閖上を走るおばけ

「最近、閖上におばけが出てるんです。」

「え?」
「街を走り続けているおばけが出るんです。」
「それは?」
「逃げ遅れた人たちのおばけ。街の中を夜走り回っているんです。」
「誰が、その話を?」
「みんな言ってますよ。走っているおばけをみたって人が何人も。」
「そうですか。」
「昼間も見える人には見えるそうです。」
「そんな・・・。」
「時には、何人もが集まって走っているようです。」
「・・・。」
「でもね、私の娘は足が遅かったから津波にのみ込まれたんだ。だからね、私はその走っているおばけの中に絶対に娘がいると思うんだ。だからそのおばけに逢いたい。夜はさすがに怖くて私は行けないから、昼間、そのおばけが見える人に付いていって娘に逢わせてほしいな。」
「おばけでもいいから逢いたい・・・?」
「そう、おばけでもいいから逢いたい。そして逢えたらまず”お母さん、助けてあげられなくてごめんね“って謝りたい。そしてぎゅーっと抱きしめてあげたい。そしたら私の娘の魂は空に登っていけると思うんだ。だからどうしてもその“走っているおばけ”に逢いたいの。」
6/27-1
 時間の経過と共にいろんな話が出てきます。都市伝説に通じるものかもしれませんが、この「閖上を走るおばけ」は確実に津波で大切な人を失った人々が、おばけでもいいから逢いたいと願い続けた末に、いつの間にか心の共鳴の中でつくられた想像の物語でしょう。
 切ない切ない人間の心が生み出す想像の話。それを僕たちは真面目に受け止め、ひょっとしたらそんな走り続けるおばけに本当にあえる日を感じながら生きていくのだと思います。人情豊かで純粋な閖上の人々らしい「伝説」の第一話です。
 僕は夜の閖上に良く行きます。真っ暗で月の明かりだけが光々とした夜も、しとしとと雨の降る夜も・・・。
 でもこの話を聞いても全く怖くはありませんでした。いや、かえってもっともっと閖上に行きたくなる。これからは夜に行くときは明かりを落として静かに進みたい。すると静かに走り続けるおばけに逢えるかもしれません。もしも話すことが出来たら、
「何丁目の誰?」
 って聞きたい。僕にとって閖上の人々はそれほど身近な存在。
 かつてうちの家具職人だった親父が急死したとき、
「ああ、おばけでもいいから親父に逢いたい。出てきてくれ・・・。」
 と心の底から願ったことを思い出します。
 こうして人々は物語を創り上げながら、心を癒していくのです。大切な第一話を頂きました。
桑山紀彦

閖上を走るおばけ」への17件のフィードバック

  1. 切ない… でも、気持ちが分かります。おばけでも良いから会いたいよね。ギュッと抱き締めてあげたいよね。見えない人は見えると言う人が羨ましいだろうなぁ。私も母が亡くなったあと、夢で良いから会いたい!って思うたのを思い出します。
    桑山さんには見えんけど、夜、行った時、実は走りよるかも!

  2. 追伸 今日、半日で帰らなければならなくなり、地球のステージ絡みの若いお嬢さんがお付き合いしてくれてランチをしました。和風レストランです。何テラ与兵衛!なんと 浜寿司と同じ東ティモールのコーヒーがありました。ドリップの!

  3. 仏教に霊魂は不滅、だから死者を敬えと云う教えがあると聞きます。
    見えない世界のことは解りませんが、人間は情愛を持つ動物だからきっと死の恐怖や悲しみに直面した体験をすると見える世界になるのかも知れません。
    次元は違いますが、我々が遠くに居ても被災地に心を痛め「何かをしよう」と云う殊勝な気持ちが起こるのと同じです。
    だからこの話は、想像であってもきちんと受け止めてあげたいと思います。

