涙の遠征4連続:後編

 3日(月)の15時。5年目を迎えるJICA駒ケ根訓練所の定期公演でした。
 この隊次からシニアボランティア(SV)と青年海外協力隊(JV)が一緒に訓練することになりました。それにより20代の若者から69歳までのシニアが一緒の釜の飯を食べ、共に暮らすカリキュラムが始まっていたのです。
 しかし、今回は「全員参加」ではなく「選択」の講座に変わっていました。シニアの人たちの中には、もう何回も海外の現場に出かけている経験者も多く、そういった人たちの中から「自分たちは語学の研修などは必要だと思っているが、その他の授業や講座は必要ない」という人が結構な数出てきて、JICAがものすごく頭を痛めていたのです。例えば、社会奉仕体験で、近くの老人ホームに出かけていってぞうきん掛けをしたりすることもあるのですが、「自分はそんなことをしにきたのではない」と強烈に文句を言うシニアの人がいたりして、JICAは悩んだ揚げ句、いろんな講座を選択制として、選ばない場合は大変な語学試験用に、自習に充てて良いということにしたわけです。
 そして「地球のステージ」も選択制になっていました。
 全員ではシニア70名弱、青年海外協力隊100名強なのに、その場にきてくださった方は60名弱でした。
 途中で泣けてきて、
 「シニアの皆さん、今日ここにきてくださったシニアの皆さんには、本当に感謝します。でもこの場にいないシニアの皆さんに是非伝えてください。JICAは思いきってSVとJVを同じ訓練の場に置いた。それはお互いが学びあうことを期待しているからです。シニアの皆さんは青年の皆さんの初々しい気持ち、国際協力に関わろうと思ったその初心を思いだしてエネルギーをもらい、青年の皆さんはシニアの皆さんから失敗談を聞いて考え、成功から感動と工夫を学ぶ。そうして、“国際協力をやろう”と同じ思いを持った人間が実に幅広い年齢層で一同に集まって刺激しあい、“この69日間の訓練でいろんなことを得た”と思って任国に出て行くことを駒ケ根のJICAスタッフは期待してきたのです。
 けれど実際には、“自分には経験があるのだから無駄なことはしたくない”といって無理な要求を突きつけるシニアがたくさんでてしまい、僕たちの「地球のステージ」も選択制となって、結局半数の参加となりました。
 私たちのステージは選んでも、選ばなくてもいいものなのでしょうか。ステージがこの訓練所の定期公演になっている理由は、
1) 現地で見てきたものを、どうやって日本に伝えていくか、の方法論の提示
2) 具体的な事例を出して、現場の活動へのアイディアの提示
3) 「国際協力」が実は仕事ではなく、人の生きざまそのものであるというメッセージ。「見て見ぬふりしない心」「“人間が好きでたまらん”という気持ち」がその根底にあることの再確認
4) 自分は自分の人生の中では主人公であり、自分がそのドラマを責任と喜びを持って創り上げていく存在なのだというメッセージ
 だと思っています。それをJICAが理解してくださり、こんなコンサートみたいな講座をちゃんと残してくださっている。
 しかし、今回の一部のシニアの皆さんの「自分は訓練なんか受けにきたんではない」という強気の姿勢はそんな「願い」を踏みにじっているかもしれません。「そんなものいらない」と思っている講座の中に、実は「いや~参加して良かった~」という、意外なものがあったりするのに、「自分は経験があるから」という思いに足を取られて表層的にしか考えられず、実は逃してしまっているものが実はたくさんあるのではないでしょうか。
 確かに60歳近くなって、「何で老人ホームのぞうきん掛けをしなければならない」と思う気持ちもわかります。でも、この訓練所に来たから、できる体験ばかりです。そしてやってみると、“老人ホームってのは実にうまい建物の構造になっているんだな”ということが、そのぞうきん掛けの体験からわかったりするはずです。それを、「経験があるから」だとか、「自分はシニアの年齢なのだから」といってはねつけてしまうなどという、偏狭な精神こそ、この訓練所でたたき直さなければならいのではないでしょうか。
 だから、このステージ、知らないけど面白そうだと思って、語学の試験の直前なのにきてくださった皆さんに逢えて、本当にうれしかったです。でも、「“地球のステージ”なんて見なくてもいい」と思った同窓の皆さんに、「あの“地球のステージ”って行ってみたら意外に良かったよ、次は行ってみたら」と、もしも良かったらお伝えください。」
 こんなに長くは壇上からは話せませんでしたが、そんなことを伝えると、会場から満場の拍手を頂きました。
 経験豊かなシニアの前に出ると、僕もびびります。「自分に何が言えるんだろう」と萎縮してしまいがちです。でも、人間はそれぞれに持つもの、感じるものは違うはず。だからお互い「学びあう」という気持ちがあれば、それでいい。
 だから今回JICAも、それを期待してSVとJVを同窓生としたわけです。
 偏狭なシニアの候補生が言ったといいます。
 「そもそも“訓練所”という名称が気に入らない、時代錯誤だ」
 そうかもしれません。でも人間何歳になっても「学ぶ」「習得する」「気付かされる」という経験は大切ではないでしょうか。それを「訓練」と呼ぼうが呼ばまいが、実はそんなことは大したことではないはず。「訓練所」という名称にとらわれて、そんなことをわざわざコメントする時間を、語学の練習に充てるべきではないかと思うし、そんなことにとらわれている狭い精神性は、きっと任国の現場でも強気で押しすぎて蹴飛ばされて、受け入れてもらえないに違いありません。でも、そこでうまくいかなくなると、そういう人に限ってJICAのせいにしてしまうのではないか、と思うんです。でも実は自分の責任ですよね。
 そういう人こそ、この69日間の訓練の中で学び直すべき「態度」ではないでしょうか。
 「地球のステージ」に集ってくださったシニア、青年の皆さんの多くがアンケートに「これは必須講座にするべき」と書いてくださいました。
 これからも試行錯誤ではありますが、JICAの目指す「合同の訓練所運営」に、「地球のステージ」は全力で協力していきたいと思っています。そしてJICAサイドでは言いにくいことを、あえて壇上から言える、桑山のフリーな立場というものも意外と重要ではないか、と再認識しました。
 「SVとJVが一緒に勉強しあって刺激しあう、素敵な空間をつくられ、そこに地球のステージが呼ばれたら、こんな幸せはないです。自分も、この月曜日に病院にも行かないで、こうして歌っているずいぶん外れた医者になってしまいましたが、それほど命がけでこのステージやっています。だから“選択”ではなく、みんなで見てもらえる日が来るために、皆さん力貸してください」
 会場の割れんばかりの拍手をもらい、5年前の「地球のステージ2~飛騨高山公演」依頼の号泣でしばし何も語れませんでした。
 ありがとう、駒ケ根の訓練生の皆さん。そしていつも支えてくださっているJICAスタッフの高木さん、山口さん。次は3月ですね。苦心惨憺されていることはわかっていますので、次回も“選択”でも大丈夫です。やむない事情はありますから。でも“必須”への「願い」は持っていきますね。
 ありがとう
 2日間、4回の公演で泣かせてもらった皆さんに、本当にありがとう。人間はやはり自分の人生を“生きている主人公”なのだ。
 だから誇らしく、自分らしく生きていきましょう!
くわやまのりひこ

