ファラッハと会いました。
彼女は昨年制作した映画「ふしぎな石~ガザの空」の主演をつとめた11歳の少女です。この3月20日に12歳になります。子どもってこんなに成長するのか、と思ったのはジャワ島中部大震災で出逢ったリサ・スリシアーナでした。1年ぶりに会ってみるとあんなにシャイで人の影に隠れている存在だったリサが、リーダーとして仲間を引っ張っていく存在に変わり、子どもの成長に驚かされたものです。
そんなジャワ島のリサもこの9月でついに助産師学校を卒業することとなり、「ジャワ島のリサを助産師にする」プロジェクトによって集められたお金のおかげで彼女は自分の夢をつかむ直前までやってきました。皆さんの募金のおかげです。
さて、ファラッハの変化。それは表情、語り口調、語る内容のすべてにおいて前向きで、何かを抱え込んだような2年前のファラッハではなくなっていました。「一歩も二歩も前に出る」そんな力を身につけていました。
お父さんが言いました。
「この子は、あの映画に出たことで多くのものを得ました。力強さ、がんばり、全てにおいて前向きになりました。先日の期末試験では総合93点。でも私はもっとがんばれると思い、目標は99点だと励ましています。」
う~ん、学業成績が優先されるパレスチナらしい評価の仕方ですが、これもまたファラッハの努力の力が増したからだと言っているお父さんの見方も、あながち間違っているわけではないと思います。
さて、そんなファラッハに聞いてみました。
「今の夢は?」
「う~ん、二つあるんだ。」
「何?」
「一つは演技を勉強して役者になること。もう一つは心のお医者さん。」
子どもたちは、私たちの活動から何かを得て次の夢につないでいくようです。
「お母さんはどう思っているだろう。」
「感謝していると思う。私をいつも見守ってくれているのがわかるよ。」
一番ききたかった言葉でした。
でももう一つききました。
「これを”北の国”の人たちにも見てほしい?」
「・・・」
ファラッハは一瞬困惑しました。そして少したってこう答えました。
「映画を見てくれた先生が言ったんだ。この映画は私たちの聖地エルサレムを取り返す大きな力を持っている。よくやったねって。」
「・・・」
今度は僕が困惑しました。
これが現実。ある大人は、この映画の中に「敵」に対抗できる力を感じたようでした。
もう少し質問を続けました。
「愛や優しさの方が暴力よりも力を持っていると思う?」
「もちろんだよ。」
「この映画はどっちの力があると思う?」
「愛や優しさだと思う。」
そしてファラッハは続けました。
「だから先生は、この映画が聖地エルサレムを取り返す力を持っているって言ってくれたんだよ。」
生まれてからずっとこの地に住み、一回も外の世界を見たことがないファラッハ。この映画がきっかけでどこかの国に招待され、広い世界を見た時に、愛や優しさが持つ力を本当は何に使うべきなのか、学んでくれるといいと思いました。
私たちはこのパレスチナでやらなければならない事がたくさんありそうです。
また一つの「課題」をもらうことが出来たファラッハ。その心の中は余りに澄んでおり、ほぼ透明だと思います。そこに大人たちの怒りや憎しみの構図を入れさせないために何が出来るのか、次の映画シナリオのヒントを得たように思います。
子どもたちから学ぶことは、本当にたくさんあります。彼ら彼女らが見るもの、感じるもの、そして思うことをよく理解すれば、私たち大人がするべきことが見えてくるように思いました。
石が光らないでも構成できる映画を考えなければならない…。
ファラッハはいつも僕の中での主演女優です。
桑山紀彦
彼女の言葉にまだ穢れのない清水のような純粋さと
この年齢では考えられない一途でしっかりした目標
を語っているのが驚きです。
確かに、彼女なりにパレスチナの現実の中の夢なのでしょうね。