  4. 先日は、はるばるここ山口県光市までおいでいただき素晴らしいご公演をありがとうございました。
    震災後のブログ、桑山さんをはじめ被災された方々のご様子を伺うたび、約8年前最愛の息子が進行性の難病であることを宣告された後の自分の心の動きと重なる場面に頻繁に遭遇し、胸の詰まる思いを抱きながらも過去を振り返り、ある部分は時間しか解決できないのかなと感じてもおります。
    ところで、現在息子は大学で文学を勉強しているのですが進級するにあたり専攻を決めなくてはならず「地域文化」にすると言っていました。実は先日、よくよく話を聴くと地域文化を専攻する学生はとても少数派で先生方からも不思議がられた様子。その折偶然、桑山さんが祈念館を模索されている話しをしたところ、それはとても理解できる行動と自分の専攻理由を説明してくれました。
    息子曰く、過去に地域で起こった行き場の無い怒りや悲しみがつじつまの合わなかったりする地域の話を生み出し、それはそこで暮らそうとする人々のある意味自分を守る知恵でもあったんだろうと思う。今でいう都市伝説も同じようなものでそこにはたぶん悪意はないんだと。
    先日のステージで、苦しみを乗り越えて何か掴まなくてはと仰られていたと思うのですが・・苦しみを乗り越えたら人は確かにその人しか掴めないものを確実に掴むものだとそう実感した瞬間でもありました。
    ご公演、はるばる本当にありがとうございました。

  5. 昨日買い物をしていたら、新生児を抱っこしなが買い物の清算しているお母さんの後ろに並びました。
    荷物と赤ちゃんを抱えお金出すのが、危なっかしく思わず「赤ちゃんを抱かせて下さい。」とお願いして抱かせてもらいました。とても軽くにこにこ顔の赤ちゃんに何とも言えない幸せを感じさせてもらいました。
    ほんの一分の間の出来事でしたが、うれしかったです。
    震災で犠牲になられた方々の命を思うと、今生きている人達はやけになることなく、自分も他人も同じ大切な命であることを忘れてはいけないと思います。
    仮設住宅に入り、アルコールの問題がいよいよ表面化してきました。
    お化けが走ると怖がる人がいるけれど、お化けでもいいから家族に会いたいと思う人。未だ行方不明の家族がいらっしゃる方々の思いがおばけとして現れたのでしょうか。
    どうぞ天国で、残された家族を暖かく見守って下さい。
    無念の思い、苦しさと共に旅だ立たれたと思いますが、生まれ変わって又一緒に暮らしたいですね。

  6. 私が 6才の時 同居していたおじいちゃんが 心臓麻痺で 昼寝したまま目覚めなかった。
    私の夢の中に 1ヶ月間毎日おじいちゃんが 現れた。多分 目が覚めたら自分の体がなくなっていて いく場所を探していたように思う。父が成仏するように祈ってくれた。
    しかし私が 13才の時亡くなった父も 3年前に亡くなった母も 出てきて!と言っても夢にも出て来なかった。
    閖上のおばけさんの魂が落ち着くように 私も祈ります。会いたい人に会えたらいいのになあ~
    東北地方は大雨が降るようですが、被害のありませんように・・・

  7. おばけでもいいから会いたい。その気持ちが切ないです。
    受け止める桑山さんも同じ思いなのですね。
    多くの魂が帰るところを無くして彷徨っているのかもしれません。
    夜閖上の街に佇む桑山さん。静かに見守っている姿が目に浮かびます。
    地域の皆さんの物語を一つ一つ拾い集めて、後世に伝えられるといいなと思っています。

  8. わたしは、自分の大切な人が亡くなったときに、自分の心に天国を作ります。
    わたしの中の天国で、その人が笑顔で元気にしてる姿を思い浮かべて、幸せにしてくれていたらいいなと願います。
    津波で亡くなった方々が苦しんでいないことを祈ります。
    tomokoさんとの女子会、楽しかったです(o^^o)

  9.  幽霊でもいいから会いたい。
     かけがえのない人を亡くしたとき、人は誰もがそう思うようです。それだけ、人は人に支えられ、人と繋がり、自分がたった一人では生きていけない生物なのだということを実感してしまいます。
     繋がりの中で私たちは生きていくのだということを、あらためて知る思いです。
     人は、人によって、「生かされる」。そう思います。
      和歌山  なかお

