たくましき美幸さん

 美幸さんは、最初クリニックに喘息の発作でいらっしゃいました。環境の悪い避難所の環境では、まず高齢者の方が多いのでどうしても暖かくしようと夜中ヒーターをつけます。すると空気が乾燥します。また、名取は海側の瓦礫撤去がどんどん進められているので、町中にその埃が舞っており、空気がどうしても濁ります。そんな中で持病の喘息が悪化する方が、ずいぶんいらっしゃるのです。

 女手一つで二人のお子さんを育ててきた美幸さんは今回の津波で家を失いました。しかし途方に暮れているわけには起きません。中学校3年の海君、中学校1年生の睦美ちゃんをちゃんと守っていかなければならないのです。今回お母さんと子どもたちの家庭もずいぶん家を失いました。お母さんとして、一人の人間としていろんなことを一気に求められながらも彼女たちは少しずつ前に進んでいきます。

 2回目の発作の時、美幸さんが言いました。

「ようやくアパートが借りられたんです」

 よかった~。でも仙台市内になり結構遠いのです。クルマも失ったのでなかなかそこの行き来が不自由です。よほど、

「今日は病院に泊まっていってください」

 と言いたかったのですが、美幸さんは健気に、

「子どもたちが避難所で待っているので、帰ります。」

 夜の2時でした。

 そんなつながりができた美幸さんと仲良くなり、金曜日にまた外来でした。すっかり喘息発作もなくなり元気を取り戻していた美幸さんはもう勤めに出ていました。

「前に勤めていた会社の社長さんが、パートだけで雇ってくれたんです」

 嬉しそうでした。子どもたちは閖上中の1年生と3年生です。

「これからね、閖上中学校には足繁く通ってね、できれば演劇とか創り上げていきたいんですよ~」

「ほんとですか?むかし海も睦美も、ミュージカルでたことあるので絶対にやりたがると思います」

「それは、津波のことが題材でも?」

「はい、大丈夫です。特に海は津波のあと、本当にたくましくなりました。前は甘えん坊で私にくっついてばかりだったのに、いつの間にがたくましくなって、めきめき大人になりました」

「そうか・・・」

「子どもたちは、何かを創りたがっていると思います」

 そんな美幸さんは最近名取駅の近くに部屋を見つけることができました。

「引っ越しは?」

「ゴールデンウイークかな~。でも休みが取れないかもしれなくて・・・。」

「閖上の家は?」

「もう傾いてますけど、自分のところは二階だったので、部屋から大切なものは取り出してきたいんです」

「う~ん、ゴールデンウイークに人手があったら、引っ越し手伝わせてくれませんか」

「いいんですか?」

「はい、ぜひ」

 さて、漁師の正さんが来てくれました。すっかり眠れるようになり、良い感じなのですがせっかくなのでバイトをお願いした次第です。それは陸前高田で仕事をしていたうちの副院長、奈実香先生をクルマで迎えに行って帰ってくること。ちゃんと報酬をお支払いしました。その正さんとの会話。

「昨日、正さんの謙信丸、県道10号になかったっすよ」

「はい、撤去しました」

「え?破棄ですか?」

「いえ、直すことにしたんです」

「え?ほんと!!」

「はい、もう一回見てもらったところ、船首の部分を一部分切り取って張り替えれば何とか行けるっていわれました」

「やった~!」

「いや、良かったっす」

「あとは閖上漁港が再開したらもう一回海っすね」

「はい、いつまでも丘に上げときたくないんで」

「よっしゃ~、正さん、一番目の客は絶対にオレを連れて行ってくださいよ」

「はい、わかりました」

「ぜったに約束っすよ」

「任せてください」

 そんな正さんの運転で奈実香先生が帰ってきました。

「いや~正さんって無口でまっすぐですね~。海の男で“正”って一文字だからどれほどムキムキのマッスル青年かと思っていたら結構な優男なんだもの~」

「そのギャップが良いんだよ~」

「でも笑えたのがね、帰りの車中で何か話そうと思って、

 ”正しさんって運転手が仕事なんですよね”

 って聞いたら、

 ”はい、運転手です。ただし、海の”

 ってね~。笑うところなんだか迷っちゃったよ~」

って奈実香先生、笑うところだよね。

 明日は増田西小学校で「肩もみサラダ」です。肩もみと炊き出しですね。乞うご期待!

4/23-1
前回の「肩もみサラダ」の様子(真ん中に明ちゃん)

桑山紀彦

たくましき美幸さん」への13件のフィードバック

  1. 正さんも美幸さんも、一歩前進。ぶち嬉しいです。まだまだ大変な事はたくさんあるじゃろうけど。
    ボランティア、男性何ですね。
    今日は元担任をしていた保護者の方々に会いました。お父さんが二人、被災地に入っていらっしゃいます。一人のお母さんのお友達が石巻出身でどうも家族が見つかっていないのでは、との事。 聞くに聞けなくて…とおっしゃってました。

  2. 桑山先生の文章が、だんだんと明るくなってきていること、嬉しく思います。まだまだ大変だと思いますが、オスロから応援しております。

  3. 美幸さんも正さんも前に進めそうで良かったです。
    正さんの船、直してまた海に出られるようになるんですね。
    その後どうなったかな、と思っていたのでわかって安心しました。有難うございます。
    写真の中の明ちゃんに思わず手を振っています。
    ボランティアには残念ながら参加できないので、5月28日に家族で四街道へ行くことにしました。

