東ティモール2日目

今日はハトリア郡コリアテ・レオテウ村への活動でした。

 これは包括的健康増進事業という、東ティモール政府が提唱している活動がほとんどの地域でうまく回っていないため、それがより良く回るようになるために、私たち「地球のステージ」がJICAの草の根技術協力という枠組みを使ってそのてこ入れに取り組んでいるものです。

 今日は、雨期が残る険しい山道を約2時間半かけて走り、コリアテ・レオテウ村にたどり着きました。そしてうちのスタッフの第一声。

「お~、今日は保健所が来ている!!」

 そう、本来はハトリア郡の保健所が自らやるべきなのに、来たり来なかったり。今日は(珍しくちゃんと)来ているということでうちのスタッフが喜んだというわけです。

「日本から担当が来るってわかってたから、意識したのかもね。」

 うちの現地駐在、菊地陽(よう)さんはそれでも嬉しそうでした。
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 こうやって気長に、本来はハトリア郡保健所が全て自分たちで行うべき事業を、まずは僕たち「地球のステージ」がお手伝いをして、ゆっくりと、でも確実に自立に向けて支援しているわけです。

 そしてこの村にも医師がいます。
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 マルティーヌさん。東ティモールの不思議な医師養成プログラム、

「キューバに行って6年を医学生として過ごし、かえってくれば医師となれる。でもすぐに田舎に放り出され、教えてくれる先輩医師もいない中で、一人で頑張りなさい。」

 という枠組みにはまって、どの若い医師も苦しそうです。でも、

「マルティーヌ医師は頑張っている方だ、やる気がある!」

 と評価するのは陽さんです。僕はその言葉の通り、今日は見守って撮影に専念するか、と思いきや、マルティーヌ医師は早速自分の机を空け始め、

「診察、どうぞ。僕は調剤をするよ。」

 う~ん、診察したいのは山々だけど、本来は東ティモール人の医師が診察をして、その中で何か伝えることがあれば僕が介入して技術協力をするというのが、本来の国際協力の視点です。

 でも思いました。医師にだってプライドがあります。

 2011年3月11日、被災した時に外国から仙台市に医師がやってくるというニュースを聞いた時、

「え?何で、外国人の医師なんていらないよ。僕たち地元の医師が頑張るのになあ。」

 と反発を感じたことを思い出しました。僕たちが持っていない特殊な技能を持っているなら、是非この(被災した)機会に教えてほしいとは思いましたが、なかなか素直になれませんでした。

 今回は逆の立場です。でもマルティーヌ医師は僕に診察机を譲ろうとする。そこで思ったんです。きっと彼は調剤を担当することで、僕がどんな処方をするのかを見た見たいのだと。そういうところから学びたいと思ってくれているなら、それはありがたいことだ、と思ったのです。だから診察に入っていきました。
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 驚いたのは、高熱の子どもが多いこと。しかしマラリアは考えにくい。やはり乾期に入ってきて山の中は寒いのです。子どもたちはみんな鼻水を垂らしていました。

 そしてもう一つ驚いたのは、皮膚疾患の多さ。ほとんどの子どもたちの皮膚はただれ、膿が出て大変な状態でした。理由はいくつかあると思います。

 まずは清潔にしていないこと。お風呂やシャワーなんて月に1回程度です。くみ上げて持ってこなければならない「水」はとても貴重なものですから。そして次に、「リンゾ」と呼ばれる衣服用の洗剤を使って身体を洗っていること。この「リンゾ」はあくまで衣服の洗濯用ですから皮膚には向きません。でも石けんを買ったりするお金はないので、服用に買った洗剤をそのまま使ってしまうのです。それによって肌は荒れ、ばい菌が入りやすくなっているように思います。

 そして最後は、皮膚がただれたりしても治す方法がないことです。皮膚疾患用の軟膏なんてまず滅多に手に入りません。保健所が行う巡回診療でも軟膏類はあつかっていないのです。だから一旦悪くなった皮膚疾患はどんどん悪くなります。

 帰りに立ち寄ったおうちで逢ったナナちゃんもひどい荒れ方でした。見かねたうちのスタッフが1本12ドル(1500円近く)もする軟膏を「最後の1本だ」と言いながらも持ってきてくれたので、まずはきれいにしてその軟膏を塗りました。
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「痛い?」

「大丈夫。」

 ナナちゃんの腕は、拭くだけで血が飛び出してきました。

 こう言ったことを防ぐために大切なことが保健教育です。

「毎日身体をきれいにしよう。」

「リンゾは身体には使わないようにしよう。」

「ただれが始まったら、早めに医師に相談しよう。」

 といった保健に対して前向きな知識があれば人は変わっていきます。だからこの保健教育こそ、治療のもっと手前にある有効手段なのです。

 今日もうちのスタッフが寸劇をやりました。
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 手前にいるのが暴力的で怠惰な夫です。結局奥さん眼妊娠してもいたわらないので、赤ちゃんが生まれてもすぐになくなってしまうという設定です。みんな笑いもありましたが、真剣に見ていました。そして、

「こういう夫がいたらみんなで退治しよう。」

 という感じで寸劇が続いていきます。

 途中で往診が入ったので、マルティーヌ医師に診察を代わってもらい、陽さんと出かけました。陽さんはこの地域で助産師として活動しています。もちろん地元の助産師の育成のために。

 直接患者さんや赤ちゃん、そのお母さんに触れることはとても大切です。
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 僕も直接患者さんを診察し、テトゥン語を交わしながら接するので問題が見えてきます。陽さんもそういう意味では直接いろんな活動をしているので、多くの知見を得ています。

 しかし本来の国際協力は、自分たちがすることをどんどんなくしていくことが理想です。それは地元の人たちが育って、自分たちで何でもできるようになっていくことを目指しているからです。

「自分がいなくなる時のことを考えて活動する。」

 それはとてもジレンマを抱えそうですが、やはり国際協力の目指す究極の目的はここにあります。だから僕も陽さんも今は直接患者さんに触れているけれど、やがて、

「すること無くなった~!」

といって、暇になることを目指していく必要があると思います。

 まだまだ当面暇にはなりそうも無いけれど、それでも地元の人たちが良い感じで自信を持って仕事にいそしむ姿を見ることは、本当に嬉しいものです。

 明日は総勢18名が集まる、我が「地球のステージ」の東ティモール人スタッフ総集合ミーティングです。

桑山紀彦

東ティモール2日目」への2件のフィードバック

  1. 国の施策がなかなか隅々に行き届かない厳しさの中で、初歩から立ち向かう活動に今更ながら驚きました。
    困難承知のこの事業に敬意を表します。

  2. 状況がとてもよくわかります…
    そして、それを私自身や身近な環境(内容は全然違いますが)の中に、置き換えて考えています。ありがとうございます!

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