樹(たつき)くん

 その少年は小学校1年生でした。

 2009年1月。僕たちは東松島市、野蒜(のびる)にある鳴瀬第二中学校で歌っていました。その日は冷たい雨が降っていましたが、野蒜の皆さんがたくさんやってきてくれて暖かい雰囲気の中にステージが終わっていきました。
 壇上で片付けをしていると、一人の少年が話しかけてきました。
「感動しました!」
「おお、そうか。何年生?」
「野蒜小学校の1年生。」
「そっか~、難しくなかった?」
「全然!ぜ~んぶの話しがすご~くよくわかった!」
「ホント?特にどこの国が?」
「東ティモール!」
「すごいね!ほとんどの人が知らない国だよ。」
「アカペトくんに逢ってみたい!」
 びっくりする小学1年生でした。まず物怖じしない。はきはきと話しかけてくる。大切な話しの確信が確実にわかっている。こんな賢い小学1年生、見たことがありませんでした。
「名前はなんて言うの?」
「たつき!」
「へ~、どんな字?」
「樹木の”樹”」
「そりゃあいい名前だね!僕のお父さんは家具職人でね。木が大好きだったんだよ。」
「ふ~ん。」
「たつきくんも、木が好き?」
「う~ん、僕は機械が好きなんだ。」
「将来は何になりたいの?」
「ロボットとかつくりたい!」
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 これがたつきくんとの出逢いでした。利発な子どもには全国で時々出逢いますが、たつき君は飛び抜けていました。将来が楽しみな、「地球のステージ」ファン最年少との出逢いでした。
 そして、2010年12月22日。鳴瀬第二中学校で2回目のステージがありました。冷たいみぞれ雪が降っていました。鳴瀬2中は搬入口が砂地です。いかにも海のすぐ近くにある中学校です。とても印象的でした。
 そしてステージが終わった時、またニコニコした顔が待っていました。
「こんばんわ!」
「お!君は!」
「たつきです!」
「大きくなったな!何年生だ?」
「3年生だよ!」
「今日は2番だったけど、難しくなかった?」
「大丈夫、全部わかったよ。とってもおもしろかった!」
 横にはおばあちゃんが笑っていました。
「あれからたつきはとにかく「地球のステージ」が好きで、本は全部読んで全部覚えました。」
「それは嬉しいなあ。」
「次はいつ桑山さんにあえるのかって、もう大変でした。だから今日鳴瀬2中でステージがあって本当に良かったです。」
「最年少の「地球のステージ」ファンですからね。」
「本当にこの子は、世界のいろんな事に興味があるんですよ!」
 おばあちゃんも、お母さんも嬉しそうでした。
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 それから79日目の3月11日。たつきくんは自宅で津波に襲われました。そして、それから69日目の5月18日。近くの用水路で発見されました。変わり果てた我が子の姿に、お母さんは涙も涸れ果てました。この写真を撮ってくれたおばあちゃんも、津波で亡くなっています。
 あの日、鳴瀬第二中学校3年生だったたつき君のお兄ちゃんは卒業式でした。お母さんはお兄ちゃんと一緒に卒業式のあと、謝恩会に出ていました。そして地震がきて、津波に襲われ会場となっていたかんぽの宿の4階に取り残されました。
 たつき君はおばあちゃんと一緒に自宅にいたところを目撃されていますが、たつき君がおばあちゃんの携帯から送信した、
「こわいよ、たすけて」
 というメールが届いたのは夜の9時を過ぎていました。遅れて送信された、たつき君の最期のメッセージでした。
 お母さんは3月11日をどう過ごすかで苦しんでいます。
 「とても、自分の家には戻れない。」
 お母さんの正直な気持ちです。でも、いつの日か更地になった自宅に戻り、お花を手向けるようになれる日が来ることを願います。この世界にいけなくなってしまった場所があっていいはずがありません。
 「でも今は無理。」
 それがお母さんの本音です。
 こうして僕は「地球のステージ」最年少の理解者を津波で失いました。
 でも、これで空間を自由に行き来できるようになったたつき君の魂は、ステージに飛来して好きなステージを見ていると思うのです。
 だからまだ見ていない3番から6番までのシリーズを、これからたつき君は日本のどこへも飛んでいって、見に来てくれるんだろうなあ。そう思いながらたつき君の魂を感じながら歌います。
桑山紀彦

樹(たつき)くん」への15件のフィードバック

  1. またまた、せつない話を聞かされました。
    地球のステージを理解出来た1年生がいたとは・・・。
    桑山さんにとっても、辛いそして忘れられない別れだったことでしょう。
    こんな子が日本にも居たんだ。
    ほほえましくも悲しい物語です。
    涙、涙です。

