「クローズアップ現代」という区切り

 今日は粛々と外来でした。

 3週目に入って心の問題はますます深刻化してきているように思います。津波の夢にうなされる、ということは確かに容易に想像できるのですが、春代おばあちゃんの記憶は苦しいものです。
「この間はよ、夜中に3回起きたんだ。いつもいつもおんなじ夢を見るんじゃ。水につかってな、身体は動かん、どんどん水があふれてきてついに口の中に泥水が入ってくるんよ。そこで必ず目が覚める。この前は騒いでしまって、避難所のみんなに迷惑かけたんじゃ。
 とにかく水が怖いわ。
 この前みんなで健康ランド行ってな。そりゃあ久しぶりの風呂じゃから楽しみにしておったんじゃが、身体洗ってな、いざ湯船に入ろうとしたら身体がぜんぜん動かんのよ。水の音やら揺れた感じがもう怖くて怖くて・・・。結局湯船には入れんかった。でもな、シャワーも怖い。目~つぶってシャワーを浴びるなんて、もうとてもとてもできたもんでないわ。じゃから結局髪も洗わんで出てしもうた。
 ワシゃもう一生風呂には入れんのかのう・・・。」
 肩を落とす春代ばあちゃん。命を落とす恐怖に駆られたその「記憶」は、こうして心をむしばんでいきます。この「記憶」をどうやって「紡ぎ出し」、どうやって「物語」に変え、どうやって「形」にして、どこへ「しまう」のか。それが心のケアの根幹です。
 そしてそれは今回取り組みたい「津波祈念資料館(Tsunami Memorial Library and Theater)」の存在意義そのものです。この資料館が「紡ぎだし」「物語」「形」「しまう」のステップを可能にすると期待しています。
 紡ぎ出すまでの時間がかかればかかるほど、その記憶はゆがみ、アメーバのように心をむしばんでいきます。それを少しでも正常な形に変えていくことが今後現場で求められていくことでしょう。
 さて、いよいよ31日(木) 午後8時から「クローズアップ現代」です。桑山は出演はしません。でも丁寧に撮ってもらいました。最初の10分程度だとは思いますが、この3週間の集大成なのでご覧下さい。
 
 しかしこの高視聴率を誇る番組に少しでも出ると、必ずブログに心ない書き込みをする人が出てくるそうです。これまでの登場人物の皆さんは基本的に「仮名」です。医師としての判断です。そして一時的にお顔が出て、その人と判断できる写真は引き上げました。心ある人に見て頂ける日が来るまで、少々お待ちください。
 「真実の物語を伝えたい」と言うことと「プライバシーも大切」の狭間で苦悩しながらブログを書いていますが、心ない人の中傷もあるでしょう。
 しばらく耐えます。
 そしてその波が去った時、またいつものブログに戻っていきたいと思います。
 では、明日NHKで!
17-1
岩沼市
17-2
お寺
桑山紀彦

「クローズアップ現代」という区切り」への18件のフィードバック

  1. クロ現…そうですか…。真実を伝えることも難しく悩まなければならないこの世界…一人ひとりがゆっくりと変わっていくしかないのですね。「平和な世界」になるまでに…どれだけの人たちが犠牲にならなければならないのでしょうか…。それでも、そこから、何かが生まれ、変わっていきます。希望は捨てない…。地道に…一歩ずつ、半歩ずつ、少しずつ…。祈ってます。

  2. いつも、いつも、掲載されるお話や、UPされる写真には、胸が詰まるおもいです。
    今日の、この塀に乗り上げた車はなんですか!!
    テレビや週刊誌でも被災の様子の映像や写真が公開されますが、そこにはない、別の写真がUPされ、被害の広さと、被害のむごさを改めて知る思いがします。
    衝撃的なのが、今日のお寺の写真。
    お堂の左半分が根こそぎ掛けています。津波の凄惨さを強烈に認識されます。右側の新築の屋根が残っている分だけ痛々しいです。
    こんな、悲惨なできごとは、もう決して起こらないことを祈るばかりです。
    でも、自然には逆らえません。与えられた命、私たちは精一杯、生き抜かなければなりません。
    無駄な命などないのですから。
              和歌山 中尾より

  3. ニュースで喋る事が出来なくなった女の子、夜泣きが始まった男の子に出会いました。
    お風呂に入る。という日常の事が出来なくなってしまって…
    胸が苦しくなります。
    余震がおさまって来たのかな!と思うと 頻繁に揺れ。揺れだけでも早くおさまって。と思う今日この頃です。
    昨日のサッカー。カズがゴールを決めてくれて、何だか嬉しかった私です。明日は、8時に自宅にいませんのでビデオにとります。