  10. もし本当に、未だに逃げ惑っている人たちがいるのなら、絶対に会いたい。
    会って、もう逃げ惑う必要はないんですよ、もう終わったんですよ、もう
    なにも心配しなくていいんですよ、って伝えたい。
    でないと、あまりに残酷すぎます。
    未だに逃げ惑っているなんて事実は・・・。
    失ったものを取り戻そうとする行為なのかもしれませんが、完全に否定する
    気にはなれません。
    今でも倒壊した家屋の下で泣いている気がしてなりません。
    2年前、沖縄で戦没者の遺骨収集に参加しました。
    呼ばれているような気がしました。
    実際に、戦没者をみつけることができました。
    今でも、あのとき呼ばれたのだと思っています。
    父の口癖は「生きている者が死んだ者に心を砕く事なかれ。」でした。
    死んだ者は放っておいて、生きている者を優先しろ、という教えでした。
    でも、私は、未だに納得していません。
    亡くなった方たちも、生きている方たち同様に、安心できる未来を築きたい。

  11. 主人の父が亡くなったのは
    今住んでいるマンションへ
    引っ越した年の夏
    新居へ一度も遊びに来てもらえずに
    亡くなってしまいました
    お化けでもいいから
    遊びに来てほしいなぁって
    主人が話していたのを
    思い出しました。
    お化けでもいいから
    会いたいですよね

  12. せつなくて
    優しいおばけのお話ですね。
    「おばけでもいいから逢いたい。ギュッと抱きしめてあげたい…」
    悲しいほど胸に響くことばです。
    そんなシーンに出会ったらもらい泣きしちゃいますね。きっと。
    僕の友人はお父さん娘で、毎年の夏お盆の少し前の正命日の頃は
    いつも大好きだったお父さんのこと二人で話したりする。もう三年になるけど、去年のお盆のこと。部屋のドアがカタカタ…カタカタって何度も鳴ったんだって。(お父さんが来てくれた)と嬉しくてたくさん涙流したって。ちゃんと見てくれてるから頑張らなくちゃって、泣き笑いしてた。
    僕は心から「良かったねぇ」って微笑んだ…
    悲しいけど優しい気持ち
    なんだか思い出しました。

  13. どうも!今日桑山様が公演しに来て下さった飾磨西中の3年の生徒です(●^o^●)ゞ
    今日この話を聞いてとても悲しい気持ちになりました。
    特に涙を浮かべながら語られていた桑山さんの顔が今でも浮かんでくるほど、心に残るおはなしでした。
     私も今年で卒業で、桑山さんの講演会は今年が最後でしたが、最後の最後に『人に死ねとはいってはいけない』という大切なことを教えて頂きました。
    私はこれからは桑山さんの講演会を聴くことはできませんが、高校で応援しています。
    震災もあり、心に重い傷を負っているかもしれませんが、これからも被災者として、また、1人の医者として震災を乗り切って復興に励んでください。
    これからもブログから見守っています。

  14. おばけを待っている人って意外と多いんですね。
    でも、何でかな?
    なかなか夢の中にも出てきてくれないんですよね。

  15. おばけでもいいから、会いたいです。
    とにかく存在してくれているなら。
    閖上に住んでいた、大学の同級生が津波の犠牲になった
    ことを知りました。
    家族を残して。
    家族や地域をを守るためにご自身が犠牲になったのではないかと思いました。
    優しい人でした。
    おばけでもいいから、笑って久しぶり、と言って欲しいです。
    ひたすら、冥福を祈っています。

  16. はじめまして、神戸の長瀬と申します。
    5月と7月の2回、閖上地区を訪問しました。
    絶望的な光景と、ほんの少し前まで当たり前だった日常が、混然となっていて、言葉を失いました。
    被災地を知りたいという、若者たちの間では、ここへ行くべきか否について意見が分かれています。
    ボランティアに徹して、物見遊山は慎むべきという人と、現実をあるがままに受け入れるべきであり、なるべく早く行って見てみたいという人に分かれます。
    閖上地区に限らず、津波被害地域の惨状は、どこも目を覆いたくなるような光景です。未だに瓦礫の撤去がままならず、震災直後の様子をとどめているところもあります。
    「どこへ行け、ここを見るべき」などと言うつもりはありません。尋ねられれば「閖上地区の日和山へ行って、手を合わせてくるのはいかがですか」と応えています。
    あるフォロワーさんのツイートで、貴ブログを知りました。
    上記の様な戸惑いを感じている人々に、ぜひ読んで頂きたいと思い、転載させて頂きます。

  17. すごくわかります。おばけでも良いから会いたいと思う気持ち。泣けました。そして心が温まりました。良い話を紹介してくれてありがとうございます。

tomoko へ返信する 返信をキャンセル

あなたのメールアドレスは公開されません。必須項目には印がついています *