2月11日のてんまつ

「ケイ、今日はマジディのうちでご飯食べたらみんなでお茶でも飲みに行くか?」

珍しくダルウィーッシュがそんなふうに誘うので、あれ?と思いながらも、

「うん、わかった。」

 と何気なく返事をしたのが今から思えば「事」の始まりでした。

 

 ダルと共にマジの家に着いたのが18時過ぎ。

 いつもはここから延々2時間はあれこれと話をして全く夕食が出て来る気配がないのがパレスチナ流です。だから、この日もご飯が出て来るのは20時過ぎだろうと思っていたら、もう早速ご飯が出て来るではないですか。

「ん?なんでこんなに早いの?」

 と思いながら、みんなとっとと食べるのです。

 ご飯のために生きているようなパレスチナ人が、なんでこんなに早く、しかも速く食べるので不思議に思いつつ、その中盤で思い切って、

「あのさ、今日誕生日なんだよね~。」

 と切り出してみると、

「へ~、そうなんだ~。おめでとう。」

 なんだか妙にみんな素っ気ないのです。一番仲のいい我が娘、ルーリー(12歳)もただニコニコ笑っているだけ。

「フン、そうかいそうかい、どうせオレの事なんて・・・。」

 なんてちょっとひねくれながらいると、みんなが早速よそ行きの服に着替え始めているじゃないですか。ルーリーはまず赤い服を着て、でも、結構露出激しくママのアマルに、

「だめよ、もう少し落ち着いたカッコにしないと!」

 と注意されて、今度はちょっとシックなグレーの毛糸にかえたと思ったらまたさっきの赤いスリーブレスを着ようとしたり・・・。

 どうしたのみんな、と思いながらダルに促されて、

「さて行こうか~!」

 なんだかみんなそわそわしています。

 やってきたのは「Happy City」。

 アミューズメント施設の全くないガザ地区南部において、ここだけが唯一華やかな場所です。いつもは結婚式に使われるとあって、正面のステージにはきらびやかなセットが用意されています。

2:12-5.jpg

 早速ルーリーとポーズを取って遊んでいるとダルが、

「ケイ、こっちへ戻って来いよ~。」

 席に着くと、なんと目の前に巨大なケーキが用意されているではないですか。

2:12-6.jpg

「ハッピバースデイ、ケイ!ハッピバースデイ、ケイ!!」

みんなが歌い出します。

「え?なんで?」

「だって、今日はオレたちのケイの誕生日じゃないか。みんなでこっそりとお祝いの席を用意しておいたんだよ!」

「うわ~~~!」

 泣けてきました。そして次から次へとみんながお祝いのプレゼントを・・・。

2:12-3.jpg

「なんで?前もって用意してたの?」

「当ったり前だよ~!もう半年も前から用意してたんだよ~」

「なんで?」

「明子がこの日はケイの重大な誕生日で、パレスチナでその日を迎えるからよろしくって、もうずいぶん前から言われて、みんなで計画してたんだよ~。」

 みんなありがとう。

 決して昨日今日知ったからではない、その用意の重なりが心に沁みました。そして一人一人とハグしてキスして・・・。僕の大切なパレスチナの家族。彼らと大切な日を祝うことができました。

2:12-1.jpg

 本当のこと言うと歳とりたくないし、あまり「おめでと~」って感じでもないので、海外で仕事してた方がいいと思ったところも、正直ありました。でも、こうしてあったかいパレスチナの家族と祝えたのはやっぱり運命だったのかもしれません。

 それからはルーリー(12歳)、ラワン(15歳)、ルスル(17歳)の美女三姉妹と、成長著しいモハマッド(13歳)と、シャイだけど頼れる長男のラーエッド(18歳)と共に踊り続けました。

2:12-4.jpg

 腰を振りながら踊るパレスチナの踊りはとっても難しいけど、恥ずかしいって気持ちを捨てるとよく踊れました。逢う度に大人になっていく子どもたち。この5人の子どもたちの成長が僕のパレスチナの歴史でもあります。次に6月に会うときはルーリーもヘジャブ(スカーフ)を被っているだろうな。でも、どれだけ大人になってヘジャブを被るようになってもラワンやルスルのようにマジディの家の中では髪の毛を見せてくれるとうれしいと思う。それは、家族である証しだから。

 こんなふうに記念すべき節目の誕生日は大切なパレスチナの家族とともに過ぎていきました。愛するパレスチナの家族。マジディ(父)、アマル(母)、ラーエッド(長男)、ルスル(長女)、ラワン(次女)、モハマッド(次男)、ルーリー(三女)、ダルウィーッシュ(夫)、ワイダ(妻)。

 ダルの長男ジハードや次男のムンザ、そして長女のヘバはエジプトの大学に行っています。ダルも出費がかさんで大変です。

 そして我が娘のようなルーリーは相変わらず100点満点に近い成績で勉強をがんばり、歌も踊りも最高で、美女を張り続けています。

 占領され、封鎖されたこのガザ地区。しかも常に空爆の地響きが止まないこのラファの街で生きる二つの家族。

 僕はこの人たちと一生の関わりを続けて行きます。

桑山紀彦

2月11日のてんまつ」への6件のフィードバック

  1. お誕生日おめでとう。生まれて半世紀もたったのかァと思うと、この鈍感な私ですらブルーな気分になったものです。それを救ってくれたのが竹内まりあサンの「人生の扉」という歌でした。歌で救われることを実感したものです。あなたの歌もきっと多くの人々の心を癒し、救い続けることでしょう。
    遠い遠い「(私にとっても)家族」の皆さまの心温まるバースディ―パーティーをこちらの家族も心から喜び、ありがたく思っていることをお伝えください。

  2. 素敵なパーティーになりましたね。(^^)
    明ちゃんからの心のこもったバースデープレゼントでしたね。
    さすが明ちゃん!!!ですね。
    ガザの一日も早い解放を心から願っています。

  3. お誕生日、おめでとう!
    紀くん、あなたは凄いよ。
    それに引きかえ自分は何やってん
    だろう・・・って思ってしまいます。
    そして、世界中に愛を届けてくれて
    ありがとう!

三上 へ返信する 返信をキャンセル

あなたのメールアドレスは公開されません。必須項目には印がついています *