ワークショップ初日

　ケアしている子どもたちも今年に入って少し入れ替えがあり、私たちの「サナブリ・クラブ（若芽の会）」は、国境に住んで常に空爆と銃撃の恐怖に怯えて暮らす子どもたちが対象です。日々の暮らしの中に命の不安がある、そんな子どもたちとずっと活動してきました。

　子どもたちが背負っている負担と心の傷は、放っておけば必ず重い心の障がいになるほどのものです。だから、きちんと心の中で整理をして外に吐き出していくことを必要としています。

　もちろん、PTSD（心的外傷後ストレス障がい）の予防としての「心理社会的ケア」を行う前に、「安全の確保」というステップが必要です。しかしこのガザ地区ラファの街で「安全が来るまで待つ」としたら永遠にそれは来ないので、空爆がひどくない今の時期にケアを展開します。

　今回の音楽ワークショップは、みんなで歌詞をつくって歌ってしまおうと言う、いつもやっているものですが、ほとんどが初めての子どもたちの取り組みなので、一から「どうして吐き出すことが必要なのか」と「なぜ音楽を使うのか」を説明してから始めていきました。

　今回はインドネシアのジャワ島で作曲した「アヨ・バンキット（さあ、立ち上がれ）！」のフレーズを使います。これは、今回の津波被害でも「みんなで歌う津波の歌」に使った楽曲です。

　今回はうちの編曲家である優子ちゃんがいるので、楽曲の進め方は楽です。

　それにしてもこの「アヨ、バンキット！」は覚えやすいフレーズではありますが、アラブ音階は基本的に5音しか音階がありません。私たちが通常使う7音よりも2音少ないのです。だから非常に独特で、一回聞けば「これはアラブ音楽」とすぐにわかるものです。だから、この曲がどのくらい通用するか、と不安でしたが、私たちの頼れるスタッフの中で、特にタブラ奏者としてもプロであるヤシーンのリードのもと、子どもたちはきちんと歌詞づくりにいそしんでいきます。

　さすが！のヤシーンです。

　でも歌い込むに付け、だんだん、じわじわとアラブ系のメロディラインに変わっていくのが不安でもあり楽しみでもありました。そして、本来の曲よりもかなり変わった感じになったこの曲ですが、歌詞の中身はやはり前向きなものばかりでした。

「安全な街をつくろう」

「平和で暮らしやすい街をつくろう」

「苦労した日本に今一度力を貸そう」

　小中学生とは思えない、啓けた歌詞になりました。

　いよいよ明日はもっと練習を重ね、名取の被災した子どもたちへのメッセージも入れていきながら、発表を目指したいと思っています。

　請うご期待！

　そして、その足でモハマッドのところへ来ました。ステージ5番の「ガザ危機篇2」に登場するモハマッドは「ジャーナリストとになる夢」を持ちながら日々を国境線で暮らしています。

　今は17歳になって高校2年生のモハマッド。ちゃんと夢を聞くと、

「もちろんジャーナリストになるんだ。」

　とはっきりした声で言います。そんなモハマッドの最近の成績は93％。こちらは全体の平均点を％で示します。93％は非常に高い数字です。もしかするとこのままがんばればエジプトの大学に進むかもしれません。するとパスポートがとれて、日本にも行けるかもしれません。これはチャンス。来年の6月には試験が終わって来年の9月には大学に進む予定のモハマッド。

　がんばって欲しいな、と思っています。

　その前で微笑むのが妹のアッラーです。

「将来は教師になりたい」

　というアッラーは、今回新発売になった絵はがき集「世界回廊」の中の一枚です。

　美しいアッラーの正装姿の絵はがきを、是非手に取ってみてくださいね。

もうひとつご報告が。

これまで子どもたちと一緒に取り組んできたシネマワークショップ。映画「不思議な石」が

完成し、先日1月5日に上映発表会を行いました。他で観ることはできないの？という問い合わせもいただいており、現在検討中です。詳しいことが決まりましたらお知らせしたいと思います。パレスチナに向かう途中、映画「不思議な石」の番宣を作成してみました。どんな映画なのか・・・少しでもその片鱗をご覧ください。

番宣はこちらから

桑山紀彦