それぞれの日曜日

 今日は福井県福井市でステージでした。

 被災地を離れるのはこれで3度目。最初は愛知県大口町のステージ、二回目は兵庫県神戸市のステージ。そして今回が福井市。

 被災地を離れると不思議な感覚になります。それは「実はこっちの方が“普通”であったんだ~という感覚」。毎日舞い上がる埃、町中が海の臭いに包まれている我がクリニックにいるとそれに慣れてしまい、何が“普通”だったのかがわからなくなっていました。

 けれど、波打たない高速道路(北陸自動車道)を走ったり、埃にまみれていない県道を走ったりするとホッとします。そして実はそちらが「普通」であることに気付きます。

 今回は福井、滋賀、京都、奈良のロータリアンに呼ばれての10分の公演と、一般の皆さんに向けたステージの2本立てで構成されていました。東ティモールのスタディ・ツアーにまで行った熱血漢、滋賀の伊藤さんや、ずっと応援してくれている旅行会社社長小山マイクさん(日本人)とあってホッとしますが、今回の震災の影響はお二人にだってあるのです。証券を扱う伊藤さんと旅行を手配する小山さん。考えてみればそれぞれに確実に影響は出ているはず。同じ大地に生きている以上、何らかの影響がないわけがない。それは例えば、「自分に何ができるのか」と思って苦しい思いをしている多くの皆さんだって、震災がなければそんな気持ちを抱えることもなかった。その意味において、確実に一人一人に震災の影響はあると思うのです。

 だから、みんなやっぱり同じなんだと思う。震災の影響をどう受け止め、どう乗り切ろうとするかにおいて、被災地名取にいても、滋賀や京都に暮らしていても頑張りが求められていると思うのです。首都圏だって薄暗かったりエスカレーターが止まっている。わざわざ階段を上り下りしているんです。そんな我慢の中に、震災の影響を感じ、「じゃあ自分はどうするといいのか」が試されていると思うのです。

 降り立った小松空港で、心なしか人が優しくなっている気がしました。ちょっとした声掛け、身振りに「あれ?」と思う。「人間て優しいなあ」と感じます。それは、大自然の猛威に破壊された街やひどい目に遭っている人々と一緒にいるから、思わず優しいものを無意識に探しているのかもしれない。でも、確実に一人一人の人間が「こんな時だから、優しくあろう」と思っているように感じられます。これは震災がもたらした良い影響だと思います。帰りも小松空港でした。ここから羽田、そして仙台空港へ戻ります。

 時間があったので、久しぶりに回転寿司に寄りました。空港近くの全国チェーンではない小さな回転寿司。入ると、

「へい、いらっしゃい!」

元気な板前さんが迎えてくれました。最近はどこへ行ってもタッチパネルの回転寿司になっているけど、ここは違います。目の前で板前さんぎゅっぎゅっとお寿司を握ってくれます。

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「やっぱりお寿司屋は、回転寿司だって、これがいいよね~」

そういいながらお寿司を食べました。

「お客さん、旅行ですかい?どっから来たの?」

「あ~、宮城県の名取市から・・・」

「名取!あの被災地の名取!」

そう叫ばれると困りますが、

「いや~大変だったね~。今日戻るんですかい?」

「今日は羽田まで。明日の朝には名取にね。いい漁港がいくつもだめになっちゃったからお魚が上がってこなくてね。お寿司屋さんがやってないんもんで・・・。」

「そうですかい。いい魚たくさん食べていってくださいよ!」

今時の回転寿司屋さんでもちゃんと会話ができました。

見ると向こうの席に男たちが4人でお寿司を食べています。

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この威勢のいい板前さんに次々勧められて、困りながらも断り切れずその通り注文している4人の男たち・・・。

ホッとしました。

「これが普通のニッポンの風景だ」

と思う。いろんな人が、いろんな想いを抱えて生きている。被災地であろうとなかろうと悩みを抱え、希望を持ち、絶望し、また夢を取り戻そうとしている。みんな同じ。

 小松空港に向かうと真っ赤な夕陽が沈んでいきました。

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美しいニッポン。また被災地にも普通の暮らしと美しい自然が戻ってきますように。そのためにがんばろうと思えてきます。

 ゴールデンウイークに名取に来たいという方が増えています。ありがたいな、と思うと同時に困惑もします。僕たちにも休みや休息がほしい。世の中がゴールデンウイークでみんなが休みで被災地へ行ける、と思ってやってくれば、被災地の休みはなくなります。

 もちろん桑山も明ちゃんも優子ちゃんも休む気はありません。クリニックは相変わらず24時間、急患を受け付けます。医師の助っ人は外務省医務官の乳井先生と広島県三原市の木原先生が来てくれて一緒に24時間体制が引けます。

