多文化間精神医学会の公演

土曜日に、福島市で「多文化間精神医学会」第17回総会がありました。
 17年前、この学会を創始しようと12人の精神科医が集まりましたが、桑山はその最年少で、事務局を引き受けました。作ったばかりの弱小学会ですが知恵を凝らし、力を合わせて年1回の総会と、ワークショップを行ってきました。もちろん第1回総会は山形市での開催でした。
 当時の事務の仕事を支えてくれていたのは、まだ全日空に勤めていたうちの事務局長、明ちゃんでした。二人でせっせと会員向けの機関のタックシール貼りをしていました。まるで家内工業のようでした。
 当時、日本国内に外国人が急増していました。
 それは決して都市部の外国人労働者だけでなく、東北の田舎に国際結婚でやってきたいわゆる「外国人花嫁」の皆さんもクローズアップされており、外国人との相互理解、共存は大きなテーマになっていました。そんな時流を得ての学会創造だったのですが、実に楽しかったですね。
 山形でのワークショップの時は大蔵村に住むフィリピン人女性たちに会ってもらったりと、現場重視の学会でした。桑山は当時対外国人支援の活動もしていたので、この大蔵村で日本語を教えたりしていました。そんな中でのワークショップ。まだ雪の壁の残る月山道などを通ると、全国から来た医師たちが驚きの声を上げていたことを思い出します。
 しかし、14年前、「地球のステージ」が始まりました。
 はじめの頃は年間36公演程度でしたので全然時間もあり、学会との両立は可能でしたが4年目くらいから年100回を超え、6年目くらいからは年200回を超えて総会やワークショップがある土曜日は完全にステージのスケジュールで埋まるという状況になっていきました。
 そしてついに「これ以上の両立は無理」という結論に至ったのです。
 「ステージ公演」「日常診療」「海外医療支援」の3つが現在の活動の柱ですが、それに学会が加わって4本の柱はさすがにきつくなりました。断腸の思いで「学会からは脱退」という決心をしたのが今から6年前でした。
 しかし学会のみんなは
 「創始メンバーの一人なんだから、理事の名前は残そうよ。辞めるなよ」
 といってくださり、恥ずかしながら理事として学会の末席を汚していました。
 しかし、今回17年目に「総会でステージで歌え」と依頼が来たのです。
 うれしかった。
 言い訳になるのですが、自分が何故に学会から離れたのか、その一番の理由である「ステージが忙しくなった」その理由を見てほしかったのです。
 ステージが終わって理事長の野田文隆先生(大正大学教授)が寄ってきてくださました。
 「桑山君、良かったよ。何も苦にすることはないよ。ペナルティも何もない。これから時間を見つけてまた学会に戻って来いよ」
 そして、同じく理事で、ステージは何度も見に来てくれている阿部裕(ゆう)先生(四谷ゆいクリニック院長)が食事に誘ってくださいました。
 まるで17年前のそのままの雰囲気。気さくで、暖かく、心地よい。
 自分は精神科医なのだ、いや、精神科医で良かった、と思う瞬間。それは同じ道を歩み、日々患者さんの診察をし、抗うつ薬の使い方やうつ病から立ち上がっていく社会人をどうリハビリで支えるかなどの話で盛り上がる同じ志の人間との会話でした。
 ステージはある意味孤独です。
 こういった「地球のステージ」のようなパフォーマンスをしている人間は、少なくとも僕の周りにはいない。だから、その意味においてパイオニアとしての自分を維持していかなければなりません。だから誇りもあるし、日々想像力をかき立てて制作していく必要があります。
 でも、医療の分野には「先輩」や「同僚」そして「後輩」がいます。
 悩みや愚痴が語れるし、気づきや発見がその会話の中にたくさんあります。
 「学会」は、そんな同じ志を持つもの同士が集い、意見交換をする大切な場所なのだ、と改めて思いました。
 そんな会話の中で阿部先生が言いました。阿部先生は4年前に四谷に開業しているのです。
 「桑山君、開業したら最初の1年間なんて給料は全くないもんだ。でもな、1年を過ぎて、3年目くらいになると楽になるぞ」
 この言葉に涙が出てきました。
 同じ悩みと苦しみを持ち、それを経てきた先輩の存在がこれほどありがたいとは思いませんでした。
 脈脈と歴史のうえに知識を積み上げている「医療」という分野。そこは学びの場であり、謙虚さと勇気を持って臨めば多くの知識が学べます。「学ぶ」ということはいくつになっても大切であり、歳を経るからこそ余計に「学びたい」という思いを持つべきなのだ、と感じました。
 学会ではいつも諸先生方に「桑山君」と呼ばれます。
 その心地よいこと。いつまでも「桑山君」と呼ばれながら、学びの姿勢を持ち続けたいと思いながら、福島をあとにしました。
 多文化間精神医学会に、幸あらんことを!
 
桑山紀彦

多文化間精神医学会の公演」への2件のフィードバック

  1. お久ぶりです。
    心が満たされるようなブログだと感じました。
    桑山さんの著書で、多文化間精神医学会の創設のことはだいぶ前に知っていましたが、いろんな歴史があったのですね。離れて何年にもなるのに、温かい先輩や同僚、後輩に恵まれている桑山さんって、ほんとうにすばらしい方です。いつも感心して眺めております。
    諸先生方から、「桑山君」と呼ばれる存在って、うらやましですね。3足のワラジをうまい具合に履いて、国際協力や地域医療に励んでください。
    遠くから&近くから見守っていますから。

  2. コラッセ福島のステージ素晴らしかったです。ありがとうございました。
    続けたいことを諦めなければならなかったつらさ、痛いほど伝わります。体は一つ、限界を超えた忙しさでは、しなければいけないことまで、できなくなる可能性もあるかもしれませんね。
    心を病み立ち上がる力もなく方法もわからず、苦しんでいるたくさんの患者さんがいます。投薬だけで立ち直る人、言葉の導きも必要な人それぞれです。
    精神科医の方々や医療に携わる皆さんのお力をお借りして、一人でも多くの患者さんや、ご家族が心身共に健康に過ごせる社会になること願います。
    どうぞお体ご自愛なさることお忘れなく。
    ご健康お祈りいたします。

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