  4. 久しぶりの健康ランドを
    とても楽しみにしていたのに
    お湯が怖くて
    体がすくんでしまった春代おばあちゃん。
    日本人は
    年を重ねるごとに
    お風呂は嬉しく
    この世の極楽とも思える時間のはずなのに・・・。
    私は田舎育ちで
    当時の夏の子どもたちの楽しみは
    川遊びでした。
    小学校2~3年生のある夏の日に、
    いつものように川遊びに出かけ
    浮輪に乗ろうとして体勢が傾き
    パニックになって固まってしまった私は
    浮輪から手を離すことができないまま
    頭が水の中に入ったまま
    ながされてしまいました。
    幸い大人の人が気づいて
    助けてもらえたのですが
    ほんの短い時間だったはずなのに
    それ以来水は「怖いもの」になってしまいました。
    顔を水につけることができないので
    泳げるようにはなりません。
    でも、
    お風呂は、お湯は水とはまるで違うもの。
    怖いなどと思ったことはありません。
    春代おばあちゃんの恐怖の大きさ、
    津波の恐怖と闘っておられる様子に、
    涙が出ます。
    一日も早く春代おばあちゃんが
    心も体も健康ランドでほぐせる日がきますように。

  5. 震災で受けた心身の傷は一人一人違う形で現れますが、外傷のように目に見えて良くなるなら、本人も安心できます。
    でも心の回復はなかなか実感できないように思います。
    自覚がないのに不平不満を口にしていた私。昨日身内に文句ばかり言っていると言われ、愕然としました。
    心が荒れています。
    桑山先生のように皆のために一生懸命活動されていても、心ない書き込みを常に覚悟されているのですね。
    マイナスの言葉を簡単に口にしないよう気をつけます。
    春代おばあちゃんやたくさんの方の苦しみが少しずつ和らぐことを願います。

  6. 50才過ぎて広島の資料館に 初めて行った。見ておかなくてはと・・(一度は行かなければと思っていたが、行けなかったのだ)
    戦後に生まれた私だが とても胸が苦しくなり、途中で休まなくては 前に進めなかった。
    戦争は 最大の暴力だと感じた。
    人災と天災とは 違うだろう。
    でも 桑山さんが 計画されている資料館はとても必要な魂の入った箱だと思う。桑山さんらしい構想で・・・
    桑山さんのブログで 本当を知ることが出来るような気がする。
    神戸の時は 娘と 飛んで行き 水汲み、物資配給、お話しを聞く、子どもさんと紙芝居したり、おお縄跳びしたり・・・
    でも 東北の地は 遠いこともあるけど まだ行けない。
    ごめんなさい。
    もう これ以上被災者の皆さんを苦しめないで!と 祈る

  7. 心のケア、「紡ぎだし」「物語」「形」「しまう」に寄り添ってくれる専門家が大勢いることを願います。
    “怖い”記憶はなかなか離れてくれないと思いますが、話を聞くことからケアが始まるのですね。
    桑山さんの存在は大きいですね。これからも多くの人の力になってください。
    「クローズアップ現代」楽しみにしています。

  8. 『湯につかる。』という人として最も癒される行為が過酷な経験によって閉ざされるのですね。自分が日々向き合っている発達障害の子ども達もさまざまなトラウマを抱えて生きています。そのトラウマを少しでも和らげて、できれば取り外してあげたいと思いながらも、なかなかそうはしてあげられない自分がいます。紀くん、またいろいろ教えて下さい。見るよ!クローズアップ現代。

  9. もし中傷のコメントが出ても、桑山さんは桑山さんです。
    多くのことに耐えられている桑山さんでも、一日の終わりにそんなことを見たら、嫌な気持ちになるに決まってます。
    それが真実なんだと信じてくれる人が、1人でも多くいてくれることを願います。
    心無い人なんかに負けないで、今日も頑張って下さい!

  10. 悲しいことですが
    意味のない中傷や
    とんでもない行動を
    する人が
    私の周りにもいます。
    こういう時だからこそ
    人間の本質を見極められる
    そういうチャンスだと
    思っています。
    分かり合える人とだけ
    付き合っていけばいいのではないでしょうか?
    ややこしいのはごめんです。
    娘も医療関係に勤務していますので
    職場の方も被災地に応援に行かれたそうです。
    職員食堂で
    被災地の様子を話しながら
    涙するその方と一緒に
    娘も泣いたそうです。
    泣かずに、涙見せずに
    被災地で頑張ってきて
    地元に戻って
    涙がやんわりと出たのでしょう。
    お風呂に入れないおばあちゃん
    一緒にお風呂に入って
    背中を流してあげたいです。
    一人じゃ怖いんでしょうね
    どうかお風呂に入ってる周りの方
    さびしそうな方に
    困ってる方に
    声をかけてあげて下さい。
    裸の付き合いしてあげて下さい。
    お願いします。

