パオ族の大学生

その人は、名前をNang Aye Aye Nweさんと言います。

日本語で発音するならナン・イェイェ・ニューさん。生粋のパオ族です。
パオ族はミャンマー中部シャン州に多く住む民族で、推定100万人が暮らしているといわれています。伝説によるとパオ族の始祖のお母さんは龍であり、お父さんは空飛ぶ鳥人であったといいます。その2人が結婚して龍であるお母さんが産んだ卵から出てきたのがこのパオ族。「パオ」という名前はその卵が割れる瞬間の音から来たという、何とも深い伝説の世界に生きてきた民族です。

パオ族は、カックー寺院を有している民族。カックーは2000年にようやく外国人に解放されましたが、それまでは立ち入り禁止区域に住んできた民族でもあります。
そして少数民族としての環境は決して楽とは言えず、タイとの国境線においても長い間戦闘を繰り広げてきた民族でもあります。そんな中、イェイェさんは今タウンジー大学の英語通訳学科の4年生になりました。
パオ族の村、北ミェー・サットに生まれた彼女は8人兄弟の3番目。上の兄、姉は経済的な理由で学校を中退していました。しかし彼女はどうしても勉強したいという強い気持ちを持ち、今大学にまで進んでいるのです。貧しいパオ族の村では考えられないことです。
でもおじいさんは村の村長であった影響もあり、お母さんお父さんはイェイェさんが勉強することを反対せず、家業の農業を一生懸命続けて仕送りをしてくれています。そんな彼女がなぜ今英語を勉強し、通訳者になろうとしているのか。

「私の村はとても貧しい村でした。でも小さい頃村にたった2台だけテレビがあったのです。私が11歳になった時そのテレビを見て私は驚きました。”世界はなんて広いんだろう”と思ったのです。そして同時に、自分の村はなんて狭いんだろう。そして人々はなんて狭い世界だけで生きているのだろうと感じて哀しかったのです。
だから私が勉強して外国語を学び、世界の人々とつながれたら、そんな私を見た村の人が目覚めてもっと多くのものを知りたいと思うようになるに違いないと考えました。
私は自分が生まれた村を”発展”させたいのです。そのためにはたくさんの人とふれあうことが大切です。だから私は人とコミュニケーションできるための”言葉”を学び、多くの人を村に連れてきたいのです。」
21歳とは思えない、とても立派な考えでした。
さらにイェイェさんは続けます。
「私たちの村に必要なものは、まず医療。7つの村があり、人口は一つの村が大体1200人くらいですから全体で1万人の人が暮らしています。でもクリニックはたった4つ。しかも医師は誰もいません。少ない人数の看護師で全体の対応をしているのでいつも限界。でも大きな病院のあるタウンジーの街までは1時間以上かかります。助産師も数が足りません。
病気としてはマラリア、デング熱、呼吸器感染、喘息が多いです。時に低血圧の人もいます。
難産あるし、産後のケアも不十分。医療はとても大切なテーマです。
続いて教育が大切。私の母は、私を大学に通わせてくれています。でも多くの子どもたちが家の仕事の手伝いのために学校を途中で終わってしまします。これではみんな目覚めない。
幸い私の13歳の妹は医師になりたいという強い希望を持っています。でもそのためにはまず高校に通わなければなりません。でも高校は近くにないため通うとしたら毎日5キロを1時間かけて通わなければならない。近くに学校がないのです。だから多くの人が途中であきらめてしまう。
だから私は村に、ちゃんと勉強できる環境をつくりたい。それは絶対に村のためになることだと信じています。」
この妹さんが願いを叶えて医師になる応援ができたらいいと思いました。幸いこれまでミャンマーには3つしか医学部がなかったのですが、この2016年からこのタウンジー大学に医学部が創設されたのです。これはこの妹さんに「医者になれ」と言っているようにも思えます。
医療と教育。
大切な2つの支援を必要としているパオ族の村。そして村を変えようと頑張るイェイェさん。
これまで私たちは常に「鍵となるその国の人」と出逢ってきました。
東ティモールのアイダ医師、ダン先生。
パレスチナのダルウィーッシュ、そしてアーベッド。
その人たちを応援したくてここまでやってきました。私たちはいつも思ってきました。「「地球のステージ」は”国”を支援するのではない。”人”を支援するのだ。」と。
まだ出逢ったばかりだけれどイェイェさんはその支援するべき第3番目の人のように思えます。
もちろんこれからいろんな準備が必要。それでも、世界の人々との出逢いを常に中心に置いてきた「地球のステージ」とパオ族との出逢いは偶然ではないように思えます。

イェイェさんはもう一つしか在庫のない、大切な「龍のバッチ」を譲ってくれました。パオ族の産みの母である龍。もうじき20年を超える「地球のステージ」はこのミャンマーで何ができるでしょうか。
桑山紀彦

パオ族の大学生」への4件のフィードバック

  1. 出逢いは必然ですね。
    新たなスタートの時期、流れの中でのこの出逢いに大きな意味を感じます。
    『医療と教育』人が人として、よりよく生きていくために大切な分野ですね。
    それにしても、私自身知らなさすぎる…と、改めて思いました。多民族国家では、スーチンさんが必ずしも全体に支持されているわけではないのですね。国民全体の喜びであると思っていました。
    ミャンマーの国で、たくましく生きている子どもたち!この先、自分で選びとっていく未来へ…と道が拓けていくことが何より大切だと感じながら、日本の子どもたちの将来、自分自身についても、深く考えさせられました。

  2. 10日に、ミャンマー初の電車が、日本支援で運行開始されたそうです。
    こんな所にも、日本の技術が使われているんだなぁ
    車両は日本の広島電鉄が使っていた昭和30年代製造の中古の路面電車
    古いけど、ポンコツでは無い。大勢の人たちを快適に運ぶ電車なんだ。

  3. 知らないが故に保てる豊かさと、知って得る豊かさとどちらが幸せか何とも言い難くなってしまいますね。
    物質文明に埋まった日本で感じる幸せは貧困から縁遠い安堵感だけかも・・・。
    しかし昔からの習慣の流れだけでは必要な情報も入らず発展出来ないマイナス面が見えますね・
    そのような少ない情報環境にあってそれに気づいて夢を膨らます彼女たちは凄いですね。鳥肌ものです。
    応援する価値があります~このような小さな芽を埋もれさせたくないです。

  4. まーぼーさんのコメントの電車の記事だいぶ前に目にしたのですが、
    忘れていました。1月10日に運行開始だったのですか。
    広島電鉄が自社保有の路面電車をミヤンマーに譲渡すると
    決定した車両は、かつて三陸鉄も走っていたそうです。
    広電もきっと大切に取り扱っていたのでしょうね。
    展示という形の静態保存でなく、
    実際にヤンゴン市内のストランド線を走るわけで、
    古くても使用可能ということは、
    日本の鉄道技術は優秀であり、誇りに思っていいのではと思います。
    さて、パオ族のナン・イエイエ・ニューさんと妹さん、
    それぞれが目指す夢と目標は素晴らしいと思います。
    少しずつでも目標に向かえるように応援できればいいですね。

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