タハニ、18歳

「地球のステージ」の2番には「パレスチナ篇:後編」として「海を見に行った少女たち」という作品があります。オリジナル曲はそんな彼女たちを歌った「紺碧の彼方へ」。
 その主人公であるタハニは当時13歳。1日をフルに使う海水浴で、午後になった疲れた僕が、海岸で貝殻を拾っていると
「何をしているの?」
 と話しかけてくれたのでした。
タハニ13歳
タハニ13歳
「貝殻を拾っているんだよ」
「何に使うの?」
「日本に持って帰っておみやげにするんだ」
するとタハニはびっくりしたように、
「日本に海ってあるの?」
と聞いてきました。
「え~、タハニ、僕たちの国日本はぐるりと海に取り囲まれているんだよ」
「え~、それって“島”ってこと?」
「そう、僕たちの国日本はね“島”なんだよ」
するとタハニは、
「じゃあさ、この目の前の海を泳いで、あの船に乗ってず~っとず~っと東って方向に行ったら、あなたの国にいけるのかな?」
と聞くので、かえってびっくりした僕は
「そ、そうだね、その通りだよタハニ。海はいろんな国とつながってるから僕らの国、日本にも行けると思うよ」
するとタハニは、こう言いました。
「そっか、海は・・・、あなたに国に行けるくらい“自由”なんだね」
「・・・」
 僕にとってはただ美しいだけの海でしたが、タハニはその海の向こうに“自由”の意味を感じてくれたのです。
 そんなタハニに会いにいきました。彼女が暮らしている地域はブラジル地区といって国境が目の前。今回の戦争でも一番ひどい空爆だったので、きっと親戚に求め引っ越しているだろう、と思っていました。
 久しぶりに出てきたタハニはお母さんになっていました。
 まだ18歳です。でもちゃんとお母さんの顔になっていました。
タハニ18歳
タハニ18歳
 「去年の11月に結婚したんだ。そして7月に子どもが産まれたの。
 空爆の時はね、タラスルタンの親戚のところへ避難していたんだ。お腹の赤ちゃんが気掛かりだった。でも3000gで元気な赤ちゃんが産まれてきたよ。」
 あのひどい空爆の中で命を育てていたタハニ。1月の戦争の最中でも会いたかったけど、あのひどい空爆の中じゃあ、お互いの居所だって分からない状況だったからね。
 そんなタハニに勇気を出して聞いてみました。
 「これからの夢って何?」
 「・・・そうだな、この子が大きくなる頃には、自由にいろんな国を旅したいな」
 「そっか、たとえば?」
 「日本に行ってみたいな」
 ああ、タハニ。君はあの13歳の時に僕に伝えてくれたことを今のちゃんと心の中に持っていてくれたんだね。
 占領されて、自由を奪われたままの街に生まれ育ち、海の向こうの国を見たことがないタハニ。それでも希望を捨てないで、夢を捨てないで、今度はその子に世界の国々を見せたいと願ってくれるのか。
 愚かな戦争や「国」という壁が、君のその切なる願いを今は打ち砕いている。でも、どんな人間にも「願い続けること」はできるはず。それは願いそのものよりも大きなエネルギーが必要かも知れない。でもあきらめたら願いも終わりだよね。
 君の願いがいつか、岩をも貫いて、その小さな命と共に日本に来れる日が来るまで、僕たちはこの活動を続ける決心です。
桑山紀彦

タハニ、18歳」への4件のフィードバック

  1. お疲れ様でした。
    最終日にお母さんになったタハニさんと再開できてよかったですね。
    「母は強し!!」
    夢を抱き現実と戦うことはものすごく大変なことだと思います。
    でも我が子のためなら・・・
    子供たちが笑顔を取り戻しそれぞれが
    夢を持つことができるために、
    タハニさんのよう大人たちが現実と向き合い続け、
    いつか自由を手にしたいと願い続けるためにも、
    地球のステージの活動は大切なのだと改めて思いました。
    心を寄せること、そして孤独感からの離脱こそが
    頑張ろうって思い続けるエネルギーになると
    思います。
    日本に暮らす私は、
    子供たちにこの現実を伝えたい、
    そして何かを感じて欲しいと思いました。
    どうぞお気をつけてお帰りください

  2. 地球のステージでお聞きした、タハニのお話を思い出しました。
    どんな状況でも、
    生き続けること、希望を持ち続けること、「願い続けること」ですよね。
    空爆の中で、新しい命をさずかったタハニの強さ、確かに感じます。
    久しぶりにブログを拝見して、
    ダルウィッシュさんやアブ・オマールさんも
    なぜだか、昔から知っている人のような気分です。
    ダルウィッシュが生きててよかった!
    やせてかっこよくなってるし。
    これからも、地球のみんなのことを伝えてくださいね。
    ガザも日本も暑いですが、どうぞ、
    お身体に気をつけられてください。
    8月6日、広島より

  3. 活発そうな女の子が随分しっとりとされて驚きました。
    優しくたくましいお母さんの顔ですね。
    遠いパレスチナに住む彼女ですが近所の親戚の子に思えるのは不思議です。
    地球のステージのおかげ。
    つながってますよね~。
    「何かをしたい。」と思えるのですから・・。
    幸せになってほしいです。

  4. タハニも18歳 一児のお母さんになってたんですね。成長が見れて私もうれしいです。大変な時をたくましく生き抜いて すごく強いと思いました。そして、桑山さんの活動のすごさも感じます。桑山さん 元気に活動を続けてください。
    ありがとうございます。

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