ヨルダンでの仕事が終わりました。
イラク難民の支援を心理社会的ケアということで行っていますが、NICCO(日本国際民間協力会)のスーパーバイザーである桑山は、ずっとこの仕事をさせてもらっています。
今日は、アンマン市内の豪奢な会議場を借り、この分野に興味と関心のある政府関係、国連関係、NGO関係のスタッフが集い、桑山の講義を聴くという、なんともえらそうな内容なのです。
全編を英語でしゃべり、質疑応答も英語という過酷な環境ですが、スリランカ、ペルーで同じような講座を担当してきたので慣れてはいますが、やはり大変疲れます。
途中で、実際に参加者の皆さんにワークショップをしてもらいました。
題して「針金の人生」
針金を自分の人生に見立てて折り曲げて、人生のアップ&ダウンを表現してもらいます。
そしてその要所要所のターニングポイント(折れ曲がり部分)に、粘土でそれを象徴するもの(Icon)を作り貼り付けます。
そして発表するのです。
イラクから逃れてきて、今国際機関で働いているサバーさんは75歳。針金を使って語り始めました。
サバーさん
「ワシの人生は75年、この短い針金にたとえるには長すぎるから、途中から表現したよ。
あの頃のイラクは平和だった。
暮らしに不自由はなく、人々は平和に暮らしていた。
それを表すなら粘土は「白」。誠実と安定を示す色だ。
しかし、あの日から人生は転げ落ちた。
独裁政権が始まり、国は戦争へ向かって転げ落ちていった。
だからワシの針金は急激に落ちていく。そして色は「赤」。戦争と血の色だ。
どん底まできたワシは一大決心をした。すべてを捨てて、この国をでよう、と。
そしてヨルダンにきた。
人生の針金は、一見上り坂に見えているが、そうではない、ワシはそこに黄色の粘土をつけた。それは「苦労」の色だ。
ヨルダンでもいろんな困難に出会った。
いじめや阻害、差別に出会った。
そして再び、人生の転機が訪れた。家族の死だ。大切な家族を失った。だからそこに悲しみの色、「赤」をつけたよ。
それでもがんばれば、この国に居場所が見つかっていった。
仕事を得て、少しずつだけど仲間も得た。だから、安定を表す「白」の粘土をつけた。
それでも、困難はやって来る。
また家族を失った。
肉親の死はいつも辛いが、容赦なくやって来る。だからそこには悲しみの「赤」の粘土。
そして、いろんな苦労をしながらも、今の仕事を得て、人生は少しずつ上り調子のようにも感じられる。
そしてこの針金のはじっこの部分、そう「現在」。
そこにワシは粘土をつけられなかった。
これからのワシはどうなっていくのか、どうするといいのか、はっきりとわからないのだ。
だから今そこに粘土はない。
がんばっても苦労はやって来る。しかし努力を止めたら人生は下り坂だ。だから、人生はいかようにも変わりうるのだと信じて、粘土をつけない。
そう、この年になっても、ワシは将来をあきらめないのだ。
だからワシはそこに今は粘土をつけない。
それこそが、ワシの人生だからだ。」
聞きながら、涙が出てきました。
平和だった頃の祖国、イラク。二転三転する人生。それを針金と粘土を使ってちゃんと表現してくださったサバーさん。
最後に握手した手は忘れられません。
「今日、遠い日本からきた君にここで会えた。そういう幸せが人生をいいほうに変えて行く。だから、ワシの針金の人生は、ぴょんと上を向いているじゃろ!」
暖かい、手だった。
明日、アリッサに会いにクロアチアへ行きます。
くわやまのりひこ
なんとも満たされた思いになりました。
今をしっかりと生きたい・・・改めて思います。
そう、誠実に・・・
涙と力
大変、素晴らしいお仕事ですね。
感動しました。
今井二朗