ラファを眼前に

ついにラファ検問所まで来ました。
 途中6ヶ所の検問所がありましたが、ダルウイーッシュのレターの効果は抜群で、みんな親指を立てて「がんばれよ」といって通過させてくれました。
 しかし、ラファ検問所は人々であふれ返り、いろんな意味でガザを支援しようとする人々の群れに覆われていました。エジプトムバラク大統領の息子が来ていて、持ち込もうとする支援物資のコンボイが行く手を阻みます。
ラファ空爆
ラファ国境前(すぐ向こうがガザ地区ラファ市)
 それでもゲートにたどり着き、書類をそろえて仁王立ちの係官に渡しますが、どうしても「日本大使館の推薦状がないとダメ」の一点張りです。日本大使館が一NGOの医者に推薦状を書くはずがありません。彼らはあくまで邦人の安全を守ることが任務です。戦場に入ろうとする医者を止めこそすれ、推すわけがないのです。
 粘って粘って交渉しましたが、初日は交渉不成立、今日のところはあきらめようと思いました。
ラファ空爆2
ラファの街への空爆
 とその時、
 ズド~ン
 鈍い音が近くでし、地響きと共に周りの女性が叫び声をあげました。近くに着弾です。3時間停戦のまっただ中の午後2時30分。少し離れたラファの街に大きな土煙が上がりました。停戦は守られていません。
 びびります。
 そして思いました。
 「これが僕の活動現場なのだろうか」
 と。あまりにひどい戦争状態、そしていつ空爆がやって来るかわからない街に入ろうとすることが、本当に自分の仕事なのだろうか。自問自答が始まりました。
 「恐い」
 そう感じました。でも、
 「見て見ぬふりしない」
 そう決めたから、ここまでやってきたのです。でも目の前の街が空爆を受けていて、そこに精力的に入っていく勇気を僕は持ち合わせていないことに気付いたのです。
 そして一旦アリーシュの町に戻る前にラファの街の国境に近づきました。見慣れた町並みが壁の向こうに見えてきた時、涙があふれてきました。
 「ごめんね、ダルウイーッシュ。ここまで来ておきながら入れなかった。これまで6年間ずっと通って来たのに、“待っている”と言われたのに、そしてこうして空爆にみんながおびえているというのに・・・。ごめんね」
 なんて情けない。これほど泣いている自分が惨めなことはありませんでした。大使館のレターがなくても、通れる場合もあるのです。今日は僕に気迫が足りなかったから国境警備兵に負けてしまったのだと思うのです。それはあの目の前の空爆の街ラファを見て、
「あそこには入っていけない」
 と無意識の中で思ってしまい、それが僕の気迫を失わせてしまったのだと思います。これまでいろんな国で多くの「交渉の場面」がありました。でもほとんど笑顔と、ソフトな態度と、“やるんだ”という気迫で乗り切ってきた自負があったのに、今回はそれが失われてしまったんでしょう。
 それが「戦争」なんだと思います。
 人間が本来持っているはずの勇気や、誇りや、愛や、優しさをすべて一瞬で吹き飛ばしてしまうもの。だから恐ろしい。戦争は心の中に大きな闇を広げて、内側から人間を侵食していくものだ、と改めて思いました。
 それでも明日、再度国境越えの試みです。作戦があるのです。それを3回やって、それでもダメな時は停戦を待ちます。もしも入れたら、ラファの市立病院へ行って働きます。

ラファを眼前に」への7件のフィードバック

  1. 初めてこのブログを拝見しました。記事を読み、自分も何かできることをしたいと強く思いました。パレスチナの人たち、特に子供達の犠牲に心を痛めています。日本のマスコミの報道は無責任きわまりないですが、多くの一般の日本人も私同様、民間人の犠牲に心を痛めていると思います。早くこの戦争が終わることを願っています。
    お体に気をつけて、無事を祈っています。

