モハマッド

昨夜、モハマッドにあいに行きました。
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 モハマッドとは彼が13歳の時に出逢い、「戦争の光景を描こう」と言ったら見事に空爆の様子を描きましたが、色を塗らなかった少年。

「空爆や占領されている僕の街には色なんてものはない。」

 頑なな13歳との出逢いでした。

 それから彼はこのガザの実情を世界に伝えるためにジャーナリストになりたいという夢を持ち、18歳でイスラム大学のマルチメディア科に入学を果たしました。「心理社会的ケア」の訓練生でもあります。

 そんなモハマッドを日本にいざなうため、昨年夏頑張りましたが、彼の強い希望でエジプト国境から出域したいという求めがありました。一時エジプトとの国境が開いていたので可能と判断し、着々と準備を進めていたのですが「シナイ半島のIS」というゲリラの動きに阻まれ、国境はふさがり結局彼はギリギリで国境を渡ることができませんでした。

 松本のみんながせっかく受け入れを表明してくださった「シネマ・ワークショップ」も結局逃してしまいました。仙台も、神戸もみんなに申し訳ないことをしてしまいました。

 今年も彼を日本にいざなうため、今日は説得です。2時間かかりました。

「モハマッド、君は今こそ日本に行って広い世界を知るべきだ。君の将来の夢のためにもとても大切な海外渡航になると思うよ。」

「それはわかっている。でも、北の国(桑山にとってはこの”北の国”はとても大切な”友好国”なのであえて名前は出しません)方面の出域はイヤだ。そこで逮捕されるかもしれない。」

「どうして?」

「僕がネットとかにさんざん悪口を書いたりしているからだよ。」

「それはブラックリストに載っているってこと?」

「それはわからない…。」

「君や家族が実はそう思い込んでいるだけではないのか?」

「・・・」

「南の国、エジプトとの国境は常にふさがっており、いつ開くかもわからない状況だ。3年目の今年、僕たちは不確かな情報しかない南の国からの出国は考えていないんだ。」

そこでアーベッドが間に入りました。

「北の国が本当に君を逮捕するかどうかは誰にもわからないことだ。まずはやってみないとわからないことだらけなんだから申請を出してみよう。そしてその申請が拒否されれば、確かに君は要注意人物なんだろう。許可されれば全く問題はない。もしも検問所でインタビューが必要となったら、その時正々堂々とインタビューを受ければいい。そこでだめなら引き返そう。でも、通れない人は、申請した時に却下されるのが普通だよ。」

モハマッドの心に変化が生じました。

「わかった。やってみたい。」

でも大切なことが残っています。

「なあモハマッド、もしも北の検問所から出るのであれば、それまでの期間、君がネットに書いていることや日々の発言には気をつけなければならいと思うよ。もちろん君の”正義”を曲げろと言っているわけじゃない。生きていくバランスを持ってほしいという意味だ。」

するとモハマッドが言いました。

「実はさっきアーベッドとそういう話をしてたんだ。ちゃんと気をつけて発言しないと、ってね。」

少し安心しました。

 まっすぐな正義を貫こうと生きてきたモハマッド。その中でジャーナリストになってこのガザの現状を世界に伝え、世界の様子をこのガザの人々に伝えたいと願い続けているモハマッド。でも彼はそろそろ外の世界を見るべきだと思う。ガザのみんなには「甘い」と言われるかもしれないけれど、「敵」と呼んでいる国の様子も見てほしい。そしてこのガザに生まれ、一歩もガザから出たことのないモハマッドがため込んでいる「怒りの感情」を、少しでもバランスの取れたものにしてほしいと願うのです。そのためには、政治的には「平和」である日本をしっかり見てほしいと願います。

 アーベッドが昨年夏日本に来た時、日本の風景を見ながら無言になっていました。そして彼がぽろりと言ったのです。

「これが、平和、なんだな。」

 その時はアーベッドが辛いことを知ってしまったのかもしれないと、一瞬焦りました。でも強い意志の彼はこう続けたのです。

「だから自分たちも平和を手に入れたい。」

 何も知らないで生きるより、本当のことを知って生きていくことが幸せなのだと教えてもらいました。

 今モハマッドは経済的な問題が生じて大学にも通えたり通えなかったりしています。ガザの大学は授業1コマがいくらと値段がついているのです。それが負担となり、モハマッドは最近大学に通えていません。せっかく入学を果たしたのに…。

 しかしこのガザは大学を出たって就職口がない。モハマッドのジャーナリストになりたいという夢はこのままではついえ果ててしまうかもしれません。そして彼の正義はもっと強い「怒り」に変わり、その後はどうなっていくのか容易に想像がつきます。高い夢を持ってしまったが故に苦しみつつあるモハマッドを放ってはおけません。でも今回彼は、

「北の国の検問を通ってもいい。」

 と言ってくれました。僕たちの責任は重いけれど、背負う覚悟でまずは申請を始めたいと思っています。

 全国の皆さん、そんなモハマッドが来られるかもしれないこの夏、招へいの準備を是非!
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桑山紀彦

モハマッド」への3件のフィードバック

  1. ここまで根付いた「心のケア」~石の上にも三年目ですね。
    モハマッドを見ていると一途さと真の強さを感じます~外の世界を見る機会を是非作って下さい。

  2. モハマッドさんご自身の気持ちが動いて一歩進んでいて、よかったですね。
    今できる方法で、日本に来てください!
    色を塗れない!塗らない!その時の感情から、時間が立って変化して…
    今、日本に来てください!
    寒さ厳しい中、お気をつけて。

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