ミャッセ・ミャー村~その1

8ヶ月ぶりに再会したイェイェさんは、ピンクのワンピースを着て、あの時のパオ族の真っ黒な衣装とはまた違う華やかさを称えていました。

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 タウンジー大学英語科の4年生。卒業試験の直前ですがこうして村に案内してくれました。

 彼女はパオ族のミャセ・ミャ村の出身。空港からクルマで30分ほどの距離ですが、主要国道を左折すると鮮やかな赤土のオフロードが続き、灌漑用水用の大きなため池のほとりを過ぎて、なだらかな丘陵地の背にその村が拡がっていました。

 人口は930人。自然豊かな農業の村です。イェイェさんのうちもまた専業の農家で、インター族のお父さんとパオ族のお母さんが大きく農業を営む、村でも豪農に近い規模を誇っていました。実に8人兄弟の5番目であるイェイェさん。一番上から姉、兄、姉、兄、自分、弟、妹、弟と、完璧に男女の順番で並んだめでたい一家の三女です。

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 お母さんはそれはそれは笑顔の美しい、パオ族の女性です。

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 さっそくイェイェさんの家に三役が集まりました。村の三役、それはチオトゥ村長、ティオン僧院長、アン青年部長。この3人が村の行政を回しています。しかしミャンマーではその上に僧院の僧侶が位置します。彼は物静かだけれど、

「最後の決定はいつも彼がする」

 といわれるほど、村民の信頼を集めている老僧です。

 さて、イェイェさん、三役、イェイェさんの家族がそろって大懇談会が始まりました。テーマはもちろん「今の村にある問題とは何か」です。

 若き村長が言います。

「農業は順調だ。みんなよく働くし作物もほどほどできている。でも、道が問題だ。雨期にはぬかるんでまともに走れない。せっかく作った作物を運べなくてだめにしてしまうこともある。」

 僧院長がいいます。

「健康問題は深刻だ。みんな安い油を買っては体調を壊している。身体の健康を守るための知識が少ないんだ。」

 青年部長もいいます。

「季節の変わり目にはみんな体調を崩す。でも近くに病院がないからみんなそのままだ。この村には絶対にクリニックが必要だ。」

 みんな大きくうなずいていました。

 そこでこちらから切り出しました。

「私たちはイェイェさんに出逢って感動しました。彼女は村ではほぼあり得ないといわれている大学に通っている。それは自分がこの村を変えたいと思い、そのためには多くの人がこの村に来るべきと考え、その時の言葉の壁を取り払うために英語を学んでいるとききました。

 そんなイェイェさんの村に来て、できれば教育の支援を行いたいと考えています。それはイェイェさんが強く望んでいることだからです。村をよくするために子どもたちが教育を受けることが大切だと、イェイェさんは言いました。」

 調べてみると、この930人の村の中で子どもの数は約300人。村内にある小学校には52名が通っていて就学率は約70%程度。

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 一方村から歩けば1時間もかかる国道に近い中学校には27名が通っており、その就学率は約30%。同じ敷地内にある高等学校には4名が通っており、その就学率は実に3%。その先の大学にはイェイェさんともう一人だけが通いその就学率は0.1%以下。中学校までは基本的に無料のはずなのに、距離が遠いので交通費がかかっていることや、ノート、鉛筆などの文具は全て自己負担なので年間結構なお金がかかるのが現状です。だから町から離れたイェイェさんの村の子どもたちは就学率が低くなっています。

 その一方で思うことがあったので思いきって聞いてみました。

「しかし、村の中には子どもたちを重要な労働力と考え、学校は小学校くらいで十分と考えている人もいるはず。それでも、教育は大切だと考えますか?」

 一瞬沈黙が流れ、ゆっくりと僧院長が語りました。

「私が子どもの頃は小学校を卒業することが精一杯で、全く上の学校には行けませんでした。もうそんな思いを自分の子どもにはさせたくないのです。だから子どもたちは「労働力」ではなく、教育を受けるべきだと考えています。」

 みんな親としてまっとうな教育を受けさせてあげたいと願っているのです。

 ミャンマーは周辺国と比べても識字率が極めて高く、一人がする募金の額はなんと世界第2位(第一位はアメリカです)というお国柄。非常に人々は意識化されています。でも、現実問題として経済的な苦しさが故に学校をあきらめる子どもたちが多く存在することが見えてきました。

 その実際の様子を把握するべく、僕たちはイェイェさんと共に小学校、中学校、そして高校を訪れました。そこで分かってきたことが!

(明日に続く)

 

 

桑山紀彦

 

 

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