フェアプレーと、混乱と

午前中は16歳以下の少年たちのサッカーを審判しました。
 とてもスピードのある試合で、レベルの高さにびっくりすると同時に、こちらが出す「ファウル」の指摘と、直後の切り替えの素直さにびっくりしました。
 経済封鎖の続くラファの町は常に圧迫感と閉塞感があります。それでも少年たちはひとつのボールを一生懸命に追いかけ、感嘆し、また落胆します。そんな喜怒哀楽の時間を共に過ごすと、やはり彼らが愛おしくなり、精いっぱいこの少年たちを応援しようと気持ちになるものです。
 今回の仕事はこのラファの町で福祉協議会を運営するダルウイーッシュという盟友が中心となり、「ラファ市スポーツ文化協会」が動いて、一大サッカー大会になっているのです。そのひとつが昨日紹介した「明日への微笑み」サッカー大会ですが、そちらはもう成人男性対象のサッカー大会なので、怖いの何の・・・。
 しかし一方で少年たちとのサッカー・ワークショップは実に実り多く、いくつかのフェアプレーにも支えられて、今後のラファの子どもたちに対するスポーツ系ワークショップのあり方に、大きな示唆をもらいました。
少年サッカー
少年たちのサッカーゲーム
 そんな夕方、いよいよ「明日への微笑み」大会です。
 始まる10分前、ダルウーッシュが神妙な面持ちで、
 「ケイ、この試合の審判はやめたほうがいい」
 「なんで?」
 「このチームは難民地域で隣同士住むもの同士のチームだ。前回も乱闘になり、大混乱になって試合は中断した、いわく付きのチーム同士なんだ」
 「そ、そうか~。わかった、見学にする」
 いつになく素直に応じたのは、やはり始まる前から漂う不穏な雰囲気を感じていたからかも知れません。
 案の定、試合が始まると周りが騒ぎだします。主審は一生懸命それを抑え、線審も必死にラインを守ります。それでもラフプレーはラフプレーですから主審が細かにファウルをとっていくと、双方からやじが・・・。これはまずい雰囲気です。
 前半が終わった瞬間、双方の監督と支援者たちが主審に詰め寄ります。
 「おまえ、ファウルとりすぎだぞ!」
 「おい、一方に偏りすぎてるだろう!」
 う~ん、試合にでなくて良かった~と思うと同時に、それでも毅然として取り合わない主審の姿勢に感動しました。
 さて後半です。
 にわかに荒れだしました。双方の応援団がコートの内側ににじり寄ります。ついに線審がこらえ切れず、
 「コラ、もっと下れ。コートに入っているだろう!」
 と指摘すると、それを受けて主審が試合中断の笛を吹きました。その途端、双方の監督と仲間が一気になだれ込んできて、コートは大混乱に!一方の監督がもう一方に殴りかかっていきました。もう収集つきません。ダルウイーッシュもあきれて、
「前回もこうだった。進歩がないよ」
 結局試合は流れ、双方にメリットなど何もありませんでした。
 この状態を目の当たりにして、思いました。
 「みんな、限界状況の中で生きている」
 ちょっとした刺激が、人間の本能に触れる怒りや腹立たしさにつながっていきます。それを小出しに発散してもらおうと、今回の一大サッカー大会を企画したのですが、これでは逆効果はないでしょうか。
サッカーの騒乱
取っ組み合いのケンカが始まる
 様子を見ている限りでは、
 「これでは何となく流されて、カッカと来てしまい銃を持ってしまう人も多いかもしれない」
と思えてきます。ここに、今のガザ地区が置かれている状況の本当の姿があるように思いました。
 ダルウイーッシュが言いました。
 「みんな難民出身者だ。早い者勝ち、強者が生き残る世界に生きている。生きるために必死なんだ。そこにはサッカーのルールが通用しないメンタリティが派生してくる。この乱闘騒ぎもある意味では“自然な流れ”なんだよ」
 「でもそれでいいのかな」
 「そう、だから心理社会的ワークショップが必要なんだよ。今日の午前中にケイが主審した子どもたち、ちゃんとルールを守り、ファウルの指摘にも従ったよな。そうやってより小さい頃からちゃんとルールを守り、相手を思いやる気持ちを育てていけば、このガザ地区も変わると思いたいんだよ」
 まさにその通り。
 そんなダルウイーッシュたちを支援し続けることが、当面の「地球のステージ」のパレスチナ事業になります。
 月曜日、ガザ地区を離れ、ヨルダンに移ってイラク難民の子どもたちのケアに携わります。

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