グラミンさん

先週末の中日新聞にグラミン銀行総裁のユヌス・グラミンさんの記事が載っていました。
 バングラディシュを中心に低所得層向けの融資で貧困に立ち向かい、無担保ながら実に98%の返済率をほこるこのグラミン銀行は、その貧困対策の実効性ゆえに、06年にノーベル平和賞を受賞されています。
 そのグラミンさんが立教大などの招きで来日し、中日新聞が単独取材した記事でしたが、とても含蓄のあるものでした。
 まずグラミンさんは今回の世界的な金融危機について、
 「金融街の一握りの人々がどん欲になり、市場が賭博場になった。価値のない紙切れの売買で架空の経済を膨らませ、城を建てたもの。土台は簡単に崩れ城が崩壊した」
 そしてさらに、
 「経済制度自体も偏っていた。従来型の資本主義では、人間は自分の利益を最大限に追求する存在で、企業も利益だけを追求するものだと考えられてきた。この風潮の中、人々のエネルギーは利益追求だけに注がれてきた。それが行き過ぎ、極端に強欲な人間を生んでしまった」
 
 そしてそれをどう改善するのか、という質問に対して、
 「人間の中には自分の利益を追求する”利己”の本能のほかに、他人のために何かをする”無私”の本能もある。利益だけを追求するのではなく、”無私”の本能に根ざして、人助けを目的とした企業も必要だ。私はそれを社会的企業(ソーシャル・ビジネス)と呼ぶ。
 株主利益の最大化を目指す企業に加え、社会的利益を目指す企業があれば、資本主義はもっとよくなる。グラミン銀行は後者の新型企業だ。」
 グラミンさんは、「融資は人間の基本的人権なのだ」といいます。
 貧困にあえいできた女性が、意志を持ってグラミン銀行に行き、30ドルを融資してもらった瞬間、その30ドル札を持つ手が震えたそうです。彼女はそこで思いました。
 「見ず知らずの人が私をこんなに信用してくれる、何としても信頼を裏切らないようにしよう」
 そして彼女はそのお金で鶏を買い、卵を売って週60セントずつ返し、1年後に借金を完済します。自信を得た彼女は次は100ドル借りて牛を飼い、牛乳販売を始めました。
 グラミンさんは、
 「私たちは借り手と貸し手の信頼にもとづく銀行なのだ」
 といいます。
 その結果返済率98%を誇っているのです。
 ここで出てきた「社会的企業」とは、実に大切な言葉のように思います。
 人間の中にある自分の利益を追求するという、大切な欲と、もう一つ、他人のために何かしたいという、これまた大切な欲の2つがバランスよく機能していくために、その後者の欲を実現するような企業がもっとたくさんあるといい、そうグラミンさんはいっているのではないでしょうか。
 東ティモールのダン先生のあまりの「無私」の姿に、僕たちはいつも励まされ、「じゃあ僕たちにも何かできることはないかなあ」と思い始める。
 そんな「無私」でありたいと思う自分と、時には自分の利益をどん欲に追求する姿の二つがいい感じで人間の中に共存することが、ある意味ではとても理想的なのかもしれません。
 「地球のステージ」や秋に開業する「東北国際協力クリニック」はそんな、社会的企業(ソーシャル・ビジネス)でありたいと願います。
 医療分野については特に「社会的医療(ソーシャル・メディシン)」を目指したい。
  社会的企業、社会的医療、それがきっと私たちが目指すところのように思えてきて、このグラミンさんの記事は「保存版」になりました。
桑山紀彦

グラミンさん」への5件のフィードバック

  1. 桑山さん、グラミンさんの考えに大賛成です。わたしには何かできるんだろう…?  東北国際クリニックの情報をくださいませんか?

