なぜ桑山がガザに入らないのか

皆様の中には、なぜ桑山はガザに今回入らないのかと疑問をお持ちの方もいらっしゃると思います。
　前回2009年は無茶を押して空爆の中で活動しました。その中で学んだことは大きかったですから、今回もきっと入るのだろうと期待している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
　しかし、今回は9月14日から入る予定ですすめていますが、一番大変でラファの仲間たちが一番苦しんでいる時に入りませんでした。それにはいくつか理由があります。
１）現地のパレスチナ人スタッフが自ら立ち上がり、「自分たちが救援活動をやる」と言ってくれたこと。
　これにより、危険を冒して桑山らが行かなくても、現地での救援が可能になった、そんな時代になっています。
２）外務省と大使館が強く、入域を止めるように言っている。
　現在私たちは外務省から年間2500万円近いODAの補助金を得て活動しています。それはすなわち外務省は私たちの大切なパートナーであるということです。2009年頃はずっとそうであったように自己資金のみで活動していましたので、外務省や大使館の遺構を気にすることはありませんでした。しかし、今は重要なパートナーです。そんなパートナーの意見は無視できません。
３）ステージの予定、国内活動の予定、診療の予定が容易には動かせない。
　これも大きな理由です。2009年の時は、偶然ですがパレスチナに入る予定で既に現地に行っていました。だから自由に行動できる時間がありましたが、今回は既に入っているステージがよけられないことと、「シネマ・ワークショップ・トレーニング」を開催しているまっただ中だったので行くことは困難を極めていました。
　ということで、今回は現地のうちのスタッフを資金的に支援することで窮状の打開を図ってきました。何も無理をして行くだけが「支援」ではないということです。
　そしてこの7月30日～8月8日までびっしりと入れた「シネマワークショップ・トレーニング」は、桑山に撮って初めての「映画撮影を教える」ための訓練プログラムを実施したものなのです。
　ガザ駐在の我がスタッフ前田那美子と、NICCO（日本国際民間協力会：京都市）のシリア難民支援スタッフの原口祐己さんを迎えて、毎日毎日映像制作のノウハウを教えていました。
　まずは基礎知識からカメラの扱い、録音の方法、編集技術の伝達。毎日くたくたになるまで、真っ黒に日焼けするほど外に出てカメラをまわし、編集して作品をつくりながら学んでもらいました。
　こういった「技術」というものは人に教えることでますます自分の中で確固たるものになって行きますが、この18年で蓄積したノウハウは非常に大きなものであり、改めて映像と音楽の世界で生きてきたんだなあということを感じました。
　二人とも、とってもの見込みが早く、立派な作品を創り上げていきました。

　閖上中学校のロケも必死です。

　海辺でのロケもありました。みんな真っ黒に日焼けしました。

　ナレーションの方法も詳しく勉強しました。
　うちの那美子さんは8月18日にはまずイスラエルサイドに入る予定です。
　原口さんは今日の便でヨルダンに飛んだはずです。シリア難民キャンプ「ザアタリ」でいい映画が作れるといいですね。
　那美子さんが学んだノウハウで、この11月からはガザのラファ市を舞台に子どもたちと映画を制作していきます。それもまさに「心のケア」。だから僕たちはあえて空爆の厳しかったその時も、「近い将来のラファのために必要なことなのだ」と思い、行かなければならない、けれど事情がなかなか許さない、という苦しい気持ちの中、シネマワークショップ・トレーニングに臨んできました。
原口さんが創った作品第一号は→こちら
　こういう支援もあっていいのだと思っています。
桑山紀彦