涙の遠征4連続:後編」への4件のフィードバック

  1. いつも一番心がけていること。それは初心を忘れず謙虚でいること。「実るほど こうべを垂れる 稲穂かな」という言葉もありますが、いつもこうありたいと思っています。地球のステージも来月で13年目に入ります。今では全国で公演が入り、問い合せも日々多くいただけるまでになりました。感動しました、ぜひ開催したいのですが、と本当に善意で声をおかけいただくことがほとんどです。ともするとそれが普通に思えてしまう、お願いしますと依頼を受ける側ですから立場的にはとても楽な位置にいます、そんな時に一番忘れてはいけないのが謙虚さだと思うんです。
    今回のシニアの一件で再認識させられました。年を重ねれば重ねたほど見識も広くなり心の層が厚くなっているのが当然。と思いきや、社会は思った以上に複雑だったり厳しい現実だったりする。どこか肩書きや枠を必要とし、それに守られていることで自分を錯覚してしまうんだと思います。そんな自分に気づきその枠から踏み出して海外へ出ようとしているとしたら、全ての枠をとっぱらって、自分の置かれた状況で精一杯経験をすることが違う未来を切り拓く礎になると信じます。
    かく言う私も、留学帰りでお金がなかった頃、近くの遊園地でバイトをしました。一番始めに与えられた仕事がモップでの床拭き。しかも高校生に命じられてです(当時私は27歳でした)。留学までして勉強して帰ってきたというのになんで私がモップがけなわけ?そう思ってこんなバイトやめてやる、そう思った経験があります。でも辞めずにモップがけから始めました。そこに入ったら相手が高校生だろうが中学生だろうが、私より経験が長く先輩であれば学ばなければいけないことも多々あります。先輩は先輩ですからね。今思えば、あのタイミングでもっぷがけのバイトを経験したことが今の自分を支えているのかもしれません。あそこで投げ出していたら、今は鼻持ちならないただの見栄張り女になっていたかもしれないですね。
    どんなことも一生懸命取り組めばきっと自分の成長につながる、そう信じてがんばりたいと思います。地球のステージに関わって11年、いろんな歴史を経て今まできました。こうして続けていられることに感謝し、これからも多くの方々に助けていただきながら頑張っていきたいと思います。

  2. ステージを1500回以上やっていても、感動をもらうたびに桑山さん、感極まると泣けてくる・・・。
    1500回でも、ステージは、1回1回が真剣勝負!
    それを感じさせてくれるいいステージでしたね。akiちゃんも、素敵なステージ体験できて、よかったです。
    連日のステージで、移動距離も半端じゃない。
    体、大切にね!

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