  2. NPO法から10年。昨年から色々なNPO向けのセミナーで、「いよいよ日本でも本格的なNPO活動のあり方が確立されるときを迎える」と伺うたびに勇気づけられてきました。多くの社会起業家は始まりは小さく、でも、諦めずに続ける。その先に見える希望はどんなに遠くはるかな道のりでも、諦めなければ必ずたどり着ける。ボランティアでもあり市民活動でもあり、事業家でもある、社会起業家としてのあり方を「地球のステージ」から学びました。利他と利己のバランスを取れるような取り組みが未来をつなぐのでしょうね。ソーシャルキャピタルをつないでいく。そこにも地球のステージの大きな意味を感じます。

  3. グラミンさんの意志は山元さん同様に心から尊敬します 30年前僕は昔移り住んだ山形県の鶴岡市で驚いた事がありました。生活協同組合への世帯加入率が5割を越えてのいたのです。10万人都市として四人暮らしだと12500世帯が加入している事になます。現在では健康食材や日常品の宅配で使い勝手の良さで利用されていますが 30年前は農薬散布は当たり前 安全より安さで選ぶ時代での事です。農家の方は出荷する作物は食べず、自宅分は別に作付します。
    そんな時代背景があって 何故生協へ加入しているのか不思議で1年かけて個別にアンケート調査をしました。
    それでわかった事は加入の意志をした人はほとんどが高齢者でした。班の会合にも参加しましたが皆おばあさんでした。
    息子や嫁の反応は生協はおばあさんの世代の遺物と極めて当時の風潮らしい結果がわかりました。(安いものを選ぶとか地元の商店より大型店を選ぶとか)
    何故おばあちゃん達は生協に加入したのか わかってきました かつての日本には貧困があり無医療の時代があった 鶴岡市も鉄道が不備で陸の孤島の時代があった事を知りました。冬に化石燃料の品薄で暖をとれない家に佐藤日出夫という人は自転車で雪中を押して届けたのがわかってきました。その佐藤さんの想いを受け止めたおばあさん世代が鶴岡市にはあったようです。
    佐藤さんはお医者さんのいないので医療生協も作っていました。
    行政に依存するのではなく自分達の平和は自分達で作る 佐藤さんは人口10万人たらずの生協を牽引していましたが 後に日本生協連合会の副会長にもなっていました。イギリスのロッチデールで発祥した生協 資産家に売上を搾取され貧困にあえぐ時 生活を相互扶助していく理念が生まれたようです。 大量に仕入れると安く買える それを佐藤さんは鶴岡市に持ち込み貧困をしのいだんだとわかりました。
    佐藤さんは鶴岡市にダイエーが進出した時 不買運動をしました。
    ダイエーは資本力で地元の卸売業を壊滅させます。大手は大量生産で製造した製品を大手地元から大量入荷します。安い魅力はあるものの 地元の製造業者はつぶれます。
    シャッター街が増えていきます。
    そして地方の経済は子孫を雇用できず都会に人は集中します。
    コンビニエンスはデパートやスーパーが不振の中 売上を伸ばしています。
    コンビニが意図する商圏は半径0.5キロ。

  4. 今日の桑山先生のお話(いつも先生のお顔を思い浮かべながら拝読させていただいております)こそ、私にとって保存版となりました。時代を創り、人の本当の幸せを未来へつなぐ心の温もりがこのお話の中につまってると感じ、涙が溢れました。未来を託す子ども達にどんな背中を見せていくかで大人達が試される時代ですね。ここまで考えた時、いつもなかなか側にはいられないご家族への桑山先生の奥深い広い、そして未来へつながる本物の愛情に気づきました。『地球のステージ』との出逢いに感謝です。ステージに出逢わせてくださったすべての方々に、ありがとう!です。

  5. グラミン銀行の名前を聞いたことはありました。今回、桑山さんに詳しくていねいに説明していただき、とてもわかりやすかったです。何回も何回も読み返したくなりました。私の保存版です。
    世界に社会的企業が増えてほしいなぁと心から願いたくなりました。地球温暖化や環境破壊も気になります。
    きょう、小学校の卒業式に地域の者として出席しました。一人一人の子ども達がいとおしくなりました。子ども達は毎年大きく成長します。
    おとなとして、子ども達にどんな社会を託せるのだろうか、と考えた一日でした。

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