主人公性を取り戻す

 先日、きゅうり農家の菅野さんと逢えました。

 菅野さんはきゅうりの専業農家として頑張ってきたお百姓さんです。まだ若いのに、
「オレ、本当においしいきゅうり作りたいんです!」
 と語っていた。そんな菅野さんの畑は津波で全滅しました。立派なガラス張りのハウスも作っていたのですが、ガラスが割れ果てて散乱し、足の踏み場もないくらいでした。
 幸い自宅は手前にある工場団地に遮られて、直撃を避けることができて残りましたが、畑は壊滅状態です。
「もう、ここでは働けない。」
 菅野さんは東京に働きに出ました。しかしやはり故郷が、特に被災した自分の土地のことが忘れられませんでした。そこで菅野さんは悩んだ末に岩沼に戻ってきました。もちろん先行きに不安がないわけではありません。知り合いの会社に勤めながら、今後お父さんが中心で行っている農地にどう関わっていくかを模索しています。
 そんなお父さんとの協働作業でできたのが、このチンゲンサイでした。津波かぶった土をそぎ落とし、水を通して塩分を薄めやっとの思いで創り上げたチンゲンサイ。その青々とした清楚な茎肌にほれぼれしました。少々丈は短いかもしれません。でもこれは津波からの復活の証です。
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 そして同時にこのチンゲンサイには付加価値があります。
 津波の直撃を受けて壊滅状態だった畑から獲れた「あきらめないチンゲンサイ」なのです。そんな「付加価値」こそが被災地を復活に結びつけていく大きな原動力になります。
 もちろんこのチンゲンサイは今のところ市場に出回る量ではありません。でも菅野さん父子があきらめないで作り続けていったら、津波をかぶってあきらめていた土地から育ったチンゲンサイとして、人々は気持ちを込めて買ってくれるのではないか、と思うのです。
 それこそが、今後の被災地と被災地を応援するみなさんとのつながりの方法になっていいと思います。
 我が手芸チームの作り出すこれからの手工芸品にもぜひご期待を!
 さて、「閖上ジオラマ」です。
 現在色塗りが一段落して、「土地づくり」に入りました。
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 子どもたちは喜々として制作に携わりますが、まだまだ一部の子の「悪ノリ」はあります。でもそこはこちらがタフにならないとね。何せ相手は元気いっぱいな小学生ですから。
「おい、そこは丁寧に塗れよ~」
 などとお互いが声かけ合いながら進んでいきます。
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 今日、市役所と話しました。
「エアリモールの展示、いいですね~。でも市役所ホールの展示もいいじゃないですか!」
 なるほど市役所で展示することも、子どもたちにとっては誇らしいでしょうね。
 そうやって被災した人たちはもう一回自分の中の「主人公性」を取り戻していきます。
 津波の被害を受けた子どもたちは今も心の奥の方で、
「なんで僕ばっかり、どうして自分だけがこんな目に遭うんだ。山の方の子どもたちは何ともないのに・・・。」
 とみじめな思いや卑屈な思いを抱えていたりします。それはあまり表面には見えないので、見た目「普通の学校生活を送れている」と見えてしまいますが、そこに大きな落とし穴があります。
 このままそんなみじめさや卑屈さを抱えたままでいると、自信のない性格や、元気をすぐに失いがちな性格に変わっていってしまいます。打たれ弱かったり、すぐにあきらめてしまう性格になっていったりもします。
 これはPTSD(心的外傷後ストレス障がい)とは違う問題点なのです。将来にわたって、自信のない大人になっていく可能性があるのです。
 だからこそいま、子どもたちには
「自分たちでないと出来ない活動」
 を提供する必要があります。
 それがこの「閖上ジオラマ」。
 だって彼らにしか出来ないことですから。そこで、
「やれた、自分はつくれた。」
「思い出せた、みんなと気持ちが一つになった。」
「やった、市役所に展示してもらえた!」
 という思いが高まると、「主人公性」を再獲得していけます。それはまさに、
「津波の被害も含めて、これが僕の人生なのだ。」
 と思えるようになることを目指すものです。そうすれば、自信のない大人になることなく、自分の人生を自分なりにちゃんと歩んでいける人になっていけるのです。それが津波の被害から、本当に立ち直っていくという力になります。
 そしてそれに加えてこれからは彼らの頑張りや努力、その様子を広く世の中に知ってもらう必要があります。そうすることで、
「なんで自分たちばっかりがこんな目に遭って・・・、他の地域の子どもたちは何にも失っていないのに・・・。」
 という気持ちを吹き飛ばし、
「僕たちはたくさん失ったけど、その代わりにたくさんのものを得たんだ!」
 という気持ちに満たされて復活していくのです。新聞やテレビでこの「閖上ジオラマ」が取り上げられて、彼らが誇らしく思えますように。
 それこそが心のケアの第3段階、「世界との再結合」です。
 一部の皆さん、この方向性と目指すものをどうか妨害しないで見守ってください。
 でないと、多くの被災した子どもたちが自信のない大人になっていく可能性があります。
桑山紀彦
 

主人公性を取り戻す」への9件のフィードバック

  1. 改めてジオラマの狙いがよくわかりました。
    真の対策が解らずに近視眼的な人たちの目を覚ませたいものです。
    なんとか周知する手段がないものでしょうか???
    なにも出来ないのがもどかしいです。