  2. 渡航以来、毎日ブログで状況をお知らせいただいています。今回ほどドキドキしながら開いたことはありません。
    昨日、女子中学校でゲスト・ティーチャーとして出前授業をしてきました。国際理解に関する内容でしたので、わずかの時間でしたが、ブログの写真を使い、現在のガザの様子、逃げ場のない人々の苦しい状況、支援すべくでかけている桑山さんのことなども話しました。大切なことは知ること、そして考える力を持つこと、戦争は何も生み出さないことなど、やさしい気持ちを持つ生徒さんたちは真剣に聞いてくれました。
    ガザの面積は桑山さんの住む山形市と同じくらいの面積です。そこに150万人が住むという人口密度のかなり高い地域です。すでに死者数は1000人を超えたと報道されています。人々は逃げ場のない地獄の毎日なのでしょう。
    そのガザを目の前にしている桑山さんとakiちゃん。
    私たちは日本にいて「無理しないで」と言ってますが、攻撃を目前にしていると、やれるだけのことはしたいと強く思うのでしょうね。特に医師としての果たせる役割があるのですから。
    今は、目前のガザに集中していますが、桑山さんの果たすべき役割はそこだけではないと思います。日本でやらなければならないこともたくさんありますし、守らなければならないことも多いはずです。
    どうぞ、ご自分を客観的に見て、「次の作戦・3回」にトライしてください。
    世界中の人々の平和への願い・祈りが届きますように!

  3. >停戦は守られていません。
    危惧した通り…
    ずっとずっと祈っています。
    (振込みでの支援は別として)祈る事しか出来ませんが、
    どうぞくれぐれもご無理をなさいませんように。

  4. ヨルダンでの難民支援の演劇セラピーに携わる、久保田さんという方からこちらのブログを紹介していただきました。
    ご縁に感謝致します。
    薄々は感じていたのですが、私は自分にできることをしている気になっているだけだと、ブログを拝見して改めて思いました。
    自分を含めた「見て見ぬふりを本当に何にも感じずにできる今ここ日本」にいて、できるかぎりのことを
    していきたいと強く思いました。
    全て世の中の出来事は、自分レベルに落とし込まないと、どなたから何を伺っても結局一緒ですね。
    もっと「他人」が「自分」になれるような気持ちの繋がりを持てる機会を私なりに作っていきたいと思います。
    桑山さんとは比較にならない、今まで自分の中にあった葛藤と本気で向き合いながら、私なりにできる行為を重ねることで、桑山さんの中にある優しさを遠く日本から支えていけたらと思います。
    どうぞお気をつけて。よきご加護とお導きがありますよう。ご無事をお祈りしています。
    心から敬意を表して。

  5. 桑山紀彦様
    あなたの思いにただただ、どうしたら良いんだろうという私がいます。人の思いの深さと広さは想像を超えていくものです。「焦らず」ただそれだけしか、かける声が見つかりません。でも、「行く」勇気と思いの裏には「もどる」勇気と思いもあるはずです。停戦中でも交戦中の様子。側で見ているのもつらいでしょうが、時が来ます。もどることは決して悪いことではありません。命があれば次に進めます、なくなれば何もできなくなってしまうのです。自分を責めないでください。
     パレスチナに対しての報道を含め新聞の読者の声欄に投稿しました。今私ができることはこれぐらいです。明日からの授業でも生徒に惨状を報告します。昨年12月に講義したパレスチナ(ステージの映像も使わせていただきました。その現場が今大変な事になっているのですから)地球を知るは人々の笑顔を知ることです。地球市民として考える力が大切だと思っています。頭ではなく心で理解できる生徒が次代を創造していきます。とにかく焦らずに。

  6. 桑山さん
    どうか悔いなき判断をしてください。
    桑山さんが活躍する場は、まだまだたくさんあります。
    今も、未来も・・・。
    悔しさをまた日本で、ステージでぶつけてください。
    立ち上がる人がもっともっとでてきます。
    無事の帰国をお祈りしています。

コメントを残す

あなたのメールアドレスは公開されません。必須項目には印がついています *