北釜のおかあさん

 今日、北釜のお母さんと逢いました。以下は「ブログに書かせて下さい」と許可を得て頂いたお話しです。

 そのお母さんは歩さんたちの消防車の姿を見、歩さんの
「大至急避難して下さい。」
 の声を聞き、歩さんたちの死を知った人の一人です。そして同時に大切な娘さんを津波で失いました。おじいちゃんおばあちゃんを助けに行こうとして家に戻ったところで流されてしまいました。
 お母さんに消防車の保存について尋ねてみました。
毎日毎日亡くなった娘のことを考えます。でも考えても考えても心が落ち着かないので、娘が持っていたものを探したんです。でも家は完全に流されているから何も見つからなかった。ところがある日娘の流されたクルマが見つかったんです。私は急いでそのクルマのところに行き、中にあったぬいぐるみ、アクセサリー、フロアマットのすべてを持ち出しました。それを自分の家に中に飾り、フロアマットは自分の車の中で使っています。娘が身近にいる気がします。

クルマで私たちの北釜を走るといつも思うようにしています。

「ああ、この家に○○さんがいて亡くなった。」

「ああ、この角で○○さんが発見された。」

って。そうやって思いだしてあげることが、その人の供養になると思うし、私たちは忘れてはいけないと思います。だから消防車もちゃんと残しててほしい。私たちの命を救うために一生懸命だった人たちのことを、その消防車を見ることで気持ちを新たにしていくべきだと思う。でないといつの間にか、私たちが生き残ったことが誰のおかげだったかわからなくなってしまうと思うんです。

 その消防車をみて、自分たちが助かったことの意味をちゃんとかみしめることが亡くなった人たちへの供養であり、その人たちの、

「生きろ」

 と私たちへ向けてくれた気持ちへの「報い」だと思うんです。

 私はこれから元気になったら旅とかもちゃんとしたい。娘が見たかったものを私が代わりにちゃんと見てあげることが大切だと思うんです。だからこれからもへこまないで生きていきたい。それは娘の代わりに生き残った私が、娘の分もこの世でいろんな経験をしてあげることに意味があると思うからです。

 でも、いつか死ぬ日が来た時、私はきっとホッとするでしょう。

 ああ、これで娘の元へ行ける。ようやくあの子に逢えると思って、心の底からホッとするでしょう。だから私は死ぬことが怖くなくなりました。

 でも命がある限りは生きていきます。それは娘の思いを乗せている命だから。でもそんな命のも寿命が来ます。その寿命が尽きた日、私は心の底から安心して娘の元へ旅立つことが出来るでしょう。」


これもまた現場の声です。


桑山紀彦

北釜のおかあさん」への10件のフィードバック

  1. 事情があり、1週間ほどブログを読むことができませんでした。
    ちょっと離れていただけで、一人取り残されたように、ブログの内容についていけなくて・・・。
    心が寄り添っていない状態を、自分で情けなく思いました。
    でも、北釜のお母さんのブログを読んで、このブログを読み続ける意味を呼び戻しました。

  2. 自分を生かしてくれた人を忘れない、そのためにも消防車を残す意味があるんですね。
    娘さんの分まで豊かに生きようとするこのお母さんの強さに敬服します。
    私たちは桑山さんのブログのおかげでこうして被災地の皆さんの想いを受け取れます。
    有難うございます。
    一人ひとり、今こそ生きることの意味を考えていかなくてはと思います。

  3. 「北釜のおかあさん」の気持ちが そのまま 今の私と全く同じ気持ちなのでびっくりしました。
    子供を亡くした親は、皆 同じ思いで生きているのですね。
    桑山さん、教えて下さってありがとうございます。
    亡くなった方たちは、私たちに
    「生きろ」という メッセージを伝えたがっているのです。
    桑山さんが
    「消防車を残そう」
    とする活動は 亡くなった方たちの
    メッセージを 後世に伝えるため。
    大きな大きな愛、
    人類愛によるものですね。
    でも、消防車を 見るのは 辛いから
    「無くしてしまおう」
    という行動は、
    自分を守りたい。
    という小さい小さい自己愛なのです。
    私も 息子が亡くなった車を遺されたら 辛くて 見る事は出来ないと思います。
    でも
    桑山さんのような
    大きな大きな愛による思いで、向き合うなら、
    その「死」を 後世の人のために、生かしてほしい。亡くなった人の思いを「無」
    にしてはいけない。
    と思います。

  4. 残す事は、大切な事。私は、子供達と実家に一緒に帰省した時、1年に1回は広島に行ようにしていました。被爆した身内がいるわけではないけど、私が両親に教えて貰ったように自分の子供にも伝えなきゃと思って。保存に反対している方々が、保存する事が大切だと気付いてくれますように。

