1枚の写真から(第6回)~名取市役所との付き合い

 写真に写っているのは、名取市役所秘書課の大久保さんです。

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 大久保さんとは公私ともに親しくさせて頂いており、特に市長さんの窓口としていろんな人と知り合いなんです。そんな大久保さんに津波後、直接会ったのは13日(日)の昼でした。

 明ちゃんが、

「市役所とつながろうよ。防災無線だって借りられるかもしれないし、とにかく市役所と協調歩調を取って活動を進めようよ。」

 と言ってくれたのがきっかけでした。それまでの桑山はNGOであり、緊急救援モードに入っているのでとにかく、

「できる精一杯のことを自らしよう。」

 という意思はあるのですが、自分の街が被災するということを想定してきていないので、これまで仲良くしてきた市役所とつながって一緒にいろんなことを進めていくという思考に気づけないでいたのです。しかし明ちゃんに諭されて大久保さんに逢いにいくと、

「いや~先生、病院あけててくれてありがと~!市役所としては何でもできるだけのことやるから!」

 と言ってくれたのです。そしてそのとき初めて

「名取市緊急車両証」というものを発行していたいたのですが、そこには市長さんの名刺と実印の割り印が押されていました。

「これを使って、やりたいようにやってください。」

その言葉がうれしかったことを思い出します。それ以来、常にいろんなことを市役所に相談に行くようになりました。そして逆に市役所からも避難所の巡回診療や保健センターとの連携を依頼され、ようやく「名取市の医師として」働けるようになっていったのです。

 このとき杓子定規に、

「じゃあ、この書類を出してください。」

とか

「手順を踏んでください。」

などと言われていたらやる気も半減しおそらく、

「では国際協力の人脈を使って、こちらはこちらでさせて頂きます。」

という気持ちになっていたかもしれません。でも大久保さんの、

「この市長の名刺と割り印付きの書類で、やりたいようにやってください。信頼していますから。」

という言葉でいろんなことが爆発的にできるようになっていったのです。保健センターの保健師さんたちともどんどん仲良くなり、各避難所を支えている学校の先生たちとのつながりも深くなっていきました。それは名取市という街が10万人には届かないけどまとまりのいい人口と面積を保ち、一つの「固まり」として機能していたから、それに乗ることができたのだと思います。現在も活動を続けるロシナンテスの川原先生やそのスタッフも、最初私たち「地球のステージ」を頼り、そこが拠点になっていましたが現在は自立し、名取市内に独自の事務所を持って活動を継続しています。それはやはり「名取市だったから」という面が強いと思うのです。それほど、名取市は活動しやすい土壌を持っていたと思います。

 でも僕にとってはいつも市役所のインターフェイスは大久保さん。市長さんと会う時も、夜中にアリナミンFの注射を打ちにいく時も、みんな大久保さんに電話してきました。本当に津波から3ヶ月間はみんな市役所に交代で泊まり込み、必死に街の復興のための公僕として仕事に従事していらっしゃいました。大久保さんもまた市役所に泊まり込んで、寝ずの仕事を続けていました。だから夜間に市民会館の避難所に往診した帰り、市長室とその隣の秘書室の電気がついていると必ず白衣のまま寄ってひとしきりその時点での復旧計画や展望の話をしてクリニックに戻っていました。

 まさに市長さんとともに、「一緒に戦ってきた戦友(表現はよくないですが、ニュアンスとして…。)」のような存在でした。大久保さん自身も、長年スカウト活動に勤しんでいらっしゃった、「見て見ぬ振りしない人」ですが、その精神が今回の支援活動に生きていたと思います。

 これからもこの名取市を舞台に活動していく上で、本当に大切な人間関係を築けてよかったと思っています。

桑山紀彦

1枚の写真から(第6回)~名取市役所との付き合い」への9件のフィードバック

  1. あきちゃんの提案する事はいつも的確ですね!名取市の方の対応も柔軟だし!
    そこに桑山さんをはじめ地球のステージのスタッフの活動があるんですね。これからも良い活動が出来ます様に。

  2. 「救命」 一気に読みました。
     ドクトルとしての
     「地球のステージ」案内人としての
     そして,人間 桑山紀彦としての
     考え方,生きざまを
     改めて理解できました。
     共感かなぁ  同感かなぁ
     よくわからないけど,ますます応援したくなりました。

  3. 震災後、新聞で休日当番医として、東北国際クリニックの文字を見つけた時は、とても嬉しく、感動したことを思い出しました。

  4.  台風15号は本州縦断の恐れがあります。
     20日深夜から21日の未明にかけて近畿地方に最接近する台風15号は全国に大雨を降らしそうです。
     和歌山県や奈良県の土砂ダムはすでに満水状態となっており、いつ決壊してもおかしくない状態にあります。
     強い雨は九州から東北の広範囲にわたり、近畿、四国、東海では500ミリ以上の雨が降ると予想されています。
     朝から断続的に豪雨が降ったり止んだりを繰り返している我が日高町も、車を走らせながらワイパーを高速にしたり、また切ったりの連続です。なんとまあ走りにくい。
     本州に接近すれば比較的速く台風は通り抜けていきそうですが、今日も朝から戸締りを厳重にして出かけてきたところです。
     近畿の台風の大雨による被災地も大震災による被災地も復興の途中にあります。このような大雨が降るとは、はなはだくやしい限りです。
     今回はどうか被害があまり出ないように願います。ただひたすら祈るのみです。
        和歌山  なかお

  5. 明ちゃんはいつも冷静ですね。事務局長、ご苦労様。そして、有難う!
    行政とうまくつながれたことで地域の皆さんに支援ができますね。
    国際クリニック、地球のステージが地域から期待される存在になっています。
    スカイルームの今後の展開も注目しています。

  6. 明ちゃん、さすがですね!大久保さんもそうですが、大きななことを成す人には、その横に必ずと言っていいほど素晴らしい方がいますね。

  7. 11月9日にお世話になる、茨城県の小学校の鶴見です。
    はじめてコメントします。昨日、仲の良い市議会議員さんから紹介され、被災地の小学校の支援をしている方と会いました。もう、何度も現地に物質を届けながら、自分でも団体を作って全国から支援を募り、被災地支援をなさっている方でした。
    その方も現地に出向き、心ない被災地の方々から色々な罵声を受けて落ち込み、数人の方々からのありがとうで救われると言ってました。
    私が住んでいる町もまた、今回の震災や世界中で起きている出来事は対岸の火事と感じている大人達が沢山います。ましては子供達も同じように思っています。
    今回、被災地の小学校と姉妹校になって欲しいと頼まれました。依頼者の近くの小学校では断られたそうです。それを聞いた市議会議員が私に会わせたかった様です。
    私も自分に出来るだけの行動はしていきますので、今後とも宜しくお願いします。
    最後にお願いがあります。
    当日、数人の仲間を紹介させて下さい。保守的体制を打破すべく、地元で行動している方々です。
    こちらに書き込む内容なのかはわかりませんが、長々とすみませんでした。

  8. 速攻のNGOと臨機応変の行政が結びつくと円滑に事が運びますね。これぞ生きた治世です。
    名取市にはリベラルな市長の元に復興に心強い味方となる良い人材がいますね。多分、市長さんは「お役所仕事」と云う言葉が嫌いでしょう。
    政治は議事堂でやるものではなく市民密着が原点だと思いました。
    東京では「救命」が品切れで、大手書店にも在庫が有りません。出版社では当分再版計画がないようなので、明日から書店周りをします。

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