 もしも、皆さんがこぞってクリニックや「地球のステージ」にいらっしゃると、何もしないわけにはいきません。そのための時間ですべてが変わってしまいます。どうか、この点を大切に考えてくださいませんか。

 もちろん被災地へ行きたいという気持ちはとても大切だと思います。ゴールデンウイークのお休みに、自らの身を被災地に置くことはとても重要なことだと思う。しかし、受け入れはいろんなところで体系立って行われています。ぜひネットなどで調べていろんなところで広報されている「ボランティア募集」をあたってみてください。受け入れている団体はたくさんあります。

 GW中、「東北国際クリニック」は、24時間の急患受け付け体制を粛々と続けます。

 はやる気持ちは伝わってきます。でも一気にやってこられると、やっぱり一人一人にお時間を割かないわけにはいかなくて、こちらのプランがなり立たなくなる可能性がありますので、どうかご理解ください。

 積極的に受け入れ体制ができなくて申し訳ありません。

 しかし一方で、なんらかの支援はしていきたいと思いますので、「人員募集!」となった時は早速お願いしたいと思ってはおりますのでよろしくお願い致します。

桑山紀彦

それぞれの日曜日」への12件のフィードバック

  1. 桑山さんがお寿司を食べてる写真を見て嬉しくなりました。
    我が家は、元々、節電っぽい毎日でしたが、3/11以降色々考えて、節電につとめました。(私は、お菓子を焼くのもほとんど控えました。)オール電化の我が家電気代が4000円安くなりました。この地震で電気の無駄遣い、見直しました。
    日本中で見直せたら良いよね。
    いつもいつも、言いにくい事をしっかり説明付で教えて下さり関心します。思い起こせば、富士山のたもとでステージに参加した時も桑山さんはそうでした。妙に関心して自分を思い出します。

  2. ついでに、タイトルに合わせて、tomokoの日曜日をご紹介します。(いらんわ!なんていわんでね。)
    夜中の2時に袋井から帰宅、6時起床し犬の散歩に行き、家事をこなし、今日も袋井に行くか悩みながら、1週間の買い出しに行き、結局、袋井に行きそびれました。足を洗えず悩むバイト先に、初めて休ませて下さい電話を入れて、来週高校の委員会で引き継ぐ資料を確認し、整理して、髪の毛をカットしに行きました。
    明日も7時すぎの電車で都内に行きます。そうそう、すみともさんと一昨日桑山さんの話をしました。心配されていたみたいです。明日、新聞記事を持って行きますね。

  3. 桑山さんはとても小食だと聞いていたのですが、回転寿司で食べられるのなら大丈夫、よかったよかった、と嬉しくなりました。秋に札幌(当別?)に来た時には、おいしい~〆鯖とアキアジのルイベを食べてくださいね。
    「普通」について。
    イラクから女医さんを半年間、研修で受け入れた時のことを思い出しました。札幌の大通り公園や北大の中を「散歩できる」ことに、とても感動していたんです。
    昼間、「撃たれる心配をしないで」通りをぶらぶら歩ける。
    「なんて自由なの!」という彼女の言葉。
    町にも家の中にも、安全地帯のないのが「日常」になっている人と過ごした経験は、「普通ってなんだ? 平和ってなんだ?」ということを改めて考えた日々でした。
    今回のブログで、そんなことを思い出しました。
    札幌で「震災支援」をしている仲間と話すと、誰もが、今まで生きてきた経験のありったけを総動員して、「今、何ができるのか」を考え、行動していることがわかります。
    そして、「今までよりも、もっと、人にやさしく、人とつながって、行動したい」という思いを持っていることがわかります。
    日本中の思いが包帯になって、傷を包んで、癒してゆけますように。

  4. 桑山さんの言わはること よく分かります。
    いつもの 私なら とっくに 名取の クリニックに飛んで行ってます。
    でも このブログを読んで そうでなくても気を使われる 桑山さんや明ちゃん、優子ちゃんの顔がが目に浮かび 邪魔しては、駄目と自分に言い聞かせています。
    こちらにいても 私に出来ることを
    今日なんか買い物好きな私が 買ったつもり預金を 始めました。
    少し貯まったら また義援金送りますね!
    大阪より 応援しています。
    ファイト!!