  5. 今なおそれぞれが辛さを抱え日常を送っています。
    残したい、見るのが辛すぎるどちらも大切な感情に思います。
    時間をかけて、心を癒すことは必要ではないかと思います。
    可能なら長い目で見て、広島の原爆ドームのように消防車の保存を考えていただきたいなと思います・
    原爆ドームは実際被ばくしていない私達が見ても、怖さを感じます。当時体験された方ご家族の方々のご心痛は、いかばかりかと思うと葛藤は大きかったと思います。
    巨大地震と津波の怖さを伝え、二度と同じ悲劇を起こさないようお互いに助け合う心を持ち続けたいです。

  6. 28日の分を拝見してから、少し落ち着きません。
    身近な人の死は祖父母くらいしか経験のない私は、想像するばかりです。
    祖父母は老いて自宅で亡くなったので、私はその部屋に出入りすることには抵抗がない。けれど、もし交通事故ならば?現場にはどれくらい立ち寄るか?事故車両を手元にとどめておけるか?
    地球のステージで、救急活動中に砲撃を受けて亡くなられた医師のことを聞き、救急車の写真を見たことがあります。私がその医師の上司ならば?
    立場や状況で、意味が変わる。適切か不適切か、耐えられるか、同じ思いの仲間がいるか。
    自分は今回、一つの側(被災していない者)にしか立てていない。だから、想像します…。

  7. 言葉がありません。身近な人、大事な人を亡くした人の話を聞くと言葉がありません。そういう悲しい思いをした人が多くいます。僕たちはそんな人々が多くいるということを、数の情報(死者、行方不明が2万人以上)で知るわけですが、数では表せない悲しみがそこにはあります。多くの悲しみを伝えていくためにも、こんな悲劇を二度と繰り返さないようにするためにも、被災のモニュメントを残さなければいけないと思います。被災消防車もその一つだと思います。
     どうか、どうか、津波祈念館も多くの人々の、悲しみと、生きる希望の証しとして設立してほしいと思います。
     広島の原爆ドームと同じような形として。
      和歌山   中尾

  8. 桑山先生いつもブログを書いて下さってありがとうございます!先生はいつも自分の生活を犠牲にしてまで一生懸命活動して下さって本当に頭が下がります。私は毎日のように今回の震災の出来事を考えています。この被災地に住んでいる中の1人として私は一体何が出来るんだろう?毎日がそんな思いに駆られます。私の場合は幸いに家族だけは無事でした。けれども沢山の知り合いの方々は亡くなってしまい、そして、すぐ目の前の町が破壊され、私の生まれ育ったこの被災地の現状に私はいまだに悪い夢であってほしいと思うばかりです。私でさえもこんなに辛く悲しいのだから、ご遺族の方々は私達には想像を絶する色々な思いがあるのだと思います。ただ私は今回の震災で起きた様々な事を、未来ある子供達の為にも言い伝えて行かないといけないと思っています。私も最近になってから、自分の住んでいる目の前で起きた様々な映像の記録を、義理の兄弟から借りて観てみました。震災の次の日の映像であって、私は泣きながら観ていました。ただ目をそむけたくなる様子もあり、でもここでちゃんと現実を知っておかなければ私は前に進む事が出来ないと思い、泣きながらでも、ちゃんと最後まで観る事が出来ました。私でさえやっと現実を受け止め前に進んで生きて行こうと思う事が出来たのだから、ご遺族の方々は、まだまだ時間が必要なのではないかな~と思います。やっぱり今回の震災は、誰しも想像もしていない出来事であり、そして最近では被災地でも色々な格差が出てきていて、色々なお偉い立場の方々でさえ対応が難しいように思います。ただ桑山先生は色々な批判があっても自分の信念を貫き通しているお姿には被災地に住んでいて私は本当に感謝しております。私に出来る事は今は先生のご活動を陰ながら応援する事位しか出来ませんが、私にも出来る事を見つけて行こうと思います。ただ桑山先生くれぐれもお身体をお大事になさって下さいね!

  9. 北釜のお母さんの言葉胸に沁みます。
    きっと被災された多くの方 それぞれにドラマがあるのだと思います。
    そんなことに気づかせてくれる、桑山先生のブログです。
    毎日のテレビの報道の中では ほとんど感じられなくなっている気づきだから、本当に有難いです。
    このブログを読み、しっかり心に受け止めてきます。
    忙しい中、こうしてブログを書き続けてくださる先生に心から感謝しています。

  10. 現実に死に直面した人は強い!このお母さんは特にすごい!
    自分の運命を正面から受け止めて、身内だけでなく亡くなられた方々に対して、これからの自分の生き方を明確にして責任を持つ。人はここまで強くなれるのは驚きです。同情を超えて挫けずに前進してほしい。そして時たまご自分のための息抜きも忘れずにしてほしいと思います。

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