  11. ≪「ククローズアップ現代」の区切り≫を読んで
    『批評家よりも批評される側になりなさい』
    NHKの“プロフェショナル”という番組の中で聞いた言葉で、ある医師が後輩の医師(脳外科)に伝えた言葉だそうです。
    自分が何かに取り組んでいる人は、人の批評などしている暇はないですよね。
    桑山さんは地元で診療所を経営し、世界中の紛争地・災害地に緊急医療ドクターとして出向いていき、日本中で“地球のステージ”を展開。まさに、ミラクルな活動です。心ない書き込みをする人”は、そういったことが、その人の考えの範疇を超えるから批判するのでしょうね。
    もし、番組を観てそういう人がでてきたとすれば、桑山さんがこれまで長い間に積み上げてきたことを理解していないから。桑山さんには多くのサポーターがいることを忘れないでくださいね。

  12. 桑山さん、がんばってください!
    北高でもたくさんの義援金が集まりました。
    岐阜から応援しています。
    お体に気をつけて、
    一人でも多くの人の命を救ってください。
    一日も早い復興をお祈りしております。

  13. 毎日ブログを読ませていただいています。
    桑山さんすごい人だなって思います。
    機会があればぜひ祈念館に行きたいです。
    いっぱい想いはあるのにコメントしようと思うと
    上手に言葉にできません…
    桑山さんを応援してます!

  14.  晩ご飯をつくりながら、ワンセグを見ていると、「桑山紀彦さん」とアナウンサーが言います。「あら?地球のステージの桑山さんのことだ!」もう3年前になろうかということを思い出しました。「そういえば東北の方だったような・・・さすが!すぐに活動をされているんだなあ」心のケアが専門だったんだと思い出しました。
     おばあさんのお話を聞いていらっしゃる姿を見ました。おばあさんのお話(私が息子を殺したも同然)もごもっともでも、自然災害だからだれのせいでもないはず・・・でも、だれを責めることもできなくて自分を責めてしまう。どんな言葉をかけてあげればいいんだろう・・・自分だったら何にもできないでしょう。さすがプロですね。
     早速ブログをチェックしました。私の学校でも募金活動をしました。3日間で5万円。春休みになり、子供に話すこともできません。また4月になって訴え続けます。
    遠くから何にもできませんが、気持だけでも応援しています。

  15. 桑山さん
    「クローズアップ現代」観ました。
    桑山さんらしい、誠意にあふれた暖かく熱心な診療に胸を打たれると共に、敬意を感じました。
    家族も「桑山先生は優しいねえ」と感心していました。と同時に「桑山先生自身が大丈夫かなぁ」と心配していました。
    TVでお見受けした感じでは、12月に逗子でお会いした時よりやつれている感じでした。
    ブログを読んでいると、無理ないと思いますが、どうかお体を大切にしてがんばってください。
    30日のブログにあった「クローズアップ現代に出ると批判的なコメントがブログに書かれることがある」ということですが、こういった問題へのこういった活動に批判をするとしたら、それはその批判者自身が心の傷や欠落を埋めるためのあがきをこういう場でしているだけなのではないかと思います。
    批判など気にせずがんばってください。
    桑山さんには僕等がついてます。
    (空手三段の僕はボディーガードにもなります(笑))
    体をくれぐれも大切に、自信を持ってやってください。

  16. NHK見ました。画面に東北国際クリニックが映ったとたん、涙がでましたよ。桑山さん、さらに痩せましたね。明日から4月。

  17. とてもいい感じの報道でしたね。
    桑山さんらしさにあふれていました。
    地球のステージの建物がそこにあるのが不思議なくらい、
    周りは信じられない光景が広がっていました。
    大変困難な状況の中なのだと改めて思い知りました。
    皆さんの心のケアのためにも祈念資料館が必要なんですね。

  18. 桑山先生の全身で患者さんに向かい合われるお姿に、感謝と尊敬の気持ちでいっぱいです。
    私は苦しい時に、大事にしてもらえたという心が、回復の大きな力になりました。
    こういうことが辛いと言葉にしないと、周囲の人にはわかってもらえません。言ってもわがままに受け取られることもあるので、なかなか言えませんでしたが。本音を言えて正しく受け止めてくれるのは、心のケアの知識をもつ専門の方なのでしょうね。
    赤い消防車と共に天に召された方を思うと、ご家族の悲しみ苦しさから癒える日はいつの日か。
    このブログを読まれて、多くの皆さんが応援していてくれること伝わりますように。

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