  5. みなさま、おつかれさまです。
    多くのみなさまの「あたたかい」お気持ちはありがたいですね。
    被災地に向かうだけがボランティアではないと思います。
    何かしたい!その気持ち、実現できないもやもや。
    おいでになれば応対しなければなりませんね。現地の人でなければ地理に不案内でしょうから、被災地へご案内しなければならないでしょうし、特にブログに出ていた避難所や津波でなくなってしまった町を案内したり・・・
    たとえば、どこかのお偉い人が視察にいらしたら、その都度ごいっしょしたり・・・
    私なんかは役にもたたないから、後方支援だけをしていたり・・・
    瓦礫や泥の片付けも役立たず、炊き出しもできず、肩もみできるほど力もなく・・・
    仙台からボランティアの方々のために無料のバスが出ています。石巻方面へ。フル装備ででかけ、1日ボランティアができます。家の泥かき出しや瓦礫片付けをやっていただけるととっても助かりますね。重機ではできない人の力が必要なところがたくさんあります。石巻方面へ来ていただけるとうれしいです。
    被災地のことを思っていただけるなら、こちらのニーズにあうことを望みたいです。よろしくお願いいたします。

  6. 桑山さんにとっては、今行っている活動すべてが「普通」のことなんですね。ためにするのではなく自然の気持ちから出る行動がこの状況下でやれることは、やはりすごいすごいです。
    今日、清里の小須田さんと会いました。当然話題は地球のステージのことです。
    彼女もすごい~早くも今後の活動の目標を明確に持って熱く語っていました。たじたじでした。ここにも普通の思いを持っている人がいました。

  7. 分かったよ。紀くん!言いにくいことをちゃんと伝えてくれてありがとう。「人員募集!」の時は、ブログは毎日読ませてもらっているので、知らせて下さい。

  8. ステージお疲れさまでした。
    連休は24時間受け入れと、休む間もなく勤務されることありがたいです。どうぞお体お気をつけて。
    被災地の人達は強い余震に警戒し、不安を持ちながらの生活をしています。
    連休だからと見にくるのではなく、入浴なし車中泊、食事水持参、避難所の並ぶトイレ使用覚悟のボランテアは必要とされています。
    よくお調べの上支援のためにお出で下さるのは、大変ありがたいです。
    復興のための車が渋滞で動けないことよくあります。
    身内が心配のお気持ちよくわかります。
    お出でのときは、混む時間帯を外すなど工夫なさってください。
    復旧車両もゴールデンウイーク関係なく作業してくださると思います。
    皆さんのご協力よろしくお願いします。

  9. お箸を持つ桑山さんの所作を見てやっぱりホッとしました。少し前から弟が回転寿司に紹介され勤め初めてちょっと嬉しいんですよー。日頃行かない「くら寿司」にりとるママさんといっしょに行ってニコニコが止められませんでした。対話下手な弟が桑山さんの会った板さんみたいに丁度いい関わりをできる日が来るのかも知れません。
    私もtomokoさんをまねしてこんがりの日曜日をご紹介します。(いらんわ?)
    ・ウインドーショッピングでツモリチサトというデザイナーさんのバッグを若い店員さんから「つもりも人気ですよ」と勧められ、結局本屋さんでブランドムックを購入し同じデザイナーのお安い鞄を手に入れました。差額はつもり貯金にします。
    ・栄養士会の研修会で睡眠の専門家から教えてもらいました。体は横たえると休むけど、脳は眠らないと休めない。明るい体育館で眠るのは、その分PTSDを残すかも知れない。眠りにしかできない癒しがあるから「最近眠れてますか?」と聞くよりも「眠れないときどんな対処ですか?」と寝酒や手に入りやすいお薬で依存しないように見つけてあげるのですって。眠りを大事に出来る環境にすることに気づいて伝えている方を呼んでくれた役員さんに感謝です。
    結局、紹介されたり紹介したり、人を介してばかりの日常です。

  10. 大好きなお寿司が食べられて良かったです♪
    毎日緊張の連続の桑山さんにはホッとするひと時を作ることが必要です。
    「毎日舞い上がる埃、町中が海の臭いに包まれている我がクリニック」で、
    明ちゃんや優子ちゃんも頑張っているのですね。
    心配は募りますが、せめて皆さんの生活のペースを乱さないよう自粛します。
    皆さんお疲れが溜まっているでしょう。どうぞくれぐれもお大切に。

  11. 大事なことは相手の立場にたって活動することだと思います。
     支援することも、相手の迷惑、困惑、になることならなんのための支援かわからなくかります。
     桑山先生、遠慮なく、そちらの希望をブログに書いていただけたらと思います。
     現地の様子がわからない、僕たちにとっては、いかなる支援がいいか、よく考える機会になると思います。
      和歌山 中尾より

  12. お寿司を食べる桑山さんの写真、とてもイイ!
    とてもうれしいです。
    人が寿司食べてる写真でこんなにうれしい気持ちになるとは…。
    いいぞ!桑山!12月には益田で寿司食おう!

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