  2. 辛い現実に苦しい思いは、消えることはないのではないかと思います。
    自分が生かされていることすら、辛くなります。
    樹君 あなたは何をしてあげれば喜んでくれますか?
    残された皆が、あの日苦しんだ人達にできることは何ですか?
    声なき声を、聞こうとご家族は一生懸命生きていらっしゃると思います。
    どうか日本中で、3月11日もこれからも温かく見守っていただきたいと思います。
    桑山先生、スタッフの皆さんどうぞお体ご自愛ください。
    どれほどのお忙しさか、お疲れでしょう。
    お邪魔になるかとお手伝いは遠慮していましたが、
    できることがあればいつでも伺いたいと思っています。

  3. 実家の近くでのステージの時、低学年の男の子がキョロキョロ、ウロウロしているので、もしかしたら桑山さんと話したいのかなと思って声をかけた事があります。やっぱり思った通りでした。桑山さんに来ていただいてその子は握手をして嬉しそうでした。小さい子供達の心にも地球のステージの話は染み込んで行くんだなと思い嬉しかったです。樹君、大好きなアカペトのステージ1も思う存分聞いているかもしれませんね。樹君のお母様の様に3/11をどうやって過したらよいのか悩まれている方の気持ちを考えると辛いです。私ですら、どうやって迎えたら良いんだろうと考えてしまうのですから。

  4.  桑山先生、すべての苦労、すべての悲しみを抱え込まないでくださいね。
     生きている私たちが、元気でいることが亡くなった方たちにはなによりの供養になると思います。
     私たちは亡くなった多くの方々のことを忘れることはありません。
     いつも、いつも、魂と共に寄り添っているのですから。
     お手伝いには行けませんが、3月11日をどう迎えるか僕も考えています。
     和歌山  なかお

  5. お子さんのお話に、言葉がありません。ご家族の気持ちを思うと耐えられません。
    写真の中の可愛い純粋な表情。
    希望に満ちた未来。
    私たちは自然に生かされていますが、自然が憎い時もある。
    樹君、素敵な名前です。
    お会いしたかった。
    きっといい友達になれたと思います。

  6. 樹くん、きっと、好奇心旺盛なきらきらした目で、
    色んな事に挑戦していく子になったんじゃないかな
    生きていてほしかった・・・
    心からそう思いました。
    もし、命の募金箱があったなら、
    入れてあげたかったよ。

  7. 樹くんのご冥福をお祈りします。
    きっとおばあちゃんと一緒に家族を見守ってくれているでしょう。
    一年が経とうとしていますが、お母さんの時間はきっとあの日のままなのでしょうね。
    お母様を慰める言葉がみつかりません。桑山さんがいて下さることだけが救いです。

  8. あれからもうすぐ一年というのに、こんなに切ないストーリーが……あるんですね
    桑山さん、語ろう!どんどん語ってよ。
    昨日、とても世話になった叔母を失いました。
    泣きます。

  9. 樹くん各地で繰り広げられている「地球のステージ」にいつも 来ているような気がします。大好きな桑山さんに くっついて
    いっぱい書きたいのになかなか 言葉になりません。

  10. 次回、地球のステージを観る時は、樹君をそばに感じたいと思います。
    桑山先生、これからも語って下さい。歌って下さい。
    樹君の生きた証を伝えて下さい。
    どうかお母様の悲しみが少しでも癒えますように・・・・

  11.  長男がお腹にいる時、いろいろ名前を考えました。
    その中に「樹」とかいて「いつき」も候補のひとつでした。
    だからこの樹君がすごく愛おしく思えて・・・。
     樹君、貴方の為に私が出来ることは何?
    貴方が地球のステージを観て感じたことをもっともっとたくさんの子ども達にも感じてもらうこと・・・。
    今、思えるのはそれかな
     樹君、おばちゃん頑張るよ
    だから、その時はきっと来てね、おばちゃんの横に・・・!

  12. 桑山さんが
    樹くんのことを
    こうして教えてくれたから
    樹くんの 肉体は
    今はこの世にはないけれど
    「命」
    は、しっかり輝いて
    私達に見えているのですよね。
    本当に
    キラキラ輝いて
    かわいい
    「命」

    私は感じています。
    私の心にはずっと樹くんの
    「命」が生きていくと思います。
    私達が 受けたかもしれない 苦しみを 代わりに負ってくれた 樹くん。
    私達は
    生まれ替わった気持ちで
    樹くんの分も きちんと生きなきゃならないんだ
    と、
    厳粛な思いで
    樹くんの命を感じました。

  13. 樹くんはきっと世界を幸せに導くために、この世に降りて来た天使だったのですね。
    だから、世界に興味があった。
    だから、地球のステージが理解出来た。
    だから、みんなに大切なことを気付かせる役割を担って旅立った。
    そう思えてなりません。
    樹くんの思いを無駄にしないよう、世界が良くなることを祈り、まわりの人々に愛深い私にならなければ・・・と思います。

  14. たっつの友達の母です。たっつママにプログを見せてもらいました。野蒜の子供達は自分の子供だと思ってみんな一緒に育ててきました。これからだって同じです。みんな思いは一緒です。四年生もだったし五年生になっても六年生になっても私達も子供達も、たっつも一緒に同じ学年に連れていきます。思いは、たっつに届いてる気がします。これからも、たっつママの力になってください。よろしくお願いします。

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