「どなたかお医者様はいらっしゃいませんか?」
きた~!
もう何度目になるでしょうか。機内でのドクターコール。成田空港を飛び立ったトルコ航空が深い眠りに入った8時間が過ぎたあたり・・・。誰よりも先に駆けつけることを信条にしているので、さっそくコールボタンを押したけれど、誰も来ず、後れを取ってはならないとギャレーに行くと、電話中のCAさんが目で受け止めてくれました。
「医者です。」
「アリガト、オクの方へ行って!」
決してぺらぺらではない、少々失礼な日本語を話すトルコ人のCAさんが指でさす方へ向かうと、最後部のギャレーに人が倒れています。
「意識ないよ、診れる?」
これまた「ら」抜きの日本語で男性CAさんが真剣な顔で問いかけてきます。
血圧チェック、102の60・・・。かなり低め。脈拍128。かなり頻脈。SpO2(酸素飽和度)92%、若干低め。瞳孔反射:左右差なし正常。問いかけに最初はもうろうとしていたけれど、5分ほどで回復。名前、住所が言えた。二本指出して、
「何本ですか?」
「・・・2本・・・。」
しばらくするとかなり意識ははっきりしてきました。手の握り返しも十分で麻痺などは無し。
「通路で横になってしばらく寝ますか?」
「いえ、席に戻れそうです。」
でも自分の席がどこかは分からない。名前で検索。着席。
その後男性CAさんが、
「落ち着いたみたい。大丈夫ネ。」
良かった良かった~。
機内で医療行為をするとその所見を書いて書類にサインをしますが、その際に「医籍番号」を聞かれます。これは医師として国に登録した時の免許証番号ですが、僕の医籍番号はなんと、
「304,000番」
とても切りのいい番号なので、すぐに答えられます。
これはこれまで日本に登録された医師の通し番号なので、亡くなった医師も固有の番号を保持したままつながっています。つまり日本で30万4000番目に医師免許をもらったということなのですが、今日も書類に記入して、記念に黄色いコピーを頂きました。
これまで多くの「機内呼び出し」に答えてきました。かつては札幌便の中の肺気胸や、ロシア上空の昏睡・・・。ロシア上空のケースでは途中で近くの空港に降りるか?と聞かれ、さんざん迷いましたが、なんとか成田まで状態を安定させ、見守りながら帰国したこともありました。
実は新幹線でも一回呼ばれて、虫垂炎を疑い広島駅で救急隊に引き渡したこともありました。
今回は大事に至らず、本当によかった。
心療内科ですが、内科、外科、大好きです。
桑山紀彦