  4. 新学期が始まりました。今年ほど、全員揃って新学期が迎えることができることが、どんなに大切かと思った年は初めてです。
    心のケアと一口に言っても、実際には、本当にたくさんの壁があるのだと今週のブログを読んで改めて思いました。
    また、テレビを通じて桑山さんに会えるのを楽しみにしてます。

  5. 少しずつ、この先の見通しや明るい兆しを持てるようになってきた方々の話を伝えてくれて、ブログを通して自分が美幸さんや正さんの親戚にでもなったような気持ちでいます。ボランティア、喜んで参加します。皆さんにかえって負担をかけないように、お役に立てればと思っています。自己完結のスタッフを目指して、今日から準備を始めますね。

  6. このたくさんのブログで 命の大切さを 教えてもらった。
    一人ひとりの人生の重さを
    そして 普通の有り難さを
    そして 人(自分を含めて)の弱さと強さを
    そして 人の 優しさを
    これは、地球のステージが伝えているフルコースですね。
    一歩一歩進まれている皆さんを 誇りに思います。
    微力ながら応援しています。

  7. 皆さん、確実に1歩を歩み始めたんですね
    よかった。
    寄り添ってくださる桑山先生がいらっしゃるのが、皆さんの心の支えになっているんですね
    ホッとして、疲れをおこさないようにご自愛ください。
    張り詰めてた糸をゆっくり緩めていってください。
    私も、頑張ろうっと!!

  8. いいですね!肩もみサラダ・・・
    桑山さんの言葉の端々に涙・・・涙・・・から
    少しずつながら日常をとりもどして行かれる希望の光を
    感じることができます。まだまだこれからですが応援してます。  大阪からエールを送ります。

  9.    空想馬券
     数年前から僕の趣味の一つに競馬がある。そうはいってもなんせ和歌山の田舎に暮らす身にとっては競馬場へ行ったり、場外馬券発売所へ行くことは、まあない。普段はテレビ観戦で、たまに大阪へ行くことがあると、難波WINS(大阪球場の跡地に建った場外馬券売り場)で小額を勝負をするだけである。しかし、金額は小さいといえども少しでもお金が掛かっているとなると、そのドキドキ感はなにものにも変えがたい高揚感がある。こってギャンブルの魅力かもしれないが、たたまに当たると、これが病みつきになる。まあ僕の場合は10回に1回ぐらいしかないが。
     はじめた頃は、競馬新聞を読み込んで馬券を買ったものだが、最近は競馬新聞は当てならないと悟っている。そこで僕は新たな馬券必勝法の研究に没頭し始めたのである。そのための参考文献は「競馬で稼ぐ頭のいい方法」(三笠書房)、「九星馬券のすべて」(三笠書房)「日刊スポーツコンピ馬券で当てる」(日刊スポーツ新聞社)「馬券リンク表を見るだけで当たる本」(東方出版)「馬券は騎手で買え」「四柱推命馬券術」等々を徹底的に読み込んだのである。その結果、出た結論は、もしこれらの本に書いてある通り馬券が当たるなら著者は本など書かずに馬券を自己の開発した方法で買い続けるということである。つまり馬券必勝法などないのである。そうはいっても、僕はギャンブルの魔力には勝てない。資金を投入せず、空想馬券を楽しむことにした。
     今年の新たに購入した本は「まっこと当たるぜよ!軸馬コード馬券」(メタモル出版)。今年はこれで楽しむことにする。
     しかも、本日はクラシックレース皐月賞の日である。これに勝る喜びはない。僕はさっそくこの本の理論に基づき馬券を購入することにした。もちろん、田舎ゆえ、自宅での空想購入である。それは妄想であるかもしれない。
     この本の軸馬コード表から、4番サダムパッテック、6番ダノンミルを選び出す。そこから12番、1番、11番、16番、5番のマルチの30点買いである。この番号の組み合わが1着、2着、3着がくれば大当たりとなる。倍率はおよそ500倍の万馬券である。熟慮の結果の選択である。
     自信をもってスタートの時間を待った。
     ゲートが開き、そして、そこまではよかった。その後のレース展開は散々である。見るのも無残な結果。1着どころか3着まで入ったのは4番のサダムパテックのみ。その他の馬は後ろから数えた方がいい。惨敗である。とほほ・・・・。空想も外れると哀しいものである。もし僕が都会暮らしならどうなっていたであろう。このときばかりは、田舎暮らしに胸を撫で下ろす小心ものである。
     
     レースが終わり、洗面所へ行って小用を済ませたあと、俺って、都会暮らしは向いてないなと、泣きそうな顔を鏡に映しながら考えている。
     和歌山 中尾

  10. たくましい!みんな、ほんとにたくましい。
    東北人のたくましさ?人間の底力なんでしょうね!
    それにつけても復興の糸口さえ見えない福島原発被災者の皆さんのことを考えると胸が痛みます。

  11. 東北は躍動し始めましたね!バイタリティを感じます。
    被災地より弱小の余震に怯えて縮こまっているのが情けない。
    頼られる地球と東北クリニックのみなさんがまぶしく見えます。

  12. この頃時間がなくてコメントできていなかったので久しぶりです。
    美幸さんも正さんも少しずつだけど着実に前進しているんですね。名取市の瓦礫の撤去も進んでいるようで安心しました。
    それに、何より桑山さんのブログが明るくなってほっとしてます。
    まだまだ大変だと思いますが頑張ってください。
    出来ることは限られていますがこれからも応援しています。
    私もボランティアに行くチャンスがあれば行きたいです。

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