今日は東ティモール2日目。遠く離れたエルメラ県ファトボル村の巡回診療です。
雨期のこの時期に険しい山道を進んで3時間、途中いくつもこれ以上は進めないかもという難所に出逢います。いま募金が順次集まってきており、もう二息三息でこちらでクルマが買える状況まできてはいるものの、現状のランドクルーザーがうなりを上げて進んでいきます。
そしてついにたどり着いた天上の楽園のようなファトボル村。山の頂上に村があるため、視界が開けてすばらしいところです。そこに待っていたのは村を挙げての歓迎の式典でした。
村中の人が集まり、歌に踊り、そして歓迎のタイス(東ティモールの伝統的な織物)の授与式です。
うちの現地代表、アイダ医師が言いました。
「この村はね、本当にこれまで孤立してきた。どんなことでも自分たちでやっていかなければならなかった。だから、ここに巡回診療が来ると聞いて村人たちは本当に喜んだんだ。たいていのことは自分たちで出来るけど、病気になってしまうと伝統的治療ではすべてがよくなるわけじゃないからね。だから医療や保健がここに入ってくることは村の悲願のようなもので、今日は日本からFrontline(「地球のステージ」の海外団体名)の代表が来るといえば、村を挙げての歓迎式典になるわけなんだよ。」
これまで経験したことのない式典でした。
そして診療が始まります。みんなが列をなして受診してきます。でも半分くらいは病気ではありません。一応病気を訴えておいて、薬を持っておこうという「予防」のような人たち。でもほほえましくて、一人一人に聴診器を当てていくと、あっという間に時間が過ぎていきます。結局アイダ医師と二人で264人の患者さんを診察しました。
その間、コーヒーや軽食、昼食とどんどん村が用意してくれます。それはすべてこの村で作られたもの。なんておいしいんでしょうか。どれにも村の愛情がこもっていて、「よし張り切って診察しないと!」と心から思えてくる。やっぱりすべてはGive and Takeですね。
今回のスタディツアーで同行している我が兄の息子(要するに甥)の巧己君が言いました。
「みんなすっごい良い笑顔で笑っている。どの食べ物も心がこもっていておいしい。路にゴミなんて全然落ちてない。こっちの方がはるかに豊かだ。僕がいる東京って何?って思えてくる。みんな笑わないし、自分勝手な行動の人多いし、道にはゴミやらツバやらがたくさんだし。この村の方が本当の意味で豊かだと思えてきたよ」
そう、それが分かってほしくて「地球のステージ」をやっているんだよ。19歳の大学生がきた瞬間にこの村の豊かさを見抜いてくれたことがとても嬉しかったですね。
でも、ここには病気があります。だから僕たちは医療や保健を展開します。だって元気だったら、作物が作れて、牛が飼えて、学校に通って、山道を歩き、そしてこの村のために働く人になっていくんです。健康であれば、この村の自立は保てるわけです。
なんと誇らしい人たちでしょうか。
5分刻みで移動できなくても、インターネットにつながっていなくても、テレビが見れなくても人間はちゃんと独り立ちして生きていけるんですね。まさに人間の原風景がここにありました。
人は足りないものを受け入れながら生きていくんだと思います。この村にも足りないものがある。東京にも足りないものがある。その意味で両者は同じ状況です。そして人はその「足りないもの」のいくつかを充足させようと努力します。このファトボル村の場合、その「足りないもの」の一つが「健康」なわけです。だから、それを目指して僕たちは出来る限りの協力をしていきたいと思います。
自給自足している人間の勇気と誇り、そして強さをたくさん感じさせてもらいました。
明日は1日バイロピテ診療所で診察です。
テトゥン語はかなり戻ってきて、一人で診察できています。
桑山紀彦
写真から現地の皆さんのパワー、桑山さんのパワーが伝わってきます。元気で帰国してください。~祈りのうちに。 山しん