出域~モハマッドの支援

2日間にわたるスタッフとの熱い打ち合わせ。

 いよいよ3年目に入る「心理社会的ケア」の展望をみんなで煮詰めていきました。そして更にその先、4年目から6年目の課題も激論を交わしました。もちろん現時点では何一つ確かなことは言えないけれど、この事業をずっと続けていくための方策をみんなで練りました。4年目から6年目を「フェーズ2」と位置づけ、そのテーマは「この心理社会的ケアのノウハウを別の地域に広げていく」という目標です。従ってこの3年間は「フェーズ1」。それはまさに自分たちの力量を高め、完璧な心理社会的ケアを出来る人材の育成。それが終わった時、次は「それを広めていくこと」。自然な流れだと思いました。

 さて、ガザ地区をでる前に再度モハマッドに逢いに行きました。
2:14-1.jpg
 モハマッドは今、大学の学費が払えなくて困窮しています。それを支援するかどうか、きちんと実情を見極めなければなりません。当初入ったイスラム大学のマルチメディア科を辞して、今はアルクーツ大学の経営マネージメント科に再入学してようやく1ヶ月です。

「なぜ、経営マネージメント科を選んだのかな?」

「イスラム大学のマルチメディア科に入り、その学費の高さに驚いたし、正直払いきれなかった。でもそれよりも強く感じたのは、この失業率9割のガザにおいて、ジャーナリストで食べていくことはほぼ不可能に近いということだった。」

「それで経営マネージメント科に?」

「僕の夢は変わらない。ジャーナリストになることだ。でも食べていけるジャーナリストを目指したい。そのためには自分で経営を学び、自分で通信社をつくりたいと思うようになったんだ。通信社を運営するためには経営のノウハウが必要。だから僕は経営マネージメント科に移った。それは、通信社を経営することで食べてもいけるし、ジャーナリストにもなれると考えたからなんだ。」

「そこまで考えたいたんだね。」

「正直悩んだ。ジャーナリストとしてやっていくには難しい。でも僕は既に多くの写真をインターネットにあげ、ネットの世界ではバーチャルな通信システムを構築している。でもそれは食べて行くにはほど遠いものなんだ。だから僕は実際の通信社を立ち上げたいと思っている。ネットの世界を現実の世界に移して行きたい。」

「それだったら納得だ。君はずいぶん現実的なところでジャーナリズムに取り組もうとしているんだね。」

「その通り。だって、本当のことがきちんと伝わっていないんだ!」

このあとモハマッドは感情的になりながら、「北の国」の軍隊や政治がどれほどひどいことをしてきたか、熱く語りました。相変わらず好戦的に見えるモハマッドでした。しかし彼は途中でこう言いました。

「僕はイスラム教徒だけれど、ユダヤ教がどれほど神聖かちゃんとわかっている。」

「ん?今なんて言った?君はユダヤ教が神聖だと言った?」

「そうだよ。僕たちがイスラム教を信じているように、彼らはユダヤ教を信じている。お互い神聖なものを信じていることに変わりはない。」

 驚きました。20歳の血気盛んな青年が口に泡飛ばして「敵」の暴力を批判し続けるかと思っていたら、彼に思考はちゃんとバランスをとろうとしていたのです。

「間違っているのは政治と軍隊だ。僕は”北の国”の一般市民のみんなを敵などとは思っていない。」

これが今のモハマッドです。

 でも僕は続けました。

「もしも君の学費を支援しようとする日本人がいたら、彼らは君に望むだろう。”反撃ではなく、理解を”と。」

「わかっている。僕も反撃したいわけじゃない。ただ北の国の軍隊がどれだけひどいことをしてきたか、しているかをちゃんと伝えなければならないと思っているんだ。」

「そうだね、でも君の語る口調や内容はともすれば反撃をしようとしているように聞こえる時もある。」

「・・・」

「君はとても若く、怒りをため込んでいるように見えてしまう時があるんだ。」

モハマッドが笑いました。

「そうだね、僕はとびきり若いパレスチナ人だ。」

「うん、わかっているじゃないか!

 そしてもう一つだけきくけど、怒りのエネルギーと愛や優しさのエネルギーではどちらが大切だと思う?」

「もちろん、愛と優しさだよ。」

 即答するモハマッド。本音なのか、それが対大人に対する模範解答なのか、その時はわからないようにも感じました。でも彼は続けました。

「愛や優しさが一番大事だと思う。でもそれを踏みにじる者がいる。それを黙って見過ごせないんだ。」

「それはそうだよな…。」

 

 その後モハマッドは僕たちがやっている「心理社会的ケア」のインターン生になることを快諾。共に活動を共有していくことで学び合える環境を作り出していけそうです。

 モハマッドの4年間の学費を支援する事業を「地球のステージ」は考えています。

 モハマッドの家を出て、アーベッドと話しました。

「アーベッド。僕は本当にすまない気持ちになる。僕たちは平和な日本に暮らしている。君たちの苦しみや哀しみを少しでも理解したくてずっと関わっているけれど、それでも君たちの気持ちにどれだけ近づけているか、正直情けないほど自信がなくなるよ。空爆だって2009年に直接経験させてもらったけれど、それだってたった1週間程度だった。君たちは生まれてからずっとそんなことばかりを経験してきている。モハマッドだって一緒だ。

 そんなモハマッドに”怒りよりも愛や優しさがたいせつなのではないか”と言う資格があるとはとうてい思えない。」

 アーベッドが言いました。

「そうだね…。でも君が言っていることは本当のことなんだよ。どんなにひどい環境の中にいてもやっぱり怒りよりも愛だと思うよ。大切なのは心のあり方だ。どんなにひどい目に遭っても心が正しければ、人間として汚れることはない。モハマッドはこれから僕たちと関わって多くを学んでいくだろう。だから彼を支援するべきだし、君が正しいと思うことを遠慮なく彼に伝えていいと思うよ。」

 この高潔な人物はガザに生まれ、ガザに暮らしています。

 僕たちはこのアーベッドの思考と共に若きモハマッドと歩いて行きたいと思っています。追って彼を支援することについては皆さんに相談させてください。4年間の学費がいくらなのかも全て調べました。「地球のステージ」の内部での結論がまとまったら、またお願いにあがると思います。

 こうしてガザでの大切な日々が終わっていきました。

 13歳で出逢ったモハマッド。彼に成長を見守りたい。「国を応援するのではなく、人を応援する」それは「地球のステージ」が大切にしてきた姿勢です。モハマッドは、今大きく変わろうとしています。
2:14-2.jpg

 さて、明日からはヨルダンのシリア難民の皆さんへの取り組みです。

 朝、国境を越えます。

桑山紀彦

出域~モハマッドの支援」への1件のフィードバック

  1. 若いモハマッドの筋の通った話に驚きです。
    考えの根底に愛とか正しい心があると言える純粋さ~日本では風化しつつある気がします。

三上 へ返信する 返信をキャンセル

あなたのメールアドレスは公開されません。必須項目には印がついています *