたします。ご迷惑、おかけしました。

  7. 健康でも、カラダに堪える暑さです。皆さんお元気でしょうか?
    必要なものが、必要とされる場所に気持ち良く届くのって、とても嬉しいです。どこに支援するか、どの情報をキャッチするかで大きく違いますね…
    毎日、想い考える時間を持たせていただいています。ありがとうございます!(でも、どうかご無理なく)
    木村政昭先生(琉球大)『地震の目・噴火の目』→ほんまでっかTVの武田邦彦先生(中部大学)→『内科医が教える医者いらずな美容と健康blog』土井里紗さん→アルピニスト野口健さん→『ふんばろう東日本支援プロジェクト』西條剛央さん→『牡蠣の森を慕う会』畠山重篤さん→『ほぼ日』糸井重里さん→『地球のステージ』桑山さん
    311以降、日課になった旅です。

  8. 人材はいるもんですね。
    ご自分から名乗りを上げた遠藤さん、もう住民の皆さんから一目置かれた存在になっているに違いありません。
    きっと、運営はうまくいくことでしょう。
    募金の有効活用~みんな異議なしでしょう!

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