  2. おはようございます。今日は土曜日、いつもより22分自宅を出るのが遅いのにいつもより5分早く職場に着きます。ついでに、座れます。 閖上ジオラマ、市役所も公の機関が皆の活動を認めてくれた感があって良いですよね。イオンじゃったっけ?あそこも良いですよね。だって、人がいっぱい来るし。青梗菜は随分立派に出来ましたね。凄い。さすがプロ。朝市とかにはだされるんですか?出して地元みなさんに元気を注入して欲しい気がします。ブログを毎回読みながら、色々気にしながら言葉を選びながら書いてくれてるんだろうなぁと思います。色々な事と戦いながら書き続けてくれてありがとう。読んでいるほとんどの人は応援しています。
    さて、私が今、関わっている外国人の方で若い夫婦、先日買い物に行って、お店の人に 「お前たちに売る物はない」と言われ、シッシッと手で追い払われたそうです。言葉は分からないけど、悪意に満ちた事だって分かりぶち落ち込んでいらっしゃいました。いつの時代?と思うけど実際差別ってあちこちにありますよね。
    今日も一日頑張ります。仕事終わったら、ライブだし。

  3. 桑山 紀彦 様
    閖上ジオラマがテレビに頻繁に出て全国の沢山の子どもたちに見てただけることを願っています。
     いきいきとした子どもたちの笑顔をどんどんブログに掲載してください。
     自信を持った子どもが増えることを心から期待します。
    チンゲンサイがブログに登場し菅野さんも喜んでおられるのではないでしょうか。すばらしい記事(ブログ)です。

  4. 子ども達がジオラマを作りながら一生懸命に心の中を整理して前へ進もうとしていることは私達には希望への一歩と思えます。思い出のたくさんつまったふるさとをジオラマの中で再現させて残していくことでふるさとを誇れる大人になってほしいです。
    そして子ども達が心の底から笑える日が来るようにと心から願っています。
    先生のブログのおかげで私達はそんな子ども達の姿があることを知り、応援することができるのです。
    桑山先生
    どうぞ心と身体をお大切に。
    多分クレームをとなえる方はマイナスの部分だけを見つめてしまうのでしょうね。
    このブログを読んでいるほとんどの皆さんは先生や閖上の子ども達を応援していることと思います。

  5. 美味しそうな青梗菜ですね!菅野さんの頑張りが実りましたね。
    野菜の底力をみたように思います。
    少しでも地域で売れるようになるといいですね。
    ジオラマ制作、着々と進んでいますね ♪
    元気いっぱいの小学生にタジタジになりながらも楽しそうですね。
    多くの方に自信を取り戻す一助になることを知ってほしいと思います。
    完成を楽しみにしています。

  6. 桑山先生が被災した人々を治療して本人の了解のもとにブログに綴っている活動をこころよく思っていない人がいるようです。多分、同じ医者だと思うのですが、桑山先生が自分たちと同じように治療だけに専念しないことが妬みを生んでいるのだと思います。地球のステージの公演も含めて。投書や医師会への報告など、患者さんのプライバシー侵害という名目の中傷なのですが、本人が特定されない仮名や本人の了解の上でのブログへの紹介ならなんら問題ないと思います。もしその中傷があまり酷いものなら、名誉毀損に当たると思いますし、また表現の自由への侵害だと思います。本当にひどいものなら、損害賠償を含めた訴訟してもいいとも思います。
     相手が己の非を認めず、今後とも誹謗中傷を続けるようなら、どうか法的手段に訴えてください。全国には桑山先生を応援する多くの仲間がいます。誹謗中傷はその仲間への挑戦でもあります。
     最善の注意を払い、患者さんのプライバシーも守りながらのブログへの紹介なのですから、どうかその卑劣な医者とも戦っていただけたらと思います。 戦いの一つの方法として法的手段もあると思います。ボクも法廷で戦ったことがありますから。それも、最高裁まで。
        和歌山  なかお

  7. 先生、今日も読ませていただきました。有り難うございます。子供さん達が自分の人生を自信を持って生きてゆけるようになることを本当に願っています。祈っています。さだまさしさんの歌にありますよね、「私の人生の中では私が主人公だから」って。過ぎ去った記憶を手繰り寄せてその中に浸りしだいに自分を取り戻してゆくそんなところが好きでよく聴いています。彼らにもその周囲の大人にもそういう時がやってきますように。そして、世の中の人々にも慈しみと応援の気持ちが満ちることをいのります。先生の健康をただただひたすらに祈っています。

  8. 菅野さんの青梗菜、立派に育って良かった~と、
    心から思いました。
    普通なら、ただの野菜の青梗菜にそんな気持ち持たないのですが。
    この青梗菜が、桑山さんの紹介で、ただの青梗菜でないとわかったから、
    農業を諦めない若い菅野さんの
    「あきらめないチンゲンサイ」だと知ったから、
    遠い地に住んでいても、菅野さんを応援したいと思います。
    ジオラマ制作、すんなり受け入れてくれる人たちばかりではない
    ということを知らされ、哀しみを覚えますが、
    桑山さん負けないでくださいね。
    子どもたちがいつか、桑山さんが正しかったことを
    証明してくれると信じます。

  9. 閖上ジオラマ制作の真意が、よく伝わってきました。
    私は、閖上ジオラマの制作環境と、完成後の行方をずっと見守りたい。
    大怪我をしてしまった日本の傷が癒えるよう、未来へのベクトルがちょっとでも上を向くよう、みんなで寛容と優しさを持つことが今は大切なんじゃないかなぁ